電車で、知らない人が泣いていた。
女性。たぶん、私と同じくらいの年齢。
窓側の席で、顔を伏せて、肩を震わせていた。
周りの人は、気づいてないのか、気づかないふりをしてるのか。
誰も、声をかけない。
私も、最初は見て見ぬふりをしようとした。
他人のことだし、関わらない方がいいかもって。
でも、その女性の姿が、気になった。
何があったんだろう。辛いことがあったんだろう。
電車が、次の駅に着いた。
私は、降りるつもりはなかった。でも、降りた。
女性も、同じ駅で降りた。
ホームのベンチに座って、まだ泣いていた。
私は、近づいた。
「大丈夫ですか?」
女性は、顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだった。
「すみません」って女性が言った。
「謝らなくていいですよ。何かあったんですか?」
女性は、少し迷ってから、話し始めた。
仕事でミスをして、上司に怒鳴られたこと。もう限界だってこと。
私は、ただ聞いた。
「辛かったですね」
女性は、また泣いた。
「すみません、知らない人なのに」
「いいんですよ。泣きたい時は、泣いていいんです」
しばらく、一緒にベンチに座っていた。
女性は、少しずつ落ち着いていった。
「ありがとうございます。助かりました」
「いえ、何もしてないですよ」
女性は、小さく笑った。
「いえ、話を聞いてくれただけで、楽になりました」
それから、女性は次の電車に乗った。
私も、別の電車に乗った。
予定より、二本あとの電車だった。
窓の外を見ながら、さっきの「すみません」を思い出していた。泣くのに謝る人に、はじめて会った——いや、違うか。私も前に、会社のトイレで泣きながら、誰にともなく「すみません」と言っていた。
あの人が降りていった駅の名前を、たぶんしばらく、覚えていると思う。
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