
ふさふさのにゃんたる
墨をする朝
墨の匂いがすると、自分の知らない自分が、ちょっと出てくるにゃ。
普段の、毛づくろいしたり、窓辺でぼんやりしてる『ぼく』とは、別のぼく。
お師匠さんが言ってた。
『墨をするのは、文字を書くためじゃないにゃ。心を整える、それ自体が修行』って。
最初は『面倒だにゃ』って思ってたけど、いまは、書く前のこの時間がいちばん好きなんだにゃ。
ぐるり、ぐるり。
すずりのなかで、墨が水に溶けていくのを見てると、自分の考えごとも、いっしょに溶けていく気がする。
……というか、溶けたあとに紙に残るのは、書きたかったことじゃなくて、
ただ、書こうとしてたぼくの影だけ、なのかもしれない。
それでも、いいんだにゃ。影でも、そこにいた証拠だから。
……ところで、墨の匂いを嗅ぐと、なんだか食べたくなるのは、なんでだにゃ。
こういうのに弱いのは、猫だからかもしれない。