10年いた東京を出た。
大学進学で上京して、そのまま就職して、気づいたら32歳になっていた。
東京は便利だった。何でもある。どこにでも行ける。
でも、何でもあるのに、何かが足りなかった。
朝、満員電車に押し込まれる。
昼、コンビニのおにぎりをデスクで食べる。
夜、疲れてコンビニ弁当を買って帰る。
休日、どこに行っても人がいる。
友達はいた。でも、みんな忙しい。会うのは月に一度あるかないか。
LINEは毎日してるのに、なぜか寂しい。
あるとき帰省したら、実家の近くの田んぼが夕日に光っていた。
なんでもない景色だった。高校の時は何も感じなかった。
でもその日は、しばらく立ち止まって見ていた。
帰りの新幹線で、泣いた。
翌月、退職届を出した。
地元に戻ってから1年が経つ。
給料は下がった。3割くらい。
おしゃれなカフェもない。映画館は車で40分。
Amazonのお急ぎ便は翌日じゃなくて翌々日。
でも。
朝、窓を開けると山が見える。
スーパーの野菜が安くて新鮮で、自炊するようになった。
高校の同級生と月に何回か飲む。「変わんねーな」って笑い合う。
母親の作ったご飯を、週に一度食べに行く。
通勤は車で15分。満員電車はない。
夜、星が見える。東京では見えなかった。
こんなの、贅沢じゃないですか。
友達に「もったいない」って言われた。
「東京でキャリア積んでたのに」って。
もったいないのかもしれない。キャリア的には後退したと思う。
年収も下がったし、転職市場では不利だろう。
でも、もったいなくない人生って何だろう。
給料が高くて、都会に住んで、キャリアを積んで。
それが「もったいなくない」なら、私はもったいない人生でいい。
田んぼが光る夕方に、自転車を走らせながら思う。
ここでいい。ここがいい。
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