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ふたりの科学

「なんで怒ってるか分からない」って、ほんとうに分からないの?

…読む力より、「ここは読むところ」と思っているかどうか、の話かもしれないにゃ。

この研究を一枚で
問い
人の気持ちを当てるのは女性のほうが上手、と言われる。その差は、力の差なのか、やる気の差なのか
どこで
アメリカのオレゴン大学の学生。2つの実験で121人と107人(Klein & Hodges 2001)
どうやって
試験の失敗を話す女性のビデオを見て、止まった場面ごとに「いま何を考えているか」を書き、本人が書き残した答えと照らして点にした。思いやりを尋ねる質問の順番や、当てたらお金を払うかどうかを変えた
わかったこと
女性のほうが当てたのは、先に思いやりを尋ねられたときだけ。当てたらお金を払うと、男女とも点が上がり、差は消えた
その後の研究
目元の写真で気持ちを当てるテストでは、約30万人で女性の平均が少し高かった。ただし36問で1問に届かない差だった(2023年)

こんなやりとり、ないにゃ?

もういい
え、なにが?
…自分で考えて
ごめん、ほんとに分かんない
(なんで分からないの。これで何回目?)

顔を見れば分かるはずのことが、
この人には、どうして届かないんだろう。

「男の人は、人の気持ちを読むのが苦手」
とよく言われるにゃ。

でも、仕事の相手の機嫌には
ちゃんと気づいているように見える日も
あるにゃ。
ほんとうに、読めないのかにゃ。

🧪 研究 気持ちを当てる実験

ビデオの女性は、
いま何を考えている?

アメリカのオレゴン大学で、心理学者のクラインさんとホッジスさん(2001年)が、大学生に人の気持ちを当てる課題をしてもらったにゃ。

見るのは、別の大学の女性が話す5分ほどのビデオ。大学院に進みたかったのに、試験の数学の点が足りなかった、という話にゃ。

女性は話し終えたあと、自分のビデオを見返して、「ここでこう思っていた」という場面を書き残していた。学生たちは、ビデオがその場面で止まるたびに「いま、何を考えている?」と書きこむ。それを本人の答えと照らして、当たり具合を点にしたにゃ。

1つめの実験は121人。半分の人には、当てる課題の前に「この人を見て、いたわる気持ちや気の毒に思う気持ちが、どのくらいわいた?」と、思いやりを尋ねる質問に答えてもらった。残りの半分は、その質問を課題のあとに回したにゃ。

当たり具合(100点満点にすると)
思いやりの質問があと・女性45
思いやりの質問があと・男性42
思いやりの質問が先・女性53
思いやりの質問が先・男性40

女性が男性よりはっきり当てたのは、思いやりの質問に先に答えたときだけだったにゃ。質問があとなら、差はほとんどなかったにゃ。

質問ひとつの順番で、差が出たり消えたりした。研究者たちは、先に思いやりを尋ねられた女性が、「これは人の気持ちが分かるかを見られている課題だ」と受けとったのでは、と考えたにゃ。

🧪 研究 2つめの実験

「当てたら、
お金を払います」

2つめの実験では、107人の学生全員に、先に思いやりの質問に答えてもらったにゃ。1つめの実験で、女性の点が上がった並べ方にゃ。

そのうえで、3つの組に分けたにゃ。

組1

ふつうの組

とくに何もなし。

組2

点を知らせる組

自分が何点だったかを、あとで教えてもらう。

組3

お金の組

ぴったり当てたら2ドル、だいたい合っていたら1ドル。止まる場面は4か所で、最大8ドル。本気にしてもらうために、練習のビデオのあと、ほんとうにお金を封筒で渡したにゃ。

予想してみるにゃ

お金の組では、どうなったと思う?

📊 結果の読み方

「読めない」より、
「読む場面だと
思っていない」

📊 わかったこと

女性のほうが当てたのは、
「人の気持ちの課題だ」と気づかせる
合図があったときだけ。
当てることにお金が出ると、
男女とも点が上がり、差は消えた

ふだんの男性の点は、持っている力の全部ではなかった、ということにゃ。読む力そのものがないのなら、お金をもらっても点は上がらないはずにゃ。

もうひとつ、見落としやすいところがあるにゃ。お金の組では、女性の点も上がっていた。思いやりの質問で上がった女性の点も、まだ上限ではなかったにゃ。

人の気持ちを当てるのは、勘でぱっと分かることというより、力を使ってやる作業に近いのかもしれないにゃ。

論文には、こんなたとえも書いてあったにゃ。患者さんがなぜ薬を続けないのか、どうしても分からない医師がいる。でも同じ人が、家でブロッコリーよりスナック菓子を選ぶ夫の気持ちは、手に取るように分かる。

