
…ごはんをねだるゴロゴロには、赤ちゃんの泣き声に近い高さの音がまざっていたにゃ。
こんな朝、ないにゃ?
夜、膝の上で聞くゴロゴロは、
いつまでも聞いていたくなる。
なのに朝のゴロゴロは、
なぜか気になって、もう眠れない。
同じゴロゴロのはずなのに、にゃ。
イギリスのサセックス大学のマコームさんは、ゾウやライオンの声を調べてきた研究者にゃ。
きっかけは、自分の猫のペポ。毎朝、しつこいゴロゴロで起こしにくるにゃ。ほかの飼い主に聞いてみると、同じ朝を送っている人がほかにもいたにゃ。
ただ、録るのがむずかしかったにゃ。猫は知らない人が来ると、だまるか、どこかへ行ってしまう。そこで飼い主に録音のしかたを教えて、家で録ってもらったにゃ。
集まったのは10匹の猫の、ごはんをねだるときのゴロゴロと、それ以外のとき(くつろいでいる・なでられている)のゴロゴロ。音量をそろえて、50人に聞いてもらったにゃ(2009年)。
ごはんをねだるときのゴロゴロを、人はどう聞いたと思う?
猫と暮らしている人のほうが、聞き分けは少しだけうまかったにゃ。でも、ちがいはだれの耳にも届いていたにゃ。
音を調べると、ちがいのもとが見つかったにゃ。
1秒に25回ほどふるえる、とても低い音にゃ。
220〜520Hzあたりに、「ニャー」に近い高い音が重なっていたにゃ。これが強いゴロゴロほど、急いでいて心地よくないと聞かれたにゃ。
研究者たちは、この高い音が、赤ちゃんの泣き声の高さと近いことに気づいたにゃ。
さいごに、録ったゴロゴロからその高い音だけを消して、ほかはそのままにして聞いてもらったにゃ。すると、急いでいる感じははっきり弱まったにゃ。
猫は鳴いていない。でもゴロゴロの中に、小さな泣き声をしのばせていた。朝のあなたが起きてしまうのは、それを聞きとる耳が、ちゃんと働いているからかもしれないにゃ。
研究者たちの見立てはこうにゃ。人もほかの多くのけものも、子どもの泣き声にはとても敏感にできている。ねだるゴロゴロは、その耳にそっと訴えかけている。
マコームさんは、こんなふうにも話しているにゃ。「はっきりニャーと鳴けば、寝室から追い出されかねない。ゴロゴロのおねだりのほうが、人には受け入れられやすいのだろう」。
高い音は、ふつうのゴロゴロにも少しだけ入っているらしいにゃ。それを、効いたときに大きくしていくことを、猫が覚えるのではないか、と研究者たちは考えているにゃ。
だから、ねだるゴロゴロを使わない猫もいるにゃ。よく使うのは、飼い主と一対一で暮らしている猫らしいにゃ。人の多い家では、ゴロゴロは聞きのがされやすいので、ふつうに鳴くほうが早いのだろう、と研究者は話しているにゃ。
そもそも、猫がなぜゴロゴロするのかは、まだ全部はわかっていないにゃ。うれしいときだけでなく、緊張しているときや、具合が悪いときにも鳴らすことがあると言われているにゃ。ゴロゴロは「しあわせ」の合図というより、近くにいる相手への合図に近いのかもしれないにゃ。
「猫のゴロゴロは骨を治す周波数」という話を、聞いたことがあるかもしれないにゃ。
もとは、2001年にアメリカの音響の学会で出された、短い発表にゃ。イエネコやサーバル、オセロット、ピューマのゴロゴロを録って、どれも低い音だとたしかめた研究者が、問いを立てたにゃ。題には「?」がついていたにゃ。
ゴロゴロの低い音は、
骨や筋肉に振動をあてる研究で
使われてきた高さと重なる。
ゴロゴロは、猫が自分のからだを
いたわるためのものでもあるのでは?
