去年のあなたへ。
たぶん、あなたは、半袖を出した日のことを覚えてない。
私もです。
去年の今頃、何を着てたかも、何を考えてたかも、もう霧の中。
ただ、いま、衣装ケースの底から、半袖のTシャツを出した。
3枚あって、1枚はあなたが選んで買ったやつだ。
青いボーダー。
肩のところが、少しほつれてる。
たぶん、洗濯機で乱暴に回したんだろう。
それも、覚えてない。
ハンガーにかけて、ベランダで日光に当てた。
青の色が、少し褪せた気がする。
それでも、まだ、好きな色だ。
腕が出る、というのは、不思議な感覚です。
冬の間、肌は誰にも触れられず、見られず、私だけのものだった。
お風呂の時くらいしか、自分でもじっくり見なかった。
半袖を着ると、私の腕は、世界に再開する。
電車のつり革に手を伸ばすと、腕が出てる。
レジでお金を払うと、腕が出てる。
誰も気にしてないけど、私だけは、なんとなく、その腕の存在を意識する。
去年のあなたは、こう思いましたか?
それとも、何も思わずに、ただ、暑いから、と袖をまくっただけ?
たぶん、後者。
あなたは、いつも、考えすぎる前に、行動してた。
私はいま、Tシャツのほつれを縫うか、捨てるか、迷ってます。
来年も着る気がする。
ほつれてるけど、青いボーダーが、好きだから。
それに、捨てたら、あなたが選んだことの証拠が、ひとつ減る気がして。
来年の私も、たぶん、これを着てます。
ほつれは増えて、たぶん、3つくらいになって。
首回りも、少し緩んできて。
でも、まだ着てます。
そうやって、季節が一枚ずつ、重なっていく。
あなたが、最初に選んだ服を、ずっと着てる、というだけのことです。
そういう小さい連続を、ぼんやり、続けていきます。
それだけのことだけど、わりと、悪くないと思ってます。
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