
…失恋のつらさを5,705人に聞いたら、男女の差は思ったより小さかったにゃ。
こんな話、聞いたことないにゃ?
向こうが平気そうだと聞くと、
こちらのつらさまで、
なんだか重すぎる気がしてくる。
「男は切り替えが早い」。
そう言われることもあれば、
「男のほうが引きずる」と
言われることもあるにゃ。
ほんとうは、どうなのかにゃ。
アメリカのビンガムトン大学で人類学を研究していたモリスさんたち(2015年)は、2012年から2013年にかけて、ネットで調査への参加を呼びかけたにゃ。大学のメーリングリストや、Facebook のグループ、Reddit の掲示板。招待の文には「恋愛についての短い調査」とだけ書いて、失恋という言葉は入れなかったにゃ。
答えたのは、96か国の5,705人。失恋したことがある人は8割ほどいて、そのうちの8割は、一度ではなかったにゃ。
何度か失恋した人には、思い出す1回を自分で選んでもらったにゃ。いちばん最近のものでも、いちばんこたえたものでもいい。その失恋の心のつらさと体のつらさを、10を「耐えられない」とする数字で答えてもらったにゃ。
心のつらさの平均は、男女でどのくらいちがったと思う?
計算すると、女性のほうが高いという差は「偶然ではない」と出たにゃ。でも、これだけ人数が多いと、ほんの小さな差でも「差あり」と出るにゃ。
差の大きさのものさしで見ると、心のつらさの差は0.1ほど。ふつう「小さい差」と呼ばれる目安の、さらに半分くらいにゃ。答えの散らばり方も、男女でよく似ていたと、研究者たち自身が書いているにゃ。
前半の調査で「その他」の欄に「悲しかった」と書く人があまりに多かったので、後半の調査で選択肢に加えたものにゃ。
眠れなくなった、という人も、男女どちらにもとても多かったにゃ。
ふられた側のほうが、つらさは強かった。
でも研究者たちは、
ふった側にとっても
軽い出来事ではなかったと書いているにゃ。
別れを切り出したのがあの人のほうでも、あの人にとって、なんでもない夜だったとはかぎらないにゃ。
答えの数字は男女でほとんど同じなのに、「男は切り替えが早い」と見えることがある。そのわけは、この調査では調べていないにゃ。出されている見方を、ふたつ並べてみるにゃ。
モリスさんたちは論文の終わりで、進化の考え方からこんな推測を書いているにゃ。大昔、失恋でひどく落ちこむ姿を見せる男性は、まわりに「次の相手を見つけるのに苦労しそう」と知らせることになった。だから、平気なふりをするほうが有利だったのでは、と。
確かめた結果ではなく、これから調べたい問いとして書かれたものにゃ。進化の話で男女の差を説明するやり方には、批判もあるにゃ。
人のつながりとさびしさを調べてきた研究者たちのあいだには、男性はパートナーを、困ったときのただひとりの支えと見やすい、という見方があるにゃ。
もしそうなら、つらい顔を見せていた相手は、別れた相手その人だったことになる。別れたあと、つらさを見せる場所がなくなって、外からは平気そうにだけ見えるのかもしれないにゃ。
この調査は、大学の発表を通して世界中で記事になったにゃ。見出しは「女性はより深く傷つくが、より完全に立ち直る」。発表の中では、男性は「完全には立ち直らず、ただ前に進むだけ」とも語られたにゃ。
でも、調査は同じ人を何年も追いかけたものではなく、立ち直りを測ってもいないにゃ。この部分は、発表の中での研究者の見立てにゃ。
それに、答えた人の多くは女性で、男性はその半分ほどだったにゃ。研究者たちは論文の中で、いちばん深く傷ついた男性ほど、昔の失恋を聞く調査には答える気になれなかったのかもしれない、という問いも残しているにゃ。
別れたあとのさびしさを、別の角度から調べた研究もあるにゃ。オランダで30〜76歳の2,000人あまりに、結婚や離婚の歩みと、さびしさを聞いた調査を、2007年にまとめたものにゃ。
男性は、結婚していてもいなくても、頼れる人の輪が小さめだったにゃ。そして離婚してひとりでいる人どうしで比べると、男性のほうが「心を預ける相手がいない」さびしさが強かった。その差は、「パートナーがいてこそ」という思いの強さで、かなり説明できたにゃ。
調査の人たちは、ひとりで画面に向かって、名前を出さずに答えたにゃ。研究者たちも、人に言いにくい話を「自分の声で」話してもらうには、名前を出さないネットの調査が向いていると書いているにゃ。
いまの日本で、わたしたちが「あの人の平気そう」を見るのは、どんな場所かにゃ。
「男の恋は名前を付けて保存、女の恋は上書き保存」。日本でよく聞く言い回しにゃ。こちらは「男のほうが引きずる」と言っていて、「男は切り替えが早い」とは逆向きにゃ。
反対の決まり文句が、両方とも生き残っている。どちらも、そのとき見えた顔に合うほうが選ばれているのかもしれないにゃ。
共通の友だちから届く「元気そうだったよ」「普通に笑ってた」。それは、何人かで集まった席での顔にゃ。調査の数字は、だれも見ていないところで答えたつらさ。比べているのは、同じものではないのかもしれないにゃ。
日本の職場で「失恋したので休みます」とは、なかなか言えないにゃ。眠れなかった朝も、いつもの電車に乗って、いつもの顔で「おはようございます」と言う。
あなたにも、そんな朝があったかもしれないにゃ。そのときのあなたも、まわりからは、きっと平気そうに見えていたにゃ。
いまのあの人のこと、あなたの気持ちにいちばん近いのは?

あの人は平気そう。
そう聞くたびに、
「やっぱり私のほうが重かったんだ」と、
もう一度ふられたような気持ちに
なったかもしれないにゃ。
はじめの調査には、
「悲しさ」という選択肢が
なかったにゃ。
それでも「その他」の欄に、
自分で「悲しかった」と書きこむ人が
あまりに多くて、
後半の調査で、選択肢に加えられた。
選んだのは、男性の83%、女性の82%。
用意された欄に収まらないくらい、
悲しさは、男女どちらの答えにも
あふれていたにゃ。
あの人が、この5,705人の中に
いたかどうかは、わからないにゃ。
数字が教えてくれるのは、
平気そうな顔の下にも、
たいてい夜がある、
というところまで。
あの人の夜がどれくらいだったかは、
やっぱり、あの人にしか
わからないにゃ。
あなたの夜と、
あの人の昼の顔を、
並べていなかった?
ねこにも、失恋はあるにゃ。
ふられた次の朝も、
いつもどおり、ごはんを
ぜんぶ平らげる。
だれが見ても、平気なねこにゃ。
ただ、夜になると、
あの子が来ていた玄関のほうを、
しばらく見ているにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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