好きだから、我慢してた。
彼が遅刻しても、「いいよ、大丈夫」。
ドタキャンされても、「仕方ないよね、忙しいもんね」。
私の話を遮っても、「うん、で、君の話は?」って笑って流した。
全部、好きだから。
好きな人に嫌われたくない。
好きな人を怒らせたくない。
好きな人と一緒にいたい。
だから、我慢した。
最初は、小さなことだった。
「今日、何食べたい?」
「なんでもいいよ、君が決めて」
私はパスタが食べたかった。でも、彼はラーメンが好き。
「ラーメンでいいよ」
彼が喜ぶ顔が見たかったから。
それが積み重なっていった。
デートの場所も、彼が決める。映画も、彼が選ぶ。予定も、彼に合わせる。
「君、なんでも合わせてくれるから楽だわ」
彼がそう言った時、嬉しかった。
楽だって思われてる。一緒にいて心地いいって思われてる。
それって、愛されてるってことでしょ?
違った。
付き合って一年が経った頃、気づいた。
彼は、私の好きなものを知らない。
好きな食べ物、好きな映画、好きな場所。
全部、聞かれたことがない。
私は彼の好きなもの、全部知ってる。
でも彼は、私のこと、何も知らない。
それでも、好きだった。
好きだから、「私のことも聞いてよ」って言えなかった。
重い女だと思われたくない。面倒だと思われたくない。
だから、待ってた。いつか聞いてくれるって。
ある日、彼と喧嘩した。
珍しく、私が意見を言った。
「今日は和食が食べたいな」
たったそれだけ。
彼の顔が曇った。
「え、俺、中華の気分なんだけど」
「たまには私の食べたいものも」
「なに、急に。いつも合わせてくれるじゃん」
その言葉で、分かった。
彼は、私が「合わせてくれる人」だと思ってた。
私の意志があるなんて、思ってなかった。
私が我慢してるなんて、気づいてなかった。
当たり前だよね。
だって、私、一度も言わなかったから。
「本当はこうしたい」って、言わなかったから。
その夜、一人で泣いた。
好きな人の前で、自分を消してた。
好きな人に好かれるために、本当の自分を隠してた。
これって、愛されてるって言える?
相手が好きなのは、「なんでも合わせてくれる私」であって、「本当の私」じゃない。
じゃあ、何のために一緒にいるんだろう。
彼に言ってみた。
「私、今まで我慢してたことがある」
彼は驚いた顔をした。
「え、なんで言わなかったの」
「嫌われたくなかったから」
「言ってくれなきゃ分かんないよ」
そうだよね。分かるわけない。
でも、言えなかったんだよ。
好きだから。
その後、少しずつ言うようにした。
「今日はパスタがいいな」
「その日は予定があるから、別の日にしない?」
「私もこの映画見たいんだけど」
最初は、怖かった。
嫌われるかも。面倒だって思われるかも。
でも、彼は意外と普通に受け入れてくれた。
「そっか、じゃあパスタにしよう」
それだけだった。
あれ、こんな簡単だったの?
今まで私が勝手に怖がってただけ?
全部がうまくいったわけじゃない。
「なんか最近、我が強くなった?」
そう言われたこともある。
傷ついた。でも、言い返した。
「我が強いんじゃなくて、今まで言わなかっただけ」
彼は黙った。
そのあと、少しギクシャクした。
でも、前よりましだった。
我慢してる時の方が、ずっと苦しかったから。
結局、その彼とは別れた。
「合わせてくれる君が好きだった」
最後にそう言われた。
やっぱりそうだったんだ。
本当の私じゃなくて、我慢する私が好きだったんだ。
悲しかった。でも、別れてよかったと思う。
次に誰かを好きになったら、我慢しないでいたい。
好きだから我慢するんじゃなくて、好きだから正直にいたい。
「これが私だよ」って見せて、それでも一緒にいたいって思ってくれる人と、一緒にいたい。
まだ、そんな人には出会えてない。
でも、もう我慢で繋ぎ止める恋愛はしない。
好きだから、我慢してた。
でも、好きだからこそ、我慢しちゃダメだったんだ。
それに気づくまで、ずいぶん時間がかかった。
もしあなたも、好きな人の前で我慢してるなら。
一回だけ、小さな本音を言ってみてほしい。
それで壊れる関係なら、最初から壊れてたんだと思う。
好きな人の前でも、あなたはあなたでいていいから。
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