帰りの電車
ふつう・4分

帰りの電車:もう恋愛なんかしないって、決めてたのに

匿名の懲りない人・4分・ふつう

もう恋愛なんかしない。

そう決めたのは、2年前。

泣いて、泣いて、泣き尽くして、やっと決めた。

「もう誰も好きにならない」

傷つくのは、もう十分。あんな思いをするくらいなら、一人でいい。

一人は寂しいけど、傷つくよりマシ。

そう思って生きてきた。

恋愛の話題は避けた。友達の惚気話は「良かったね」で流した。マッチングアプリは全部消した。

職場の飲み会で「彼氏いないの?」と聞かれても、「いらない」と笑って答えた。

本当に、いらなかった。

あの痛みを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。

好きだった。本気で好きだった。結婚するって思ってた。

でも、終わった。

理由なんて、今さらどうでもいい。終わったという事実だけが残った。

あの後、半年くらい、まともに生活できなかった。仕事には行った。でも、それ以外の記憶がない。食べてたのかも覚えてない。

「時間が解決する」って言うけど、嘘だと思った。

2年経っても、傷は消えなかった。ただ、痛みに慣れただけ。

だから、もう恋愛はしない。

そう決めて、守ってきた。

なのに。

気づいたら、あの人のことを考えている。

職場に異動してきた、年下の男の子。

最初は、なんとも思わなかった。「新しい人が来たんだ」くらい。

でも、少しずつ話すようになった。

仕事の相談をされた。ランチが一緒になった。帰りの電車が同じだった。

「先輩、面白いですね」

そう言って笑う顔を見た時、心臓が変な音を立てた。

やめろ、と思った。

これは知ってる。この感覚を知ってる。

好きになる前兆。心が動き始める合図。

ダメだ。ここで止めないと。

また傷つく。また泣く。また立ち直れなくなる。

分かってる。分かってるのに。

彼からLINEが来ると、嬉しい。

一緒に帰れると、嬉しい。

目が合うと、嬉しい。

全部、嬉しい。

忘れてた。この感覚。

誰かを好きになると、世界が少し明るくなる。

嫌だ。

明るくならなくていい。暗いままでいい。安全な場所にいたい。

でも、心が言うことを聞かない。

「もう恋愛なんかしない」

その決意が、少しずつ溶けていく。

友達に話した。

「やばい。好きになりそう」

「いいじゃん、恋しなよ」

「無理。また傷つくの、怖い」

「傷つくかもしれないけど、傷つかないかもしれないじゃん」

そんなの、分からない。

分からないから、怖いんだよ。

でも、分からないから、希望もあるのかもしれない。

今日、彼が言った。

「先輩、今度ご飯行きませんか」

心臓が、うるさかった。

「いいよ」

気づいたら、そう答えてた。

帰り道、自分に呆れた。

「もう恋愛しないって、決めてたじゃん」

でも、もう一人の自分が言う。

「でも、楽しみじゃん」

楽しみ、なんだよ。悔しいけど。

怖い。傷つくかもしれない。また泣くかもしれない。

でも、それでも、会いたいって思ってしまう。

恋って、ずるい。

決意なんか、簡単に壊してくる。

痛みを忘れさせて、また飛び込ませようとする。

分かってるのに、抗えない。

もう恋愛なんかしないって、決めてたのに。

君がいると、その決意がどうでもよくなる。

これが恋なら、本当にずるい。

本当に、ずるい。

― 匿名の懲りない人

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