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「平凡」に、着地する

📅 2026-07-19⏱️ 3分✍️ 匿名の平凡礼賛
平凡特別SNS着地ふつうの日
「何者かになりたい」と思っていた時期が、長かった。 学生の頃は、何かで有名になる予定だった。何かが何かは、決まってなかった。ただ、平凡な大人にだけはならない予定だった。 三十八歳。私は平凡な大人になった。 平凡な仕事をして、平凡な家に住んで、平凡な晩ごはんを作っている。SNSを開けば、同世代の誰かが本を出し、起業し、海外に住んでいる。 昔は、それを見るたびに削られた。 私の一日は、誰にも報告する価値がない。そう思っていた。 考えが変わったのは、入院した時だ。 大した病気じゃない。一週間で退院した。でも、病室の天井を見ながら思い出していたのは、特別な日のことじゃなかった。 いつもの湯呑みでお茶を飲むこと。ベランダの洗濯物が乾く匂い。仕事帰りの、スーパーの買い物かごの重さ。 戻りたかったのは、ぜんぶ平凡な日だった。 退院した日、玄関の匂いを嗅いで「帰ってきた」と思った。あの安心には、何の飾りもなかった。ただの、いつもの匂いだった。 何者かになる話は、離陸の話ばかりだ。 でも生活は、着地でできている。毎日、無事に着地する。いつもの家に、いつもの食卓に、いつもの布団に。 私は今日も、どこにも離陸しなかった。 そのかわり、ちゃんと着地した。 湯呑みのお茶がおいしい。それを平凡と呼ぶなら、平凡は、私が思っていたより、ずっと上等なものだった。 --- *© 2026 匿名の平凡礼賛*