読めるかどうかは、人ごとに決まっているというより、場面と相手で変わるにゃ。

ただ、お金の組でも、ひとりひとりの点のばらつきは残ったにゃ。やる気さえあれば、だれでも同じように読めるわけではない、と研究者たちも書いているにゃ。

🤔 なぜ、合図ひとつで差が出たのか

「女の勘」は、
見られていると気づいたとき
強く出る?

この実験には、下じきになった話があるにゃ。

テキサスの大学の研究グループが、人の気持ちを当てる実験を続けていたら、7本続けて男女の差が出なかった。ところが次の3本では、女性のほうがはっきり上だった。

ちがいは、答えの用紙だけだったにゃ。あとの3本では、答えを書くたびに「いまの答え、どのくらい当たっていると思う?」と自分で見積もる欄が足されていた。

のちに15本の研究をまとめて分析すると、女性が上だったのは、「気持ちを当てる力を見られている」と分かる手がかりがあった研究だけだったにゃ。

研究者たちの説

大事な持ち場だと思うと、力が出る

人の気持ちが分かることは、長いあいだ「女性らしさ」の一部とされてきた。だから「これは共感の課題」と気づくと、女性は自分にとって大事な力が試されていると感じて、がんばる。男性にはその合図が効かないけれど、お金なら効いた。

やる気そのものを測ったわけではないので、結果から組み立てた説明にゃ。

よく読まれた本の見方

男と女は、別の星から来た

「男は火星から、女は金星から来た」。1990年代にベストセラーになった、男女の関係の本の題にゃ。この論文も、その題を引くところから始まっているにゃ。

男女は別の星の人ほどちがう、という見方は、すれちがいに名前をくれる。「回路がちがうから」と思うと、少し楽になる日もあるにゃ。ただ、人を集めて数えた研究ではないにゃ。この実験で見えたのは、合図ひとつで差が出たり消えたりする姿だったにゃ。

🔍 その後の研究

目元の写真のテストでは、
差はどのくらい?

目元だけが写った白黒の写真36枚を見て、「この人はいま、どんな気持ち?」を4つの言葉から選ぶテストがあるにゃ。2001年に今の形になって、世界中で使われているにゃ。

2023年に、約30万人のデータで、このテストの男女差を調べた研究があるにゃ。

目元のテストの平均点(36点満点)
女性27.6
男性26.9

女性のほうが平均で少し高く、57か国のうち36か国ではっきりした差が出たにゃ。ただ、その差は36問で1問に届かない大きさにゃ。

研究者たち自身も、この差は「小さい、またはごく小さい」と書いているにゃ。暮らしが豊かで、ひとりひとりの自由が大きい国ほど、差が小さい傾向も見えた。生まれつきの差なのか、育ちや暮らしの差なのかは、このテストだけでは分からないにゃ。

別の研究では、「人の気持ちが分かること」を自分にとって望ましいと感じてもらうと、男女とも当たりやすくなったにゃ。ただそれは、気持ちが表に出やすい相手のときだけ。読みにくい相手では、やる気だけでは点は上がらなかったにゃ。

🏠 今に置き換えて考える

取引先の顔色は、
読めているのに

実験の学生は、知らない女性のビデオを、合図とお金のある部屋で見ていたにゃ。

いまの私たちの「なんで分からないの」は、合図もお金もない、ふだんの台所や居間で起きるにゃ。

職場では

読むことに、見返りがある

取引先の機嫌、上司の「いまは話しかけないで」の空気。職場では、読み違えれば仕事に響き、読めれば評価につながる。実験の「お金の組」に近い場所にゃ。

家に帰ると、その見返りの合図がふっと消える。「読めない人」というより、「家を読む場面だと思っていない人」なのかもしれないにゃ。

家では

気づく係が、いつのまにか片方に

子どもが今日はやけに静かなこと、来客の前に足りないもの、相手の口数の少なさ。気づいて先に動くと「気が利くね」とほめられやすいのは、たいてい女性のほうにゃ。

実験で女性の点を上げたのは、「これは気持ちを読む課題」という小さな合図だった。家の中では、片方だけがずっと試験中で、もう片方は試験があることを知らない。そんな部屋になっているのかもしれないにゃ。

答え合わせ

「もういい」の正解は、どこにも書いていない

実験では、ビデオの女性が自分で見返して「ここでこう思っていた」と書き残していた。だから当たり外れが分かったにゃ。家の「もういい」には、その答えの紙がない。外れても、外れたことさえ分からないまま朝になる。

読みにくい相手には、やる気だけでは届かなかった。落ち着いたあとで「あのとき、こう思ってた」と答えだけ見せる。実験の手順を、ふたりでまねしてみるやり方もあるにゃ。

あなたならどれ?

