三冊の本
そっと・4分

三冊の本:5月の月曜日

匿名の月曜日・4分・そっと

朝。

5月の月曜日。

スーツに着替えた。連休前に着てた服を、また着てる。
シャツの襟は、少しよれてる。クリーニング、出しそびれたまま。

家を出る時、玄関の鏡で自分を見た。なんとなく、顔色が悪い気がした。気のせいかもしれない。

電車に乗る。座席は空いてない。
ドアの横に立って、イヤホンをつける。ポッドキャストの続きが流れる。
聞いてるはずなのに、内容が頭に入ってこない。

隣のスーツの人も、向かいに座ってる人も、みんな同じ顔をしてる。
スマホを見てる。窓の外を見てる。目を閉じてる。

どうしてみんな、何事もなかったように、戻れるんだろう。

1週間前。

連休明けの月曜日があった。

たぶんあった、けど、もう覚えてない。
何を着てたか、何を考えてたかも、もう霧の中。

ただ、その日に書いたメモを開くと、「やり残してる」「焦る」「眠い」、と短く書いてあった。

書いた記憶もない。それでも、書いてあるから、たぶん、その日も電車に乗って、出社して、何かをやって、帰った。

夜、何を食べたかも、覚えてない。
たぶん、コンビニで何か買って、食べたあと、ソファで寝落ちした。風呂にも入らずに。

そういう週があった、ことだけは、覚えてる。

2週間前。

連休の初日。

5日後の自分はもっと充実してると、信じてた。
カフェに行って、本を読んで、散歩して、運動もして、料理もして。

読みかけの本を3冊、リュックに入れた。
新しいランニングシューズも、玄関に並べた。
レシピサイトを2つ、ブックマークした。

1ページも読まなかった。
シューズも履かなかった。
レシピも開かなかった。

何をしてたんだろう、と思う。
たぶん、スマホを見てた。動画を見て、SNSを見て、また動画を見て、たまに寝て。

それでも、充実してる気がしてた。
ずっと、頑張ってきたから、これくらい、いいかな、と。

いま、リュックには、同じ3冊。

ページを開く気力が、まだ戻ってきてない。

戻れない、と思う。

でも、駅から会社までの足は、普通に動く。
エレベーターのボタンを押す手も、普通に動く。
席につく動きも、パソコンを開く動きも、全部、普通に動く。

心はまだ、連休のどこかにいる。
体だけが、月曜日にいる。

それでも、たぶん、それでいい。

体が動くなら、それで、十分なんだろう。
心が追いついてくるのは、もう少し先で。

― 匿名の月曜日

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