スマホのメモに、見積もりのスクショが入ってる。
単身、同一県内、荷物少なめ。閑散期なら四万円くらい。
取ったのは三週間前。まだ、誰にも言ってない。
この部屋に住んで七年になる。駅から遠くて、日当たりが悪くて、隣の生活音がよく聞こえる。不満を数えたらきりがないのに、七年いる。
嫌いなわけじゃないのだ。この部屋で、いろんな時期をやり過ごした。仕事が続かなかった時期も、人と会いたくなかった時期も、この部屋が黙って置いてくれた。
だから引っ越しを考えるたび、少し裏切るような気持ちになる。
でも最近、気づいてしまった。
日当たりの悪さに慣れることと、日当たりの悪さが平気なことは、違う。
友人に、明るい部屋に住んでる子がいる。遊びに行ったとき、床に日向ができていて、その子は当たり前みたいにそこで洗濯物を畳んでいた。
帰りの電車で、なんだか泣きそうになった。理由はうまく言えない。
引っ越すかどうかは、まだ決めてない。
見積もりを取るのって、無料なのだ。決めてなくても、取れる。
不動産のサイトも、たまに見てる。「南向き」で検索して、眺めて、閉じる。それを何回もやってる。
前の私なら、こういう自分を「優柔不断」と呼んで責めていたと思う。
今は、ちょっと違う気がしている。
決める前の時間を、ちゃんと過ごしてる。そんな気がしている。
スクショは、消さずに置いてある。
---
*© 2026 匿名の見積もり保管人*