洗濯物
ふつう・3分

洗濯物:身体が先に気づいてた

匿名の身体・3分・ふつう

月曜の朝になると、お腹が痛くなる。

毎週じゃない。でも、だいたい月曜日。

最初は「何か悪いもの食べたかな」って思ってた。病院にも行った。「ストレス性ですね」と言われて、胃薬をもらった。

ストレス性。そう言われても、自分ではストレスを感じてるつもりがなかった。仕事は忙しいけど、まあ普通。人間関係もまあ普通。特に悩みがあるわけでもない。

でも身体は知ってた。月曜の朝、会社に行く準備をする自分の身体が、毎週小さく悲鳴をあげてた。

頭が追いつくのは、ずっと後だった。

*

洗濯物を畳んでいたら、涙が出た。

悲しいことがあったわけじゃない。考え事をしていたわけでもない。タオルを畳んで、靴下を揃えて、Tシャツをたたもうとした瞬間に、ぽろっと。

なんで。

分からない。分からないまま、涙が止まらなくなって、畳みかけの洗濯物の上にうずくまった。

10分くらいそうしてた。落ち着いたあと、何事もなかったように洗濯物を畳み直した。

誰にも言えなかった。「洗濯物畳んでたら泣いた」って、どう説明すればいいか分からなかったから。

*

退職届を書こうとしたら、手が震えた。

辞めたかった。ずっと辞めたかった。頭では決めてた。

でも、ペンを持った瞬間、右手がぶるぶる震えて、文字が書けない。

怖いのかな。何が怖いんだろう。辞めたあとの生活? 周りの目? 上司の反応?

全部かもしれない。でも、どれも頭では「大丈夫」って思ってる。

大丈夫じゃないのは、頭じゃなくて、身体のほうだった。

身体はいつも、私より先に本当のことを知っている。

― 匿名の身体

同じ棚から、もう一冊

研究所道具屋猫の国の地図