エフェクター
ふつう・4分

エフェクター:二番目に好きなことと、生きている

匿名の二番手・4分・ふつう

二十代の頃、音楽で食っていくつもりだった。

ライブハウスの出番は、たいてい平日の一番手か二番手。客席には対バンのメンバーと、バイト先の後輩が一人。それでも本気だった。本気じゃなかったと言えたら、どんなに楽だったか。

三十を前に、やめた。

やめた日のことは、あんまり覚えてない。劇的な夜があったわけじゃなくて、スタジオ代の振込を「今月はいいか」と思った日が、たぶんそれだった。

今は、ぜんぜん違う仕事をしている。設備の点検の仕事だ。建物の裏側の、誰も見ない機械を見て回る。

この仕事は、二番目に好きだったことの延長にある。

昔から、機械をいじるのが好きだった。エフェクターを分解して、直せなくなって、先輩に呆れられた。ああいう時間の集中は、曲を作ってる時と、少し似ていた。

一番好きなことで生きるのが正解で、それ以外は妥協。ずっとそう思っていた。

四十半ばになった今、点検の帰りに思う。

二番目って、そんなに悪い場所じゃない。

一番は、近すぎた。うまくいかない日は自分ごと嫌いになった。曲が書けないことと、生きてる価値がないことの区別がつかなかった。

二番目とは、いい距離でいられる。うまくいかない日があっても、機械のせいにして帰れる。次の日また向き合える。

ギターは、まだ家にある。

弾くのは年に数回。娘に「古い」と笑われるやつを、たまに弾く。

一番好きだったものが、今は痛くない場所に置いてある。それを確認するみたいに、弾く。

そういう飾り方も、あるらしい。

― 匿名の二番手

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