
…悲しい映画のあと、何も手に入らない「買い物」で変わったものがあったにゃ。
こんな夜、ないにゃ?
次の日には、
「また買っちゃった」と
思うこともあるにゃ。
落ちこんだ日の買い物は、
ただのむだづかいなのか。
それとも、あのとき何かが
ほんとうに軽くなっていたのか。
ミシガン大学の経営学者、リックさんたち(2014年)は、「落ちこんだときの買い物は、本当に気分を軽くするのか」を実験で確かめたにゃ。お店で聞いてまわるのではなく、先に悲しい気持ちを起こしてから比べたにゃ。
インターネットで参加した大人100人に、まずボクシング映画『チャンプ』の、男の子の大切な人が死んでしまう場面を見てもらったにゃ。
そのあと、ワインのデカンタ、ボードゲーム、小さなスピーカーなど、1つ25ドルの品を12個並べて、くじで2組に分けたにゃ。
好きなものを4つ選んで、買い物かごに入れる。
同じ12品から4つ選んで、「旅行用」の箱に入れる。
どちらの組も、本当には何ももらえないにゃ。気分は、実験の最初と最後に答えてもらったにゃ。
映画のあと、悲しさの増え方が小さかったのは、どっちの組?
どちらの組も、映画のあとは
最初より悲しくなっていた。
でも、その増え方は
選ぶ組のほうが小さかった
旅行組にも、選ぶ作業はあったにゃ。でも「旅行に役立つか」というお題がついていた。デカンタを旅に持っていこうと考えた人は、いなかったにゃ。
好きに選べたのは、選ぶ組だけ。研究者たちは、この差を「自分で決められる感じ」の差と見ているにゃ。3つの実験のどれでも、その感じが戻ったことが、悲しさの差の裏にあるという結果が出ていたにゃ。
本物のお菓子を買えるようにした、女子学生45人の実験もあるにゃ。いじめの場面の映画のあと、買うほうを選んだ人は、買わなかった人より、終わりの悲しさが低かったにゃ。
ただ、怒りは別だったにゃ。腹が立っているときは、選んでも、怒りは軽くならなかったにゃ。
研究者たちの説明は、感情の研究でよく使われてきた考え方にもとづいているにゃ。気持ちにはそれぞれ決まった「世界の見え方」がついてきて、その見え方が、次の判断にも持ちこまれる、というものにゃ。
起きたことが、まわりの状況や運で決まってしまった感じがする。
12品から好きな4つを選ぶのは、小さいけれど「ここは私が決める」場所にゃ。なくしかけた「決められる感じ」を、そこで少し取り戻すのでは、という説にゃ。
悪いのはだれかだと、はっきり見えている。「決められる感じ」は、もともとなくしていないにゃ。
だからマグを選んでも、怒りの宛先には届かない。研究で怒りが軽くならなかったのは、そのためだと研究者たちは見ているにゃ。
リックさんは、罪悪感のように「自分のせい」と感じる気持ちも、買い物では軽くなりにくいだろう、とも書いているにゃ。こちらは、まだ確かめていない見通しにゃ。
同じ「落ちこんだ」でも、中身が悲しさか、怒りか、うしろめたさかで、選ぶことの効き方は変わるのかもしれないにゃ。
買い物の話には、よく「買う前にドーパミンが出る」という言い方が出てくるにゃ。もとになっているのは、2007年にスタンフォード大学で行われた脳の研究で、じつはここにも、リックさんが加わっていたにゃ。
18〜26歳の26人が、脳の血の流れを写す装置(fMRI)の中で、買い物をしたにゃ。品物を4秒、値段を4秒見て、4秒で「買う/買わない」を決める。それを全部で80品。
手もとには20ドル。あとでくじで選んだ1回だけは本物で、「買う」を選んでいたら、その品が本当に家に届いたにゃ。
欲しい品が映ると、「いいことが来そう」に関わる場所(側坐核)が動く。値段が高すぎると、別の場所(島皮質)が動いて、頭の前の内側の場所が静かになる。どれも、ボタンを押す前の数秒のことにゃ。
当てずっぽうより、10ポイントほど上だったにゃ。たしかに当たるけれど、心が読めるほどではないにゃ。
測ったのは場所ごとの血の流れの変化で、ドーパミンそのものではないにゃ。言えるのは、「欲しい」と「高い」が、決める前に別々の場所で動いていた、というところまでにゃ。
リックさんたちの実験にも、限りがあるにゃ。映画で起こしたのは短い悲しさで、買い物も架空の100ドルや、小さなお菓子。長く続く落ちこみや大きな買い物でどこまで同じことが言えるかは、これからの問いだと、研究者自身が話しているにゃ。
実験の人たちが選んだのは、画面に並んだ12品。選んでも、お金は1円も動かなかったにゃ。
いまの私たちの買い物は、もう少しにぎやかにゃ。
実験で効いていたのは、選ぶほうで、払うほうではなかったにゃ。でもいまは、登録したカードやあと払いで、選んだ指のまま支払いまで進めてしまうにゃ。
さっきの脳の研究の人たちは、論文の終わりに、カードのように支払いが目に見えず先に回ると、「払う痛み」がにぶるのかもしれない、と書いていたにゃ。「高い」と感じる場所の声が、ボタンを押す前に届きにくくなる、ということかもしれないにゃ。
「セール終了まであと3時間」「残りわずか」「あなたへのおすすめ」。いまの買い物の画面は、こちらの「欲しい」の横に、別の物差しをそっと置いてくるにゃ。
実験の旅行組は、お題に沿って選んだ組だったにゃ。時計に急かされて押した「購入」が、自分で決めた感じを戻してくれるのか。調べた研究はないけれど、旅行組のほうに近いのかもしれないにゃ。
リックさん自身も、落ちこむたびに買い物をくり返すと、借金がふえて、取り戻したかった「自分で決められる感じ」そのものを、かえって危うくする、と書いているにゃ。
引き落としの日がこわい、やめたいのに手がのびる。そうなっているなら、意志が弱いというより、買い物がひとりで背負うには重すぎる役目を負わされているのかもしれないにゃ。信頼できる人やニャンタル、専門家と、いっしょに荷をほどいていく話にゃ。
落ちこんだ夜に買い物アプリを開くとき、いちばん近いのは?

旅行組の人たちも、
同じ12品を見て、
同じように4つ選んで、箱に入れたにゃ。
手の動きは、選ぶ組と
まったく同じ。
ちがったのは、
「旅行に役立つか」で選んだか、
自分の「欲しい」で選んだか。
それだけにゃ。
しんどい日の昼間は、たいてい
だれかのお題で埋まっているにゃ。
締め切り、家の段取り、だれかの機嫌。
夜に買い物アプリを開く指は、
モノを探しているようで、
お題のついていない場所を
探しているのかもしれない。
旅行組と選ぶ組を並べて、
ねこたちはそんなふうに読んだにゃ。
悲しい日に効いていたのは、
手に入れることより、
選ぶことだった。
リックさんは、本棚の並べかえのような、
買い物ではない「選ぶ」にも、
同じ力があるかもしれない、と書いていたにゃ。
お店ほどは手招きしてくれないのが、
むずかしいところだけれど。
研究所のねこは、しょんぼりした日、
家じゅうの箱をひとつずつのぞいて、
いちばん狭いのを選んで入るにゃ。
だれのお題でもない、今夜の箱にゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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