長袖のニット
そっと・3分

長袖のニット:衣替えできなかった日

匿名の衣替え遅刻者・3分・そっと

街中で、半袖の人が増えてきた。

電車で隣に座った人の肘が、私の長袖のニットに当たった。冷たかった。たぶん、冷房に晒されてた腕。

私は、まだ、長袖を着てる。

家を出る時、薄手のシャツを取ろうとして、結局やめた。クローゼットの奥の方にしまってあって、引っ張り出すのが、なんとなく億劫だった。

長袖のほうが、手前にあるから、取りやすい。それだけの理由で、今日もこれを着てる。

電車の中で、背中がじっとり汗ばんできた。
そういえば、家から駅まで歩いてくる時、もう日差しが強かった。
それを毎日感じてるのに、毎朝、同じ服を取る。

クローゼットを開けるのが、なんとなく、億劫だ。

*

日曜日。

ようやくクローゼットを開けた。
午前中はずっとベッドにいて、お昼を食べてから、やっと、立ち上がった。

冬物のセーター、まだ圧縮袋にも入ってない。夏物の置き場所も、決まってない。
全部、出して、洗って、しまって、収納する。

それが、扉を開けた瞬間に、頭の中で全部見えた。

しまった、と思いながら、扉を閉じた。

冷蔵庫を開けて、何もなくて、また閉じた。
お湯を沸かそうとして、ケトルが空っぽで、水を入れるのが面倒で、やめた。

何もしてないのに、もう疲れてた。

*

夜のコンビニで、冷たいレモンウォーターを買った。

レジで「あたためますか」と聞かれて、首を振った。
帰り道、汗が背中を伝った。

家に着いて、ニットを脱いだ。
明日もたぶん、これを着る。

衣替えできない一日は、たぶん、明日に持ち越される。
そして、明後日にも。

ある日、たぶん、6月の真ん中くらいに、もう限界、と思って、一気に全部やる気がする。
今までもそうだった。だから、今年もそうする。

季節は私を待ってくれないけど、
私の部屋は、私のペースで進めばいい、と思う。

そう思うことにする。
たぶん、それでも、生きていける。

― 匿名の衣替え遅刻者

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