「私が、あなたの最後の女になる」
彼女がそう言った時、酔いが一気に醒めた。
40歳。バツイチ。
正直、もう恋愛とか結婚とか、諦めていた。
一度目の結婚は、7年で終わった。理由は、いろいろあった。仕事が忙しかった。すれ違いが増えた。気づいた時には、家に帰っても会話がなかった。
離婚届を出した日、思ったのは「解放された」だった。
悲しいとか、寂しいとか、そういう感情より先に、安堵があった。
それから3年、一人で生きてきた。
仕事して、帰って、寝る。休みの日は、一人で映画を見たり、飲みに行ったり。
悪くなかった。気楽だった。
「もう誰かと暮らすのは、無理だな」
そう思っていた。
彼女と出会ったのは、取引先の飲み会だった。
5歳下。明るくて、よく笑う人だった。
最初は、ただの知り合い。仕事の話をして、たまに連絡を取るくらい。
でも、気づいたら二人で会うようになっていた。
「一緒にいて、楽しい」
久しぶりに、そう思った。
彼女には、最初から正直に話していた。
「俺、バツイチなんだ」
「知ってる。聞いた」
「そっか。まあ、そういうわけで、いろいろ面倒な男だよ」
「別に、気にしない」
そう言ってくれた。でも、心のどこかで信じられなかった。
「いつか、離れていくだろう」
そう思っていた。
前の結婚で学んだ。人の気持ちは変わる。「ずっと一緒にいよう」と言っても、いつか終わる。
だから、期待しないようにしていた。
付き合って半年。
二人で飲んでいた夜、彼女が言った。
「ねえ、私たち、このままでいいの?」
「このままって?」
「付き合ってるけど、その先は?」
俺は、黙った。
「俺は、一回失敗してるから。また誰かを不幸にするかもしれない」
本音だった。
彼女は、じっと俺を見た。
「私が、あなたの最後の女になる」
その言葉が、刺さった。
「最後」という言葉。
それは、覚悟だった。
逃げ道を作らない、覚悟。
俺が何を言っても、彼女は逃げないという宣言。
「本気で言ってる?」
「本気」
彼女の目を見た。揺らいでいなかった。
ああ、この人は、信じられる。
理屈じゃなかった。
ただ、分かった。この言葉に、嘘はない。
「俺でいいの?」
「あなたがいい」
その夜、泣いた。
40歳にもなって、情けないと思った。でも、止まらなかった。
「もう一回、信じてみよう」
そう思えた。
結婚したのは、その1年後。
小さな式だった。お互いの家族と、少しの友人だけ。
「最後の女」
彼女は、本当にそうなった。
今でも、一緒にいて楽しい。
笑い合って、たまに喧嘩して、また笑い合う。
前の結婚で、何がダメだったのか。今なら分かる。
俺は、相手を信じていなかった。相手も、俺を信じていなかった。
今は、違う。
「最後の女になる」
あの言葉を、俺は信じた。彼女も、俺を信じてくれている。
それだけで、十分だ。
もしあなたが、過去の失敗で臆病になっているなら。
もう一度、信じてみてもいいかもしれない。
信じられる人は、ちゃんと現れる。
俺は、そう思っている。
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*© 2025 匿名の再出発した男*