母の電話番号を、10年ぶりに押した。
コール音が鳴る。心臓がバクバクする。切ろうかと思った。でも、3回目のコールで、母が出た。
「もしもし」
その声を聞いた瞬間、色々な感情が溢れてきた。
母と連絡を絶ったのは、10年前。私が25歳の時だった。
母は、いわゆる毒親だった。過干渉で、支配的で、私のすべてをコントロールしようとした。進路も、友達も、恋愛も、すべて母の意見が優先だった。
反論すると、怒鳴られた。「あなたのためを思って言ってるのに」と言われた。でも、本当に私のためだったのか。今でも分からない。
大学を卒業して、就職した。一人暮らしを始めた。でも、母は毎日電話してきた。「ちゃんと食べてるの?」「仕事はどう?」「週末は帰ってきなさい」。
息が詰まりそうだった。
ある日、彼氏ができた。母に紹介したら、こき下ろされた。「あんな男、やめなさい。あなたには合わない」。でも、私は彼が好きだった。
「もう、干渉しないで」
そう言ったら、母は泣いた。「私を捨てるの?」と言われた。罪悪感が襲ってきた。でも同時に、怒りも湧いた。
結局、連絡を絶った。電話も出ない。メールも返さない。完全に、音信不通にした。
最初は罪悪感でいっぱいだった。「親不孝なんじゃないか」「母は悲しんでいるんじゃないか」。でも、友達に話したら、こう言われた。
「あなたは、自分を守っただけだよ」
その言葉に、救われた。
それから10年。私は結婚して、子どもができた。娘が生まれた。
娘を抱いた時、ふと思った。「母も、私をこうやって抱いたのかな」。
そして、少しだけ母の気持ちが分かった気がした。子どもを心配する気持ち。でも同時に、思った。「私は、娘を縛らない」。
娘が3歳になった頃、夫が言った。
「お母さんに、孫を見せてあげたら?」
最初は嫌だった。でも、考えた。もし母が死んだら、後悔するんじゃないか。このまま、一生会わないままでいいのか。
そして、電話をかけた。
「もしもし」
「…お母さん?私」
母は、一瞬黙った。そして、震える声で言った。
「…久しぶりね」
その後、色々話した。10年間のこと。結婚したこと。子どもができたこと。母も、近況を話してくれた。
「会える?」と聞いたら、母は泣きながら「会いたい」と言った。
数週間後、母に会った。10年で、母は老けていた。白髪が増えて、背中が少し丸くなっていた。
娘を連れて行った。母は、娘を見て涙を流した。
「可愛いわね」
母は優しく笑った。あの支配的な母とは、少し違って見えた。
話をした。過去のことも、少しだけ話した。母は、謝らなかった。でも、「あなたが苦しんでいたこと、気づかなかった」と言った。
完全に許せたわけじゃない。でも、少しだけ、気持ちが楽になった。
今、母とは月に1回会っている。娘は、母に懐いている。母も、娘には優しい。
過去は変えられない。でも、これからは変えられる。母との関係も、ゆっくりと再構築していけるかもしれない。
もしあなたも、毒親と距離を置いているなら、それは間違ってない。自分を守ることが、最優先だ。
でも、もし再会したいと思ったら