
…ある実験で見えたのは、「迷ったら脈あり」とは少しちがう読みちがいだったにゃ。
こんなこと、なかったにゃ?
笑っただけ。お礼を言っただけ。
それが、いつのまにか
「気がある」ことになっている。
そして最後には、
「思わせぶり」と
こちらのせいにされる。
読みちがいは、
どこで起きているのかにゃ。
アメリカ・インディアナ大学の心理学者ファリスさんたち(2008年)は、男女280人の大学生に、パソコンの前で写真の仕分けをしてもらったにゃ。
写真は、女子学生の全身を写した280枚。服は本人の手持ちのものにゃ。どれも前もって別の学生たちに見てもらい、「親しみ」「気がある」「悲しい」「拒んでいる」のどれを表しているか、たしかめてあったにゃ。
1枚を0.5秒か3秒だけ見て、4つのどれかを選ぶ。それを280回くり返したにゃ。
ここでいう「気がある」は、研究の言葉では「性的な関心がある」。恋愛の相手として近づきたい、というしるしのことにゃ。
まず、男性は「親しみ」の写真を「気がある」と読みちがえることが、女性より多かったにゃ。男性は12.1%、女性は8.7%。昔からくり返し確かめられてきたのと、同じ向きの結果にゃ。
では反対に、「気がある」写真を「ただの親しみ」と読み流したのは、どのくらいだったと思う?
迷ったときに「気がある」と読む線の位置は、
男性と女性でほぼ同じ。
ちがっていたのは、
ふたつを見分ける目の細かさだった
男性がなんでも「気がある」ように見ているのなら、「気がある」写真はよく当たるはずにゃ。でも実際は、そちらも取りこぼしていたにゃ。
どちらの向きにも外す。研究者たちはこれを、男性の見分けの粗さだと読んだにゃ。
線の位置でいえば、男女とも、迷ったら「親しみ」のほうに寄せていたにゃ。笑顔を見て、まず「気がある」と決めてかかっていたわけではなかったにゃ。
それから、読みちがいは女性の側にもあったにゃ。一瞬の表情やしぐさだけで「気がある」かどうかを見分けるのは、だれにとってもむずかしい。そのうえで、男性の目のほうが少し粗かった。それがこの実験の答えにゃ。
男性が「気がある」と読みやすい理由には、昔からいくつかの説があるにゃ。どれも決着はついていないにゃ。
2000年にアメリカの進化心理学者たちが唱えた「エラー管理理論」という説にゃ。大昔の男性にとって、相手の気持ちを見逃す損は、勘ちがいして恥をかく損より大きかった。だから「迷ったら気がある」と読む心が残った、という考え方にゃ。
何万年も前のことは確かめようがなく、仮説のままにゃ。それに、さっきの実験では、「迷ったら気がある」という線のずれは見つからなかったにゃ。同じ説を出した論文でも、知らない女性の「話しかける」「ふれる」を気があると読んだ男性たちが、自分の姉妹のこととして考えると読みすぎなかった、と報告されているにゃ。変えようのない心のしくみ、とまでは言えなさそうにゃ。
この実験をしたファリスさんたちの見方にゃ。表情やしぐさを読むのは、全体に女性のほうがやや得意だという研究がある。とくに恋愛の場に入ったばかりの若い男性は、親しみと好意を見分ける経験がまだ足りないのかもしれない、と論文に書いているにゃ。
この説なら、粗さは経験で細かくなっていく余地があるにゃ。
この分野の最初の実験(1982年)をした研究者の見方にゃ。男性は、まわりの人やメディアから、人づきあいを恋や性の目で見るように教わって育つ。だから同じ笑顔にも、恋愛の意味を読みこみやすい、という説にゃ。
三つは、どれかひとつが正しいというより、重なっているのかもしれないにゃ。そして、どの説も、笑った側に理由を探してはいないにゃ。
実験室の写真ではなく、暮らしの中で実際にあったことを聞いた調査もあるにゃ。2014年に、ノルウェーの大学で、18〜30歳の学生308人に聞いたものにゃ。前にアメリカで行われた調査を、同じ質問でやり直したにゃ。
聞いたのは、「ただ親切にしていただけなのに、異性に『気がある』と取られたことはある?」と、「気があったのに、異性に『ただの親切』と取られたことはある?」のふたつにゃ。
女性は、ひとつめの経験がとびぬけて多かったにゃ。男性は、ふたつの経験がほぼ同じくらいだったにゃ。
ノルウェーは、男女の平等が世界でもとくに進んだ国のひとつにゃ。それでも、アメリカの調査とほぼ同じ形が出たにゃ。調べた研究者は、これを進化の説を支える結果だと読んでいるにゃ。
