
…「36の質問」の実験で、近さを分けたのは話す中身だったにゃ。
こんな気持ち、ないにゃ?
時間をかければ、自然と深まるはず。
そう思ってただ待ってるけど、
距離は縮まらないまま。
「36の質問で恋に落ちる」
という話を、見たことがあるかもにゃ。
もとの実験は、
ほんとうは何を調べたのかにゃ。
心理学者のアーロンさんたちは1997年に、ある実験の方法を発表したにゃ。人と人の近さを研究するために、実験の中で一時的な親しさを生み出す方法にゃ。
アメリカの大学の授業の時間に、初対面の学生どうしがペアになったにゃ。男女のペアと、女性どうしのペアがいたにゃ。実験は3つ。ひとつめの実験で、ふたつの組をくらべたにゃ。
自分のことを話したり、相手のいいところを伝えたりするにゃ。
「去年のハロウィンはどう過ごした?」「好きな祝日は?」のような、自分のことをあまり話さない質問にゃ。
ペアには、質問を書いた紙の束が配られたにゃ。1枚ずつ読み上げて、ふたりとも答える。読み上げる人は1枚ごとに交代。15分ごとに次の束へ進んで、全部で45分にゃ。
終わったら、ふたりは離れた席に移って、ひとりずつ答えたにゃ。
自分と相手を表す2つの円が、少しずつ重なっていく7つの絵から選ぶ聞き方と、ほかの人間関係とくらべて答える聞き方。この2つを合わせて点にしたにゃ。
恋愛の気持ちは、聞いていないにゃ。
論文には「最初の試しの実験のあと、結婚したペアが一組いた」と、かっこ書きで一行だけ出てくるにゃ。ただそれは聞いた話としてのおまけで、実験の結果ではないにゃ。
36問は3つの束に分かれていて、束の中でも、束が進んでも、少しずつ深くなるように並んでいるにゃ。いくつか訳してみるにゃ。
「あなたにとって完璧な一日って、どんな日?」
「90歳まで生きられて、最後の60年を30歳の心か30歳の体のどちらかで過ごせるとしたら、どっち?」
「水晶玉が、自分や人生や未来について本当のことを教えてくれるとしたら、何を知りたい?」
「相手のいいところだと思うことを、交互に伝える(合わせて5つ)」
「人生で恥ずかしかった瞬間を話す」
「自分の悩みをひとつ話して、相手ならどうするか聞く。そして、自分がその悩みをどう感じているように見えるか、相手に言葉にしてもらう」
45分たったあと、「相手とどのくらい近いと感じる?」を7段階で聞いたにゃ。ふたつの組は、どうなったと思う?
深い質問の組の4.06は、7のうちの真ん中あたりにゃ。45分で親友になった、という数字ではないにゃ。
同じ大学の別の学生296人が、自分のいちばん近い関係につけた点とくらべたにゃ。いちばん近い人には届かないけど、ずっと遠いわけでもないにゃ。
ほかの人間関係とくらべる聞き方では、平均はちょうど4くらい。ふだんの人間関係の平均くらい、ということにゃ。
相手への忠実さや、関係を続けようという気持ちのように、長い時間をかけて育つものまでは生まれていないだろう、とアーロンさんたちも書いているにゃ。
暮らしの言葉で言えば、初めて会った人と、気がつけば話しこんでいた。そのくらいの近さかもしれないにゃ。
それでも、実験のあとにつづきがあったペアもいたにゃ。
質問のおかげで続いたのか、もともと続く相手だったのかまでは、わからないにゃ。
ほかの2つの実験では、何が近さにつながるのかを一つずつ調べたにゃ。
・大事な考えが合わない人と組んでも、合う人と組んでも
・「あなたたちは気が合うはず」と伝えても、伝えなくても
・「近づくのが目的」と言っても、言わなくても
4つの工夫のうち、はっきり差が出たのは少しずつ深くなる質問に交互に答えることだけだったにゃ。
「この人とは合わないかも」と思う相手とでも、話す中身しだいで、思ったより近づけることがある、ということにゃ。
内向的な人と外向的な人もくらべているにゃ。「近づくのが目的」と知らされないと、外向的な人どうしのほうが近づいた。でも知らされると、差はほとんどなくなったにゃ。
