結婚しなかった。子どもも産まなかった。
40代半ば。独身。賃貸アパートに一人暮らし。いや、一人じゃない。犬がいる。
柴犬のハチ。オス、7歳。
これが、私の家族だ。
20代の頃は、結婚するもんだと思ってた。30までには、って。でも、30になっても相手はいなかった。
30代、焦った。婚活もした。でも、うまくいかなかった。というか、途中でどうでもよくなった。
「なんで結婚しなきゃいけないんだろう」
その答えが、見つからなかった。
35歳のとき、犬を飼い始めた。ペットショップで売れ残っていたハチ。誰にも選ばれなくて、値段が下がっていた。なんか、私と似てるなと思って、連れて帰った。
ハチとの生活が始まった。
朝、ハチに起こされる。散歩に行く。ご飯をあげる。仕事に行く。帰ってくると、ハチが待っている。また散歩に行く。一緒にソファに座る。テレビを見る。ハチは私の足元で寝る。
それだけ。でも、それでいい。
友達は、みんな結婚した。子どもができた。家を買った。「幸せそう」だった。
私も幸せそうに見えるだろうか。わからない。でも、不幸じゃない。
ハチは何も求めてこない。ご飯と散歩と、時々撫でてもらえれば満足。文句も言わない。期待もしない。ただ、そこにいる。
人間関係は、疲れる。期待されて、応えられなくて、失望されて。そのループが、私は苦手だった。
でも、ハチとは違う。私が何をしても、しなくても、ハチは私を見る。尻尾を振る。それだけで、私は救われる。
「子ども、産まなくていいの?」
親に言われた。「後悔するよ」って。
でも、後悔してない。今のところ。
もしかしたら、10年後、20年後、後悔するかもしれない。でも、それはその時考える。今は、ハチがいる。それで十分。
世間の「普通」からは外れている。結婚して、子どもを産んで、家族を作る。それが「幸せ」だとされている。
でも、私は思う。幸せって、一つじゃない。
犬と二人で暮らす人生。それも、ありだ。
ハチは、あと何年生きるだろう。柴犬の寿命は15年くらい。あと8年。
その後、どうするかは、わからない。また犬を飼うかもしれない。一人になるかもしれない。
でも、それでもいい。今、この瞬間が幸せなら、それで十分だ。
昨日、ハチと公園に行った。ハチは芝生を走り回った。楽しそうだった。私も笑った。
帰り道、ハチが私を見上げた。その目が、優しかった。
「ありがとう」
そう思った。ハチに、この人生に、自分に。
想定外の人生。でも、悪くない。
むしろ、最高かもしれない。
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