断捨離をしていて、手が止まった。
クローゼットの奥の、絵の具の箱。
高校の美術部を最後に、ほとんど触っていない。チューブはたぶん、半分固まってる。筆は洗いが甘いまま二十年経った。スケッチブックは、三ページ目から白い。
捨てる基準は決めてあった。「一年使わなかったものは捨てる」。この箱は、二十年使ってない。基準でいえば、文句なしに捨てる側だ。
三十分、箱の前に座っていた。
描かなくなった理由は、思い出せる。うまい人を見すぎた。自分の絵の「そうじゃない感」に耐えられなくなった。描くたびに、理想と現実の差を確認する作業になっていった。それで、やめた。
やめてから楽になったのも、本当だ。
でも捨てられないのも、本当だった。
「また描くの?」と、自分に聞いてみる。
わからない。描かないかもしれない。この箱はまた二十年、クローゼットの奥にいるだけかもしれない。
ただ、この箱を捨てるのは、片付けじゃなくて宣言になる気がした。「私はもう描かない人です」という宣言。それをする覚悟は、なかった。
覚悟がないことが、答えなのかもしれなかった。
箱は、戻した。
ただし、奥じゃなくて、手前に。
服を三枚捨てて、空いた場所に置いた。扉を開けたら見える位置に。
描くかどうかは、まだ決めない。
決めない、を今日の結論にした。断捨離の本には怒られそうだけど、クローゼットに未来をひと箱残しておくくらい、いいと思う。
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