実験室では見つからなかったかたよりが、暮らしの記憶の中にはある。このずれを、どう考えたらいいのかにゃ。
実験をしたファリスさんたちも、暮らしの調査とのこのずれを気にしていたにゃ。論文の終わりで、三つの見方を挙げているにゃ。
「気がある」と読みちがえた人は、誘う、さわる、連絡先を渡す、と動くにゃ。だから覚えている。
反対に、気持ちを「ただの親しみ」と読み流した人は、何もしない。何もしないことは、外れたと気づかれにくいにゃ。
恋愛の気持ちを見せる場面ひとつに対して、ただ感じよくしている場面は、何十も何百もある。粗い目が試される回数も、そのぶん親しみの場面に集まる、という見方にゃ。
「気があるんでしょ」と迫りつづける人の中には、相手に気がないと正しくわかったうえで、言いくるめよう、押し切ろうとしている人もいるかもしれない。論文はそう書いているにゃ。
それはもう、読みちがいの話ではないにゃ。
ファリスさんたちは論文の冒頭で、こうも書いているにゃ。読みちがいは、たいていは気まずさで終わる。でも、相手に性的なことを無理じいした男性ほど、こうした読みちがいの経験を多く話していた、と。
この実験は、そこへつながる入口を調べるためのものでもあったにゃ。
実験の写真はアメリカの、調査はノルウェーの大学生のものにゃ。日本の人を同じように調べた研究は、ここには入っていないにゃ。
それでも、いまの日本の暮らしに置いてみると、思い当たる場面があるにゃ。
接客、受付、窓口、営業。感じよくすることが、仕事の中身に入っている人はたくさんいるにゃ。
研究の見方でいえば、親しみを見せる回数がとびきり多い場所にゃ。調査は仕事の種類までは聞いていないけれど、そのぶん粗い目に出会う回数も増えるのかもしれないにゃ。その笑顔は、仕事として出しているもので、だれかへの合図ではないにゃ。
読みちがいが起きたあと、日本語には、見せた側に理由を探す言葉がそろっているにゃ。
実験では、迷ったときの線の位置は男女で同じで、ずれていたのは見る側の目の細かさだったにゃ。「思わせぶり」は、見る側の粗さを、見せた側の落ち度に言いかえてしまう言葉なのかもしれないにゃ。
「いや」と言われても、本心は別だと読みかえる言い回しにゃ。
表情は読みちがえることがある。でも、言葉で「いや」と言われたら、もう読み解く問題ではないにゃ。言われたとおりに受けとるだけにゃ。そこから先も迫るのは、さっきの見方③、読みちがいのせいにできない近づき方のほうにゃ。
親切を「気がある」と取られたあと、あなたがしたことに近いのは?

4割近く。
この実験で男性が、「気がある」写真を
「ただの親しみ」と読み流した割合にゃ。
反対向きの、「親しみ」を
「気がある」と読んだほうは、1割ちょっと。
実験の中では、見落としのほうが
ずっと多かったにゃ。
それでも、覚えているのは、
たぶん少ないほうの読みちがいにゃ。
読み流された気持ちは、
だれの話題にもならずに終わる。
ノルウェーの調査では、
「気があったのに、親切と取られた」女性も
4割近くいたにゃ。
あなたにも、気づかれないまま
終わった日があったかもしれないにゃ。
粗い目は、どちらの向きにも外れる。
ちがうのは、外れたあとにゃ。
読み流した人は、何もしない。
「気がある」と読んだ人は、動く。
メモを渡す。「気があるでしょ」と言う。
その前に、ひとこと聞くか。
聞かずに進むか。
ただの読みちがいが、
だれかを困らせる出来事に変わるのは、
そこにゃ。
読みちがいの後始末をするのは、
笑った側ではなさそうにゃ。
猫の国の、あいさつの話にゃ。
しっぽを立てて寄ってくるのは、
あいさつ。
抱っこしていいかは、
猫が決める。
猫は、ごはんをくれる人にも、
はじめて来たお客さんにも、
しっぽを立てて寄っていくにゃ。
それを「好かれた」と思うのは、
その人の自由にゃ。
でも、抱き上げていいかどうかは、
猫のほうが決める。
猫と暮らす人なら、
たいてい知っていることにゃ。
人の笑顔も、たいていは
しっぽと同じ、あいさつにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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