振動と骨の研究は、たしかにあるにゃ。羊の後ろ脚に、1日20分、1秒に30回ほどのごく弱い振動を1年あてると、太ももの骨の中のスポンジのような部分が、あてなかった羊より密になっていたにゃ。これは羊の研究にゃ。
でも、猫が自分のゴロゴロで骨を治しているかを確かめた研究は、まだないにゃ。「骨を治すのにいちばん効く周波数」も見つかっていないにゃ。
それに、病院で骨折に使う超音波の機械は、1秒に150万回ふるえる音。1秒に25回ほどのゴロゴロとは、まるで別のものにゃ。
ゴロゴロのお手入れ説は、いまも確かめられていない、楽しい問いのままにゃ。
ゴロゴロがどうやって鳴っているのかも、長いあいだの謎だったにゃ。
よく言われてきたのは、脳が1秒に20〜30回の合図を出して、のどの筋肉をぴくぴく動かしている、という説明。ふつうの鳴き声とはまったく別のしくみだと考えられてきたにゃ。
2023年、ウィーンの研究者たちが、重い病気で亡くなった猫8匹の、のどの声を出す部分を取り出して、空気を通してみたにゃ。脳からの合図は、もう届かないにゃ。
それでも、8匹ぶんのどれもが、ゴロゴロと同じ1秒に25〜30回ほどでふるえたにゃ。声を出すひだの中に、直径4ミリほどまでのやわらかいかたまりがあって、それが低い音を出しやすくしているらしいにゃ。
筋肉の動きが手伝っている可能性は、まだ残っているにゃ。それでもゴロゴロは、「ニャー」と同じのどの、同じようなしくみで鳴っているらしい。
ゴロゴロに「ニャー」が重なるのも、ふしぎではないのかもしれないにゃ。
2009年のイギリスでは、猫のゴロゴロを集めるだけで、飼い主に録音機の使い方を教えるところから始めなければならなかったにゃ。
いまの日本の暮らしに置き換えると、こんなことが見えてくるにゃ。
ねだるゴロゴロをよく使うのは、一対一で暮らす猫だったにゃ。ひとり暮らしで猫と住む人なら、朝ごはんを出せるのはあなただけ。家族と住む家では、いちばん先に起きそうな人の枕もとを、猫はちゃんと選んでいるのかもしれないにゃ。
研究と同じことが、いまは手もとでできるにゃ。朝のねだるゴロゴロと、夜になでているときのゴロゴロを録って、並べて聞いてみる。高い音がひとすじ聞こえるかは、猫によってちがうはずにゃ。
猫と暮らしていない人が、眠る前にゴロゴロの動画を流すこともあるにゃ。研究では、猫と暮らしたことがない人も、ねだる音を聞き分けていたにゃ。ほっとしたい夜には、ごはん前ではない、のんびりしたゴロゴロのほうが向いているかもしれないにゃ。
朝5時40分、耳もとでゴロゴロがはじまった。あなたなら?

録ったゴロゴロから、
高いひとすじだけを消す。
それだけで、急いでいる感じは
はっきり弱まったにゃ。
朝の、気になって眠れないあの感じは、
ゴロゴロ全部ではなく、
その細いひとすじに
乗っていたのかもしれないにゃ。
朝のゴロゴロは「おなかがすいた」。
そこに、小さな泣き声がまぜてある。
だとしたら、夜、膝の上で
高い音のまざらないゴロゴロが
続いているときは、
「いまは、なにもいらない」
と言っているのかもしれないにゃ。
膝の上のゴロゴロにほっとするのは、
なにも頼まれていないから。
そんなふうに聞いてみるのも、
ひとつの楽しみ方にゃ。
今夜なでるときは、
低い音の上に、高いひとすじが
入っていないか、
耳をすませてみてにゃ。
毎朝起こされた研究者が、
たどりついた答えにゃ。
朝のゴロゴロは、
泣き声入りの
おねがいだったにゃ。
この論文のおしまいには、
録音に協力した猫たちの名前が
並んでいるにゃ。
アーチー、クライド、マーブルズ、
モジョ、ソックス。
それから、ペポ。
そのあとに、もうひと言。
「…と、がまん強い
その飼い主たちに感謝します」。
ねだられながら録音ボタンを押した人たちにも、
ちゃんとお礼が書いてあったにゃ。⏰
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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