ハンバーグ
そっと・4分

ハンバーグ:沈黙が、怖くなかった

匿名の気疲れする人・4分・そっと

私は、人といると疲れる。

誰かと一緒にいる時、常に考えている。「何か話さなきゃ」「沈黙になったらどうしよう」「つまらないと思われてないかな」。

友達といても、そう。家族といても、そう。

会話が途切れると、焦る。何か話題を探す。天気の話、最近のニュース、相手の持ち物を褒める。

とにかく、沈黙を埋めようとする。

だから、人と会った後はいつもぐったりしていた。

「楽しかったね」と言いながら、心の中では「疲れた」と思っている。

そんな自分が、嫌だった。

彼とは、職場の飲み会で知り合った。

隣の部署の人。特に話したこともなかった。

飲み会の後、たまたま帰る方向が同じだった。

「ご飯、食べていきません?」

なんでそう言ったのか、今でも分からない。お酒の勢いだったのかもしれない。

近くのファミレスに入った。

最初は普通に話していた。仕事のこと、職場の人のこと、当たり障りのない話。

でも、料理が来て、食べ始めて、会話が途切れた。

「やばい」

いつもの焦りが来た。何か話さなきゃ。

でも、彼は気にしていないようだった。

黙って、ハンバーグを食べている。窓の外をちらっと見て、また食べる。

私も、黙って食べた。

5分くらい、無言だったと思う。

不思議だった。

焦りが、なかった。

「何か話さなきゃ」と思わなかった。沈黙が、怖くなかった。

ただ、一緒にご飯を食べている。それだけで、良かった。

彼が言った。

「ここのハンバーグ、美味しいですね」

「うん、美味しい」

それだけ。

でも、その「それだけ」が、私には衝撃だった。

会話を続けなきゃとか、盛り上げなきゃとか、そういうのがない。

ただ、一緒にいる。

こんなの、初めてだった。

帰り道、また少し無言の時間があった。でも、全然平気だった。

「今日、ありがとうございました」

「こちらこそ」

それだけの別れ際。

家に帰って、気づいた。

疲れてない。

誰かと会った後なのに、ぐったりしてない。

「この人だ」

そう思った。結婚とか、付き合うとか、そういう具体的なことじゃなくて。

この人とは、無理しなくていい。

それが分かった。

その後、何度かご飯に行った。

やっぱり、沈黙が怖くなかった。話したい時は話す。話さなくていい時は、黙っている。

「私、人といると気疲れするんだよね」

ある日、思い切って言ってみた。

「俺も」

彼が言った。

「だから、あなたといると楽なのかも」

同じだったんだ。

付き合って、3年が経った。

今でも、沈黙は多い。

一緒にテレビを見て、黙っている。一緒にご飯を食べて、黙っている。

でも、寂しくない。

たまに友達に言われる。

「二人、あんまり喋らないよね」

そうかもしれない。でも、それでいい。

言葉がなくても、一緒にいられる。

それが、私たちには合っている。

あの夜、ファミレスで沈黙が怖くなかった瞬間。

あれが、始まりだった。

人といると疲れる私が、疲れなかった人。

沈黙が怖くなかった人。

今夜も隣で、黙ってテレビを見ている。

いいハンバーグの店を見つけたから、今度の休みに誘おうと思う。

たぶん、店でも、あんまり喋らない。

― 匿名の気疲れする人

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