折りたたみ傘
そっと・3分

折りたたみ傘:梅雨入り前の夕暮れ

匿名の折れた骨・3分・そっと

ベランダに、シャツを干した。

今日は晴れてる、と思って、出かけた。

帰ってきたら、空気が変わってた。
シャツがしっとりしてる。匂いも、なんとなく、土っぽい。

スマホで天気を見たら、明後日から雨マークが続いてた。週末は曇り、来週はずっと傘マーク。

「梅雨入り、もうすぐ」と画面が言った。

そういえば、夕方の空が、いつもより低い。
雲がぶ厚い。風もない。

窓を開けても、空気が動かなかった。

*

スーパーの帰り、傘売り場の前で足が止まった。

うちにある折りたたみ傘は、骨が一本折れてる。去年からそのまま。

雨の中で広げると、左の端だけ、だらんと下がる。
それでも、濡れないわけじゃないから、毎回それを使ってる。

新しいのを買えばいい、と思いながら、買わずに帰った。

レジで「袋いりますか」と聞かれた時、もう手にエコバッグを持ってて、首を振った。
新しい傘も、いいや、と思った。

折れた骨でも、たぶん、もう一年は使う気がする。

*

夜、布団に入った。

窓は開けてある。雨はまだ降ってない。

降る前の、変な静けさ。
虫の声もない、風もない、ただ、空気が重い。

天気予報は、明日の午後から、と言ってた。
たぶん、私が起きた時には、もう降ってる。

明日には降ってるかもしれない。降らないかもしれない。
それは、明日が決める。

私は今夜、布団の中で、降る前の音のなさを、しばらく聞いていた。

電気を消したら、もっと、静かになった。

雨が降ったら、シャツを取り込みに行こう。
降らなかったら、もう一晩、外に置いておこう。

そんなことを考えながら、目を閉じた。

降る前の夜は、なんだか、世界が一拍だけ、息を止めている気がする。

― 匿名の折れた骨

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