ボンゴレ
そっと・4分

ボンゴレ:同じメニューに、手が伸びた

匿名の夫・4分・そっと

「あ、それ私も頼もうと思ってた」

彼女がそう言った瞬間、なぜか心臓が跳ねた。

付き合って3ヶ月。初めて一緒に行ったイタリアンレストラン。

メニューを開いて、すぐに決まった。ボンゴレビアンコ。

「決まった?」

「うん。ボンゴレ」

彼女が笑った。

「嘘、私もボンゴレにしようとしてた」

それだけのこと。

でも、その瞬間、頭に浮かんだ。

「ああ、この人と結婚するんだろうな」

自分でも驚いた。まだ付き合って3ヶ月なのに。

なんでそう思ったのか、最初は分からなかった。

ただメニューが被っただけ。偶然かもしれない。

でも、違った。

思い返すと、他にもあった。

映画を選ぶ時、同じのを指差した。カフェで、同じタイミングで「ここ静かでいいね」と言った。スーパーで、同じお菓子をカゴに入れようとした。

好みが似てる。

それが、こんなに心強いとは思わなかった。

前に付き合ってた人とは、何を食べるかで揉めた。

「ラーメン食べたい」「えー、私パスタがいい」

毎回、どちらかが譲る。小さなことだけど、積み重なると疲れた。

「なんで合わせてくれないの?」

そんな喧嘩もした。

でも、彼女とは違った。

「何食べたい?」「うーん、中華かな」「あ、俺も」

こんな会話ばかり。

最初は気づかなかった。でも、あのレストランで気づいた。

この人とは、無理しなくていい。

合わせなくても、合ってる。

その夜、彼女を家まで送った。

「今日、楽しかった」

「うん、俺も」

彼女が笑った。その笑顔を見て、また思った。

この人だ。

プロポーズしたのは、それから1年後。

レストランで、同じメニューを頼んだ。あの日と同じ、ボンゴレビアンコ。

「覚えてる?初めてここ来た時」

「うん。同じの頼もうとしたんだよね」

「あの時さ、思ったんだ。この人と結婚するんだろうなって」

彼女が驚いた顔をした。

「え、あの時?」

「うん」

「私も、実は思ってた」

今度は、僕が驚いた。

「嘘」

「本当。同じの頼もうとしてるの見て、この人だって思った」

二人で笑った。

結婚して、5年が経った。

今でも、外食する時は好みが合う。たまに被らないこともあるけど、それはそれで楽しい。

「今日は別々にして、シェアしよう」

そう言って、お互いのを分け合う。

劇的な出会いじゃなかった。ドラマみたいなプロポーズでもなかった。

でも、同じメニューに手が伸びた、あの瞬間。

あれが、僕たちの始まりだった。

小さなことで分かることがある。

この人と一緒にいたい。この人とご飯を食べたい。この人と生きていきたい。

そういう気持ちは、案外、普通の日常の中で見つかるものなのかもしれない。

― 匿名の夫

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