まだ仮の結果だけど、人見知りの人も、道すじがあれば近づけるのかもしれないにゃ。
はっきりした答えは、まだ出ていないにゃ。有力な説明のひとつはこうにゃ。
相手が自分のことを少し話すと、こちらも同じくらい話したくなる。それに相手が応えて、また少し深く話す。
36問は、このお返しのくり返しが、階段みたいに少しずつ起きるように並んでいるにゃ。いきなり重い話をされると身構えるけど、浅いところからなら、こわくないにゃ。
もうひとつは、話したあとの受け止めにゃ。親しさは、話した人が「わかってもらえた」「認めてもらえた」「大事にされている」と感じるところで育つ、という考え方があるにゃ。
深い話をしても、笑われたり流されたりしたら、近づかない。話すことと、受け止めることが、セットなのかもしれないにゃ。
2013年に、別の研究者たちが、この方法の中の「交互に」というところを取り出して調べたにゃ。
初対面の大学生のペアが、2回の会話をしたにゃ。質問は、少しずつ深くなっていくものにゃ。
2回の会話とも、お互いに少しずつ話すにゃ。
2回目の会話で、役を交代するにゃ。
1回目の会話のあと、交互の組のほうが、相手への好意も、近さも、似ていると感じる気持ちも、会話の楽しさも高かったにゃ。
話すだけ、聞くだけより、お互いに少しずつ開いていくほうが、近さにつながりやすいのかもしれないにゃ。
実験の学生たちは、教室で向かい合って、紙を1枚ずつめくっていたにゃ。
いまの「知り合う」は、アプリやLINEのやりとりから始まることも多いにゃ。
最初のメッセージは、「お仕事は?」「休みの日は?」と、片方が聞いて片方が答える面接になりがちにゃ。答えたら、自分のことも少し話して、聞き返す。実験の「ふたりとも答える」は、文字でもまねできそうにゃ。
長く一緒にいると、相手のことはもう知っているつもりになるにゃ。でも、このあとの質問を聞いたことは、案外ないかもしれないにゃ。実験でも、近さを分けたのは一緒にいた時間より、話した中身だったにゃ。
向かい合っていれば、うなずきや表情で「受け止めたよ」が伝わる。文字だと、それが消えるにゃ。深い話はLINEで始めても、続きは顔を見て話す、という分け方もあるにゃ。
もし、身近な誰かと1問だけ試すとしたら、どれにする?

もっと知りたいのに、
話は仕事と天気で止まる。
「急にそんなこと聞いたら、
重いと思われそう」。
そう思って飲みこんだ質問が、
いくつかあるかもしれないにゃ。
ねこたちが実験の手順を
もう一度たどっていて気づいたのは、
あの45分、自分から切り出した人は
ひとりもいなかったことにゃ。
問いは、はじめから紙に書いてあった。
声に出して読んだのは本人でも、
「最後に人の前で泣いたのはいつ?」を
選んだのは、紙の束のほうだったにゃ。
考えの合う相手と組ませても、
「気が合うはず」と伝えても、
近さはほとんど変わらなかった。
だとすると、
何度会っても遠いままなのは、
相性のせいというより、
深いところへ降りていく
階段とそのきっかけが
なかっただけなのかもしれないにゃ。
もっとも、教室で初対面の学生が
45分向き合った話にゃ。
何年も一緒にいる二人に
同じだけ効くかどうかは、
この実験の外の話にゃ。
紙の束には、
決まりがひとつあったにゃ。
読み上げた人も、
同じ問いに
答える。
読み上げる役は1枚ごとに入れかわる。
だから45分のあいだ、
どちらか一人だけが
打ち明けている時間は
なかったにゃ。
1枚めの問いは、これだったにゃ。
「世界中の誰でも
夕食に招けるとしたら、
誰を呼ぶ?」
…あなたなら、だれを呼ぶにゃ?
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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