ペンの色
ふつう・3分

ペンの色:人に聞いてばかりの人生だった

匿名の優柔不断・3分・ふつう

ランチのメニューが決められない。

「先に決めていいよ」と言いながら、相手が頼むものを聞いてから決める。そういう人生を、四十年やってきた。

進路も、就職も、髪型も、誰かに聞いてから決めた。母に、先生に、友人に、美容師さんに。「どう思う?」が口癖だった。

自分で決められない人間は、だめな人間。

そう思っていたから、ずっと隠すように生きてきた。「決められる人」の真似をして、あとで一人で不安になっていた。

変わったきっかけは、大きな話じゃない。

職場に、私より決められない人が入ってきたのだ。その人は、備品のペンの色まで人に聞く。正直、最初は苛々した。

でもある日、その人が言った。

「聞いた方が、いいものになる気がして」

悪びれもせず、そう言った。

帰り道、ずっとその言葉を考えていた。

私は「決められないから」聞いていた。その人は「良くしたいから」聞いていた。やってることは同じなのに、抱えてる荷物の重さがぜんぶ違った。

思い返せば、私の人生の大事なところには、いつも誰かの声が入っている。進路も、就職も、聞いた相手の顔ごと覚えている。

全部ひとりで決めた人生より、それは貧しいんだろうか。

最近は、こう思うことにしている。

聞くのも、決め方のひとつ。

聞いて、最後に「そうします」と言ったのは、いつも私だった。それなら、決めてきたのも私だ。

今日のランチも、たぶん聞く。

「どっちがおいしそう?」から始まる昼休みは、割と、嫌いじゃない。

― 匿名の優柔不断

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