電車で、知らない人が泣いていた

📅 2025-11-03⏱️ 4分✍️ 匿名の乗客
他者思いやり孤独気づき共感
電車で、知らない人が泣いていた。 女性。たぶん、私と同じくらいの年齢。 窓側の席で、顔を伏せて、肩を震わせていた。 周りの人は、気づいてないのか、気づかないふりをしてるのか。 誰も、声をかけない。 私も、最初は見て見ぬふりをしようとした。 他人のことだし、関わらない方がいいかもって。 でも、その女性の姿が、気になった。 何があったんだろう。辛いことがあったんだろう。 電車が、次の駅に着いた。 私は、降りるつもりはなかった。でも、降りた。 女性も、同じ駅で降りた。 ホームのベンチに座って、まだ泣いていた。 私は、近づいた。 「大丈夫ですか?」 女性は、顔を上げた。涙でぐしゃぐしゃだった。 「すみません」って女性が言った。 「謝らなくていいですよ。何かあったんですか?」 女性は、少し迷ってから、話し始めた。 仕事でミスをして、上司に怒鳴られたこと。もう限界だってこと。 私は、ただ聞いた。 「辛かったですね」 女性は、また泣いた。 「すみません、知らない人なのに」 「いいんですよ。泣きたい時は、泣いていいんです」 しばらく、一緒にベンチに座っていた。 女性は、少しずつ落ち着いていった。 「ありがとうございます。助かりました」 「いえ、何もしてないですよ」 女性は、小さく笑った。 「いえ、話を聞いてくれただけで、楽になりました」 それから、女性は次の電車に乗った。 私も、別の電車に乗った。 予定より、二本あとの電車だった。 窓の外を見ながら、さっきの「すみません」を思い出していた。泣くのに謝る人に、はじめて会った——いや、違うか。私も前に、会社のトイレで泣きながら、誰にともなく「すみません」と言っていた。 あの人が降りていった駅の名前を、たぶんしばらく、覚えていると思う。 --- *© 2025 匿名の乗客*