もう恋愛なんかしない。
そう決めたのは、2年前。
泣いて、泣いて、泣き尽くして、やっと決めた。
「もう誰も好きにならない」
傷つくのは、もう十分。あんな思いをするくらいなら、一人でいい。
一人は寂しいけど、傷つくよりマシ。
そう思って生きてきた。
恋愛の話題は避けた。友達の惚気話は「良かったね」で流した。マッチングアプリは全部消した。
職場の飲み会で「彼氏いないの?」と聞かれても、「いらない」と笑って答えた。
本当に、いらなかった。
あの痛みを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。
好きだった。本気で好きだった。結婚するって思ってた。
でも、終わった。
理由なんて、今さらどうでもいい。終わったという事実だけが残った。
あの後、半年くらい、まともに生活できなかった。仕事には行った。でも、それ以外の記憶がない。食べてたのかも覚えてない。
「時間が解決する」って言うけど、嘘だと思った。
2年経っても、傷は消えなかった。ただ、痛みに慣れただけ。
だから、もう恋愛はしない。
そう決めて、守ってきた。
なのに。
気づいたら、あの人のことを考えている。
職場に異動してきた、年下の男の子。
最初は、なんとも思わなかった。「新しい人が来たんだ」くらい。
でも、少しずつ話すようになった。
仕事の相談をされた。ランチが一緒になった。帰りの電車が同じだった。
「先輩、面白いですね」
そう言って笑う顔を見た時、心臓が変な音を立てた。
やめろ、と思った。
これは知ってる。この感覚を知ってる。
好きになる前兆。心が動き始める合図。
ダメだ。ここで止めないと。
また傷つく。また泣く。また立ち直れなくなる。
分かってる。分かってるのに。
彼からLINEが来ると、嬉しい。
一緒に帰れると、嬉しい。
目が合うと、嬉しい。
全部、嬉しい。
忘れてた。この感覚。
誰かを好きになると、世界が少し明るくなる。
嫌だ。
明るくならなくていい。暗いままでいい。安全な場所にいたい。
でも、心が言うことを聞かない。
「もう恋愛なんかしない」
その決意が、少しずつ溶けていく。
友達に話した。
「やばい。好きになりそう」
「いいじゃん、恋しなよ」
「無理。また傷つくの、怖い」
「傷つくかもしれないけど、傷つかないかもしれないじゃん」
そんなの、分からない。
分からないから、怖いんだよ。
でも、分からないから、希望もあるのかもしれない。
今日、彼が言った。
「先輩、今度ご飯行きませんか」
心臓が、うるさかった。
「いいよ」
気づいたら、そう答えてた。
帰り道、自分に呆れた。
「もう恋愛しないって、決めてたじゃん」
でも、もう一人の自分が言う。
「でも、楽しみじゃん」
楽しみ、なんだよ。悔しいけど。
怖い。傷つくかもしれない。また泣くかもしれない。
でも、それでも、会いたいって思ってしまう。
恋って、ずるい。
決意なんか、簡単に壊してくる。
痛みを忘れさせて、また飛び込ませようとする。
分かってるのに、抗えない。
もう恋愛なんかしないって、決めてたのに。
君がいると、その決意がどうでもよくなる。
これが恋なら、本当にずるい。
本当に、ずるい。
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*© 2025 匿名の懲りない人*