
…早めに落ち着いたのは「眠い」の感じ方。頭の働きは、14日目まで下がり続けていたにゃ。
忙しい時期が続くと、
こんなこと、思わないにゃ?
睡眠は、忙しさに合わせて
少しずつ削れていくにゃ。
最初の何日かはつらい。
でも、そのうち体が慣れてくる気がする。
その「慣れた」を、
2週間、実験室で確かめた人たちがいるにゃ。
ペンシルベニア大学の睡眠の研究者、ヴァン・ドンゲンさんたち(2003年)は、21〜38歳の健康な大人に、大学病院の中の実験室で暮らしてもらったにゃ。
寝床にいていい時間を、ひと晩8時間・6時間・4時間のどれかに決めて、14日間続けたにゃ。べつに、3晩まったく眠らない人たちも用意して、くらべたにゃ。参加したのは、ぜんぶで48人。
カフェインもお酒もなし。起きているあいだは2時間おきに、注意力や記憶のテストをして、「いま、どのくらい眠い?」も自分で答えてもらったにゃ。
6時間の人たちは、日を追うごとに
注意力と記憶のテストの成績が下がり、
14日目には、ひと晩徹夜したあとと
同じくらいになった。
4時間の人たちは、ふた晩徹夜したあとと同じくらい。
8時間の人たちは、ほとんど変わらなかった
同じ14日間、6時間の人たちの「眠い」という答えは、どうなっていたと思う?
睡眠を削った日が重なるほど、
頭の働きは下がり続けた。
でも「眠い」という感じは、
早いうちにほとんど上がらなくなった
研究者たちは、14日目、成績がいちばん悪くなっていたころでも、6時間と4時間の人たちは「少し眠い」くらいにしか感じていなかった、と書いているにゃ。
「最初はきつかったけど、もう慣れた」。その「慣れた」は、うそじゃなかったにゃ。眠気のほうは、本当に落ち着いていた。ただ、頭の働きは慣れていなかったにゃ。
注意力のテストは、画面に合図が出たらすぐボタンを押す、という10分間の単純なものにゃ。0.5秒以上おくれた「ぼんやり」の回数を数えたにゃ。
暮らしでいえば、信号が変わったのに一拍おくれる。話しかけられて「え?」と聞き返す。あの感じに近いかもしれないにゃ。
研究者たちは、理由をふたつ考えていたにゃ。どちらかには決めていないにゃ。
寝不足が毎日のことになると、自分がどのくらい眠いのかを、内側から正しく感じとれなくなる。
ひと晩に4時間くらいでも眠れていると、徹夜したときのような強い眠気は起きにくい。だから「眠い」が、頭の働きの落ち方を知らせてくれない。
どちらにしても、強い眠気がないから「慣れた」と感じる。それが、睡眠を削る暮らしが広く続いてしまう理由かもしれない、と研究者たちは書いているにゃ。
ふしぎなことに、眠っているあいだの脳波も、最初の数日で変わったあとは、ほとんど動かなかったにゃ。体の側の「眠りが足りない」というしるしも、頭の働きの下がり方には、ついてきていなかったにゃ。
「睡眠負債」ということばを、聞いたことがあるかもしれないにゃ。足りない眠りが借金のようにたまっていく、という考え方で、眠りの研究者が一般向けの本で広く紹介したものにゃ。
この研究者たちは、少しちがう見方を出したにゃ。たまっていくのは、借りた睡眠の合計というより、起きている時間が長すぎたぶん。この実験の人たちの平均では、続けて起きているのがおよそ16時間を超えたぶんだけ、「ぼんやり」が増えていったにゃ。どちらのたとえがより合っているかは、まだ決まっていないにゃ。
2007年に、眠らなかった人の脳をMRIで見た研究があるにゃ。18〜30歳の26人を、およそ35時間起き続けた人たちと、ふつうに眠った人たちに分けて、だんだん不快になっていく写真を見てもらったにゃ。
扁桃体は、こわさや不快さに反応する脳の場所にゃ。おだやかな写真では、ふたつのグループにほとんど差がなかったにゃ。
眠らなかった人たちは、不快な写真への反応が約6割大きかったにゃ。気持ちを落ち着かせる役と考えられている、おでこの奥のあたりとのつながりも、弱く見えたにゃ。
これは寝不足が続いた実験ではなく、ひと晩の徹夜の実験にゃ。研究者たち自身も、意味づけはまだ推測の段階だと書いているにゃ。それでも、眠りが足りない日は、「私が寝不足だから」より先に「あの人の言い方がきつい」と感じることが、あるのかもしれないにゃ。
もとの14日の実験にも、限りがあるにゃ。参加したのは健康な若い大人で、48人のうち女性は6人。女性や、ほかの年代の人で同じようになるかはまだわからない、と研究者たち自身が書いているにゃ。
研究の人たちは、仕事も家事もない実験室で、決まった時間に眠り、起きていたにゃ。
いまの日本では、2019年の国の調べで、ふだんの睡眠が6時間に届かない人が、男性で37.5%、女性で40.6%いたにゃ。研究の「6時間」と同じくらいか、それより短い眠りは、めずらしくないということにゃ。
研究は14日で終わったにゃ。それでも、6時間の人たちの成績は、14日目もまだ下がる途中だったにゃ。
暮らしの「忙しい時期」は、締め切り、引っ越し、親の通院の付き添いと、つぎの用事にそのままつながることが多いにゃ。14日より先のことは、この研究ではわからない。でも「この山を越えたら寝よう」の山が、気づくとずっと続いていることは、あるかもしれないにゃ。
研究では、4時間の人たちと6時間の人たちの「眠い」の答えに、はっきりした差がなかったにゃ。頭の働きは、4時間のほうがずっと下がっていたのに。
職場で「昨日も5時間」「私なんて4時間」と言い合うとき、眠気の感じ方では、だれがどれだけ削れているかは見分けにくいのかもしれないにゃ。
感じ方が当てにならないなら、外に出るしるしのほうが見つけやすいかもしれないにゃ。同じ行を二度読む。人の名前が出てこない。言わなくていい一言が、口から出ている。
元気な週のうちに「これが続いたら、早く寝る夜をつくる」と、自分のしるしを決めておく人もいるにゃ。調子が落ちてからでは、それを決める頭も眠いからにゃ。
忙しい時期、「そろそろ休もう」と気づくきっかけになりそうなのは?

「大丈夫?」と聞かれて、
「うん、そんなに眠くないし」と
答えたこと、あるかもしれないにゃ。
自分の感じに正直に答えたのに、
ひと山越えてからふり返ると、
あのころの自分は、
ずいぶんぼんやりしていた。
14日のあいだ、頭の働きは
下がり続けていたのに、
「眠い」のほうは、
早いうちに横ばいになっていたにゃ。
無理をしていると知らせてくれるはずの感じが、
いちばん先に慣れてしまう。
寝不足に気づけないのは、
気がゆるんでいるからでも、
がまん強すぎるからでもなく、
もともと、そういうふうに
できているからなのかもしれないにゃ。
だとしたら、眠いかどうかを
自分の内側に聞くより、
カレンダーに聞くほうが確かにゃ。
ここ2週間、何時に寝たか。
研究所のねこたちは、そう考えているにゃ。
ねこたちから、ひとつ質問にゃ。
「眠い?」より、
「最後にぐっすり眠ったのは、
いつ?」
眠気は、何日かで静かになる。
カレンダーは、ちゃんと覚えているにゃ。
指を折って数えはじめて、
片手で足りなかったら、
それが、眠気のかわりの答えにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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