画面のヒビ
ふつう・3分

画面のヒビ:怒りの行き先

匿名の怒る人・3分・ふつう

上司に理不尽なことを言われた日、帰り道にイヤホンで音楽を聴いた。

いつもは静かな曲を選ぶ。その日は、いちばん激しい曲を選んだ。ボリュームを上げた。もっと上げた。鼓膜が痛いくらい。

歩きながら、頭の中で上司に言い返してた。

「それ、おかしくないですか」「なんで私だけなんですか」「あなたのやり方、間違ってます」

全部、口に出せなかった言葉。

家に着いて、イヤホンを外したら、静寂が痛かった。

怒りだけが残ってた。何にもぶつけられないまま。

*

母に電話で「あんたのためを思って言ってるの」と言われた。

ためを思って。その言葉、何回聞いただろう。

「うん、分かった」と答えた。

切ったあと、スマホを投げた。壁にぶつかって、画面にヒビが入った。

修理に出して、店員に「落としちゃって」と嘘をついた。

本当は、落としたんじゃなくて、投げたんだ。

怒りを向ける場所が分からなくて、いちばん近くにあったものに当たった。

いちばん近くにあったのが人じゃなくて、よかった。

*

何に怒ってるのか、分からない日がある。

朝起きた瞬間から、なんかイライラしてる。コーヒーを淹れるのがイライラする。電車が混んでてイライラする。同僚の笑い声がイライラする。

全部に理由がない。いや、あるのかもしれないけど、見えない。

夜、布団に入って、やっとちょっと落ち着く。

あのイライラは何だったんだろう。

たぶん、怒っていいことに怒れなかった分が、全然関係ないところに漏れてたんだと思う。

でも、怒っていいことが何なのか、それも分からないまま。

― 匿名の怒る人

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