駅から家までは、十二分歩く。
この時間、歩道の人はみんな駅のほうへ流れていく。私はその反対へ歩く。前を歩く人がいないので、自分の速さで歩ける。空いてていい。
すれ違う人の何人かは、もうマフラーを巻いていた。私は作業着の上に、薄いパーカーを一枚だけ着ている。夜中の倉庫は、外より暖かい。
団地の植え込みの柿が、橙色になっていた。朝は下を向いて歩くので、気づくのはいつも色がついたあとだ。
信号で止まった。向こうから軽トラが来て、横断歩道の手前に止まった。荷台に黒い鉄の箱と、短い煙突。箱の横に、手書きの板で「石焼いも」とあった。のぼりは竿に巻きつけたまま、荷台に寝かせてあった。
煙突から、煙は出ていなかった。
運転席のおじさんが、大きくあくびをした。つられて私もあくびをした。信号が変わって、軽トラは駅のほうへ走っていった。
家に着いて、遮光カーテンを端まで引いた。八時五分に布団に入った。
*
声で目が覚めた。
遮光カーテンの縁が、白く光っている。枕元の時計は十五時十分。目覚ましは十七時に合わせてある。
「いしやーきいもー、おいもー」
録音の声が、拡声器で少し割れていた。家の前の道を、ゆっくり通っていく。
この声で目が覚めるのは、今月に入って三回目だった。三回とも、声だけ聞いた。
布団から腕を出して、カーテンの端をつまんでめくった。光がまっすぐ目に入って、何も見えなかった。目をつぶって、開けて、もう一度見たときには、道には自転車が一台止まっているだけだった。
角の向こうで、声が「おいもー」と言った。
財布は玄関の靴箱の上にある。パジャマの上に何か羽織れば、たぶん追いつける。
カーテンから指を放した。縁の光が、さっきの場所に戻った。
声が二つ先の通りへ遠ざかっていくのを、布団の中で聞いていた。そのうち、聞こえなくなった。
*
夜中の二時。コンベアの上を、箱が流れてくる。
宛先のラベルを読んで、行き先のカゴに入れる。中身は見ない。それでも、箱の形でだいたいわかる。
九月の終わりから、加湿器の箱が増えた。十月に入ってからは、電気毛布。この一週間は、細長くて軽い箱が混じるようになった。最初に流れてきた夜、何だろうと思って持ち上げていたら、班長が「ツリー」と言った。
去年もそうだった。十二月に入って、駅前にツリーが立つころには、この箱はもう流れてこなくなっていた。
三時、休憩。休憩室の自販機は、先週から下の段のラベルが赤くなっている。
班長がロッカーから、アルミホイルの包みを出してきた。机の上で開いて、二つに折った。中が黄色かった。
「声で起きて、そのまま走った」
サンダルで、と班長は付け足した。
半分をもらった。冷たかった。電子レンジの前には三人並んでいたので、そのまま食べた。冷めた焼きいもは、ねっとりしていて、思っていたより甘かった。私は皮を残した。班長は皮ごと食べていた。
ブザーが鳴った。ホイルを小さく畳んで、作業着の胸ポケットに入れた。軍手をはめて、ラインに戻った。
コンベアが動きだして、最初に流れてきたのは、細長い箱だった。
― 匿名の逆向き帰宅派
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