
…ドキドキは、どこから来たのかまでは教えてくれないにゃ。
こんな会話、ないにゃ?
いつもなら気にしない人に、
なぜかドキドキしてしまうことがある。
そのドキドキは、相手のせい?
それとも、場所のせい?
50年ほど前、それを橋の上で
確かめようとした人たちがいるにゃ。
カナダのブリティッシュコロンビア大学にいたダットンさんとアロンさんが、カピラノ川にかかる二つの橋で調べて、1974年に発表した研究にゃ。
ワイヤーで吊られた板の橋。歩くと揺れるにゃ。
近くにある、揺れない低い橋にゃ。
橋を渡ってきた、ひとりで歩く18〜35歳の男性に、女性の聞き手が声をかけたにゃ。短いアンケートと、一枚の絵を見て物語を書いてもらう。
終わると聞き手は、紙に自分の名前と電話番号を書いて、「もっと話を聞きたければ、電話してください」と渡したにゃ。
番号を受け取ったのは、吊り橋で18人、しっかりした橋で16人。
このうち、あとで本当に電話をかけてきたのは、何人だったのかにゃ。
番号を受け取った人のうち、電話をかけてきた人の割合は?
吊り橋を渡った人のほうが、
あとで電話をかけてきた人が多く、
書いた物語にも性的なことばが多かった
(5段階で平均2.47、しっかりした橋は1.41)
ただ、数えなおすと、どちらの橋でも声をかけたのは33人ずつ。アンケートに答えたのは23人と22人。番号を受け取ったのは18人と16人。
ここまでは、ほとんど同じだったにゃ。
聞き手を男性にした場合も調べているにゃ。
このくらいの人数だと、1人ちがうだけで割合が大きく動くにゃ。はっきりした差とは言えなかったにゃ。
それに、どちらの橋を渡るかは、男性が自分で選んでいたにゃ。あの吊り橋をわざわざ渡りに来る人と、そうでない人は、もともと少しちがうかもしれないにゃ。
同じ吊り橋で、渡りおえて10分以上たった人と比べたときも、電話は直後のほうが多めだった。でもその差は、偶然でも出るくらいの小ささだったにゃ。
数えたのは、
「電話をかけたかどうか」だけ。
9人は、あの人に
ひかれていたのかにゃ。
それとも、話の続きが
気になっただけかにゃ。
ダットンさんたちは、怖さのドキドキを、目の前の女性へのドキドキと取り違えたのではないか、と考えたにゃ。これが、のちに「つり橋効果」と呼ばれるものにゃ。
土台にしたのは、1960年代に、体をドキドキさせる注射を使った実験から出てきた「感情の二要因説」という考えにゃ。
胸が高鳴る、汗が出る。でも、それだけでは何の気持ちかわからないにゃ。
怖い場面なら「怖い」、すてきな人が目の前なら「ときめき」。そう名前がついて、気持ちになる、という考えにゃ。
橋の上で言えば、「胸がドキドキするのは、この橋が怖いから」ではなく、「この人がすてきだから」と、理由のほうを取り違える、ということにゃ。
ただ、これは今もひとつの説にゃ。確かめられた仕組み、とまでは言えないにゃ。
橋の実験と同じ形で、怖い場面で異性への好意が上がるかを試した研究があるにゃ。1979年には4回試して、4回とも同じ結果は出なかったにゃ。
2003年には、遊園地でジェットコースターに乗る前の人と、降りたあとの人、あわせて300人に、異性の写真を見せて、どのくらい魅力的かを答えてもらった研究があるにゃ。
乗る前の人より、写真の人をすてきだと答えやすかったにゃ。
となりに恋人がいると、ドキドキは写真の人の印象にまざらなかったにゃ。
別の研究で、たくさんの実験をまとめて見なおすと、ドキドキしている人のほうが相手を魅力的だと答えやすい傾向はあったにゃ。ただそれは、ドキドキの理由がはっきりしているときにも出ていたにゃ。
ドキドキは、相手の印象を強めることがある。でもそれが「取り違え」のせいなのかは、まだわかっていないにゃ。
1974年の男性たちは、紙に書かれた番号を持ち帰って、あとで電話をかけたにゃ。
いまなら、その場でLINEを交換して、帰りの電車でスタンプを送るかもしれないにゃ。
番号を持ち帰って、受話器をとるまでには、少し時間があったにゃ。いまはQRを読むだけで、ライブの帰りや旅先の夜のうちに、もう話が続いていくにゃ。
ライブ、旅行、新しい職場、締め切り前の修羅場。いつもとちがう場所で胸が高鳴るとき、そばにいた人の印象は、少し大きく見えるのかもしれないにゃ。
ドキドキが落ちついた、いつもの部屋。そこで続くやりとりがまだ心地いいなら、それは場所の分を引いても残る気持ちかもしれないにゃ。
あの9人が電話で何を話して、そのあと続いたのか。橋の実験はそこまで追いかけていないけれど、いまの私たちには、いつもの夜に読み返せるトーク画面があるにゃ。
ドキドキする場面で出会った人のことを、あとで思い出すとしたら、いまのあなたはどれに近い?

たくさんの実験をまとめて見なおすと、
ドキドキの理由がはっきりしているときでも、
相手は少しすてきに見えやすかったにゃ。
怖いのは橋のほうだと、
わかっていても、ということにゃ。
「取り違え」なら、
あの日の気持ちは読みまちがいになるにゃ。
けれど、わかっていても起きるなら、
それはまちがいというより、
音量が少し上がっていた、
くらいのことなのかもしれないにゃ。
上がったのは音量で、
鳴っていた曲は、
たぶん、あの人のほうにゃ。
橋の上で番号を受け取った34人と、
遊園地の300人。
それに、同じ結果が出なかった4回の追試。
ぜんぶを並べたうえでの、
ねこたちの読みにゃ。
ちがう読み方をする研究者も、
きっといるにゃ。
恋人と乗った人には、
写真の人が
いつもどおりに見えていたにゃ。
同じジェットコースターを降りても、
友だちなどと乗った人には、
写真の人がすてきに見えやすかったにゃ。
ドキドキがどこへ流れていくかは、
場所だけでなく、そのとき
となりにいる人でも
変わるのかもしれないにゃ。
あの日、胸が高鳴ったとき、
あなたのとなりには、
だれがいたにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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