上司に理不尽なことを言われた日、帰り道にイヤホンで音楽を聴いた。
いつもは静かな曲を選ぶ。その日は、いちばん激しい曲を選んだ。ボリュームを上げた。もっと上げた。鼓膜が痛いくらい。
歩きながら、頭の中で上司に言い返してた。
「それ、おかしくないですか」「なんで私だけなんですか」「あなたのやり方、間違ってます」
全部、口に出せなかった言葉。
家に着いて、イヤホンを外したら、静寂が痛かった。
怒りだけが残ってた。何にもぶつけられないまま。
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母に電話で「あんたのためを思って言ってるの」と言われた。
ためを思って。その言葉、何回聞いただろう。
「うん、分かった」と答えた。
切ったあと、スマホを投げた。壁にぶつかって、画面にヒビが入った。
修理に出して、店員に「落としちゃって」と嘘をついた。
本当は、落としたんじゃなくて、投げたんだ。
怒りを向ける場所が分からなくて、いちばん近くにあったものに当たった。
いちばん近くにあったのが人じゃなくて、よかった。
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何に怒ってるのか、分からない日がある。
朝起きた瞬間から、なんかイライラしてる。コーヒーを淹れるのがイライラする。電車が混んでてイライラする。同僚の笑い声がイライラする。
全部に理由がない。いや、あるのかもしれないけど、見えない。
夜、布団に入って、やっとちょっと落ち着く。
あのイライラは何だったんだろう。
たぶん、怒っていいことに怒れなかった分が、全然関係ないところに漏れてたんだと思う。
でも、怒っていいことが何なのか、それも分からないまま。
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