「なんで怒ってるか分からない」と言われたとき、いちばん近い気持ちは?

🐱 猫の国の研究所より

ここからは、
研究所の考察にゃ。

「この人は、人の気持ちが読めない人なんだ」。
そう思うと、少しあきらめがつく。
そのかわり、読むのはずっと
こちらの仕事になるにゃ。

実験では、女性の点も動いていたにゃ。

思いやりの質問ひとつで上がって、
お金でまた上がった。
「女の勘」も、決まった量があるのではなく、
その場でどれだけ力を使うかで
変わっていたにゃ。

彼が読めないのが、力のせいではないなら、
あなたがいつも読めているのも、
たぶん勘だけのおかげではないにゃ。
合図がなくても、毎日試験を受けて、
力を使い続けてきた。
そう見ることもできるにゃ。

もちろん、何度伝えても
読もうとさえしてもらえないなら、
それはもう、力の話ではないにゃ。
「読めない」と「読まない」は、
別のものにゃ。

論文の、いちばん最後の一行にゃ。

「どうしても分かってもらえない
相手には、1ドル差し出して
みるといいかもしれない。
火星から来た人にも、
効くかもしれない」

研究者たちの、ちょっとした冗談にゃ。

でも裏を返せば、
人の気持ちを当てるのは、
お金が出るくらいの仕事
だったということにゃ。

あなたが毎日、ただで続けてきたことにゃ。

📚 参考文献

この記事で紹介した研究

📋 研究所のほかのレポートにゃ

📋
RESEARCH No.72

家事は分けたはずなのに、どうして頭の中だけ休まらないの?

…手を動かす前とあとにも、家事はあったにゃ。

🧊
RESEARCH No.69

気持ちを聞いたのに、起きたことの話しか返ってこないのは、男の人だから?

…父も、彼も、弟も。「さみしくない?」に、段取りで答える人たちの話にゃ。

💬
RESEARCH No.73

「ただ聞いてほしかった」のに、どうして解決策が返ってくるの?

…彼が「解決策」を出してくるのは、性格でも愛情の問題でもないかもにゃ。

Klein, K. J. K., & Hodges, S. D. (2001). Gender differences, motivation, and empathic accuracy: When it pays to understand. Personality and Social Psychology Bulletin, 27(6), 720-730. リンク
Ickes, W., Gesn, P. R., & Graham, T. (2000). Gender differences in empathic accuracy: Differential ability or differential motivation? Personal Relationships, 7(1), 95-109. リンク
Gray, J. (1992). Men Are from Mars, Women Are from Venus. HarperCollins.
Baron-Cohen, S., Wheelwright, S., Hill, J., Raste, Y., & Plumb, I. (2001). The "Reading the Mind in the Eyes" Test revised version: A study with normal adults, and adults with Asperger syndrome or high-functioning autism. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 42(2), 241-251. リンク
Greenberg, D. M., Warrier, V., Abu-Akel, A., Allison, C., Gajos, K. Z., Reinecke, K., Rentfrow, P. J., Radecki, M. A., & Baron-Cohen, S. (2023). Sex and age differences in "theory of mind" across 57 countries using the English version of the "Reading the Mind in the Eyes" Test. Proceedings of the National Academy of Sciences, 120(1), e2022385119. リンク
Thomas, G., & Maio, G. R. (2008). Man, I feel like a woman: When and how gender-role motivation helps mind-reading. Journal of Personality and Social Psychology, 95(5), 1165-1179. リンク
上記の研究知見をもとに、ニャンタルヘルスが独自に構成・考察したものです。原論文の翻訳ではありません。記事の内容は情報提供を目的としたものであり、医学的・心理学的な診断やアドバイスではありません。つらい状況にいる方は、信頼できる専門家にご相談ください。

著者:研究所のねこたち|ニャンタルヘルス
🐱 猫の国 研究所 ― nyantal.com