
…同じ職場で、燃え尽きる人とそうでない人。その分かれ道を、1年追いかけた人たちがいたにゃ。
こんな気持ち、ないにゃ?
へとへとなのに、休んでも戻らない。
仕事のことを考えると、
気持ちがすっと冷めていく。
そうなったとき、多くの人は
まず自分を疑うにゃ。
「ほかの人は、やれているのに」と。
燃え尽きるかどうかは、
ほんとうにその人の強さで
決まっているのかにゃ。
燃え尽きの研究を長く続けてきた心理学者のマスラックさんとライターさん(2008年)は、ある組織で働く466人に、1年あけて2回、同じ質問紙に答えてもらったにゃ。
聞いたのは、ふたつのことにゃ。
ひとつは、燃え尽きのしるし。へとへとになっているか。仕事に冷めた気持ちになっているか。「ちゃんとやれている」と感じられるか。
もうひとつは、職場との合い方。ふたりがそれまでの研究から、6つにまとめたものにゃ。
仕事の量 — こなせる量か
自分で決められるか — やり方や段取りに、口を出せるか
報われ方 — がんばりが、認められているか
職場の人間関係 — 支え合えているか
公平さ — 決め方に、筋が通っているか
大事にしたいこと — 自分の大事なことと、職場の求めることが合っているか
ふたりが目をとめたのは、1回目に、燃え尽きのしるしが一部だけ出ていた人たちにゃ。すっかり燃え尽きてもいないし、元気いっぱいでもない。ゆれている人たちにゃ。
この人たちは、ほかの人より、1年のあいだに大きく変わりやすかったにゃ。どちらへ変わるのか。そこに、分かれ道があったにゃ。
ゆれていた人たちの、1年後の行き先。分かれ道になっていたのは、6つのうちどれだったと思う?
しるしが一部だけ出ていた人のうち、
公平さにずれを感じていた人は、
1年後に燃え尽きのほうへ。
ずれを感じていなかった人は、
仕事への手応えのほうへ戻っていた
ここでいう公平さは、お給料が同じかどうか、だけの話じゃないにゃ。だれに何を任せるか。どう評価するか。そういうことが、筋の通ったやり方で決まっているか。決めるときに、自分がちゃんと扱われているか。
研究者たちは、人はこの「決め方」と「扱われ方」を、自分がその場所でどう見られているかのものさしにしている、と考えているにゃ。
もうひとつ、見のがせないことがあるにゃ。しるしが出ていた人の中にも、1年後に、手応えのほうへ戻っていった人たちがいたこと。
燃え尽きのしるしは、出たら最後の下り坂ではなかったにゃ。そこはまだ、分かれ道の手前だったにゃ。
なぜ公平さが分かれ目になったのか。この調査だけでは、決めきれないにゃ。手がかりになる見方が、いくつかあるにゃ。
公平に扱われていないと感じると、冷めた気持ちや怒り、とげとげしさが生まれやすい、とふたりは考えているにゃ。仕事への冷めは、燃え尽きのしるしのひとつ。不公平が、ゆれていた人の背中を、燃え尽きのほうへ押したのかもしれないにゃ。
同じふたりは、一般向けの本の中で、燃え尽きを個人の弱さではなく、人と職場の6つの「合わなさ」として描いてきたにゃ。新しいほうの本では、燃え尽きた人を炭鉱のカナリアにたとえているにゃ。坑道の空気が悪いと、カナリアが先に弱る。それはカナリアが弱いからではなく、空気のせいにゃ。
これは調査の結果そのものではなく、長く研究してきた人たちが本で示した考え方にゃ。
それに、本人の性格や体の調子が関係ないわけでもないにゃ。研究者たち自身も、人によるちがいは大事だと書いているにゃ。そのうえで、問いを「人のせいか、職場のせいか」から、「この人とこの職場の、どこが合っていないのか」に変えよう、というのがふたりの考えにゃ。
マスラックさんたちの調査には、続きがあるにゃ。調べた職場は、公平さにかかわるしくみをいくつか見直した。1年後には、働く人たちの受けとめがよくなっていた、とのちに書いているにゃ。
では、燃え尽きを減らすには、どこに手を入れればいいのかにゃ。
2017年に、医師の燃え尽きを減らす取り組みを確かめた19の研究、1,550人分をまとめた分析があるにゃ。取り組みを、医師ひとりひとりに向けたものと、職場のしくみや働き方に向けたものに分けて比べたにゃ。
差の大きさのものさし(効果量)で、0.2 が「小さい差」、0.5 が「中くらいの差」の目安にゃ。どちらにも効き目はあったけれど、職場に向けた取り組みのほうが大きかったにゃ。
ひとりでできる工夫に、意味がないわけじゃないにゃ。ただ、職場ぐるみの取り組みは、確かめること自体がむずかしく、調べた研究の数もまだ多くないにゃ。
2019年には、WHO(世界保健機関)も、燃え尽きを病気としてではなく、「うまく扱われてこなかった、職場の慢性的なストレス」から来るものとして、分類に書き入れたにゃ。仕事の場面にかぎって使うことばだ、とも添えているにゃ。
研究の466人は、年に一度の質問紙で、自分の職場との合い方を答えていたにゃ。
いまの日本の職場にも、重なる場面がいくつもあるにゃ。
日本では2015年から、50人以上の職場で、年に一度のストレスチェックが義務になったにゃ。2028年からは、もっと小さな職場にも広がる予定にゃ。
答えを部署ごとにまとめて、職場の見直しに使うしくみもあるけれど、こちらは努力目標で、どこまで使われているかは職場しだいにゃ。研究のふたりが組織といっしょにやっていたのは、まさにこの「まとめて見る」ほうだったにゃ。
急ぎの仕事や、だれの担当でもない仕事。割り振りが話し合いではなく、「気づいた人」「手が早い人」で決まっていくと、同じ人に重なっていくにゃ。
量の話に見えて、研究のことばでいえば決め方の話でもあるにゃ。「なんで私ばっかり」は、そこから来ていることもありそうにゃ。
急な休みや、長いお休み。人が足されないまま、まわりで分けて回す職場は多いにゃ。休む人が悪いわけでも、引き受ける人が弱いわけでもない。引き受け方が決まっていないことが、不公平の感じを生むのかもしれないにゃ。
2024年からは、育休の人の仕事を引き受けた同僚に手当を出す中小企業へ、国の助成も始まったにゃ。引き受けることを、見える形にしようとする動きにゃ。
いまの職場で、いちばん「合っていない」と感じるのはどれ?

職場の答えをまとめて、
全員の前に出すと、
会場がしんとすることがある。
マスラックさんは、そう書いているにゃ。
自分だけだと思っていた気持ちを、
同僚の多くも抱えていたと、
そこではじめて知るからにゃ。
「同じ職場で、平気そうな人もいるのに」。
その人も、平気な顔をしていただけ、
かもしれないにゃ。
そして、しるしが出ていても、
1年後に手応えのほうへ戻った人がいた。
分かれ道にあったのは、
その人の強さより、
職場の決め方のほうだったにゃ。
平気な顔の下までは、
466人の答えにも書いていないにゃ。
そこは、会場の静けさから
思い浮かべた話にゃ。
分かれ道の手前にいるなら、
見てみたいのは、6つのどこがずれているか。
それから、あなたがどっちへ行きたいかにゃ。
決め方が変わるなら、ここで続けたいのか。
変わらなくても、ここにいたいのか。
それとも、別の坑道の空気を
吸ってみたいのか。
弱ったカナリアに、
「もっと強くなれ」とは
だれも言わないにゃ。
見なおされるのは、
カナリアじゃなくて、坑道の空気のほう。
「なんで私ばっかり」は、
あなたの弱音というより、
職場の空気についての
いちばん早い知らせ
なのかもしれないにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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