来年の手帳を買った。
たったそれだけのことなのに、レジで泣きそうになった。
ここ数年、手帳を買っていなかった。
買っても、使わないから。予定なんて、ないから。
仕事は最低限こなして、帰って、寝る。休みの日は、一日中ベッドにいる。
未来のことなんて、考えたくなかった。
来週のこともよく分からないのに、来月とか来年とか、想像できなかった。
「1年後、どうなっていたい?」
そんな質問をされると、頭が真っ白になる。
どうなっていたいも何も、1年後も生きてるかどうか分からない。
そんな気持ちで、ずっと過ごしてきた。
変わったきっかけは、些細なことだった。
文房具屋の前を通りかかった。
店頭に、来年の手帳が並んでいた。
ピンク、ブルー、ベージュ。いろんな色があった。
なんとなく、足が止まった。
手に取ってみた。真っ白なページ。
1月、2月、3月。
ずっと先まで、ページがある。
「ここに、何か書くのかな」
そう思った瞬間、不思議な感覚があった。
来年の私がいる。
当たり前のことなのに、初めて実感した。
12月になっても、私は続いてる。来年の4月も、たぶん続いてる。
その白いページに、何かが書かれていく。
何を書くかは、まだ分からない。
でも、何かは書ける。
気づいたら、レジに並んでいた。
「手帳、お包みしますか?」
「いえ、このままで」
帰り道、袋の中の手帳を何度も見た。
まだ何も書いてない。
でも、持っているだけで、少し安心した。
家に帰って、開いてみた。
1月1日のページ。
何を書こう。
「元日。おせち食べる」
それだけ書いた。
たったそれだけ。でも、未来に一つ、予定ができた。
嬉しかった。
来年のおせち、何を食べようかな。実家に帰るのかな。一人で食べるのかな。
どっちでもいい。とにかく、おせちを食べる。
それだけで、1月1日に意味ができた。
次の日、もう一つ書いた。
「3月。桜を見に行く」
どこに行くかは決めてない。誰と行くかも決めてない。
でも、桜を見に行く。それだけ決めた。
少しずつ、ページが埋まっていく。
「5月。映画を見る」
「8月。かき氷を食べる」
「10月。美術館に行く」
全部、小さなこと。壮大な目標なんかじゃない。
でも、これでいい。
未来に、点を打っていく感じ。
その点に向かって、なんとなく進んでいく感じ。
今まで、未来は怖かった。
真っ暗で、何も見えなくて、どこに向かってるか分からなかった。
でも今は、小さな点が見える。
おせち、桜、映画、かき氷、美術館。
全部、私が決めた点。
そこに向かって、生きていける気がする。
手帳を買っただけ。
たったそれだけのことで、こんなに気持ちが変わるとは思わなかった。
もしあなたも、未来が見えなくて苦しいなら。
来年の手帳、買ってみてもいいかもしれない。
何も書かなくてもいい。持ってるだけでいい。
白いページがあるということは、そこに何かを書けるということだから。
未来は、まだ白い。
それって、怖いことじゃなくて、たぶん、希望なんだと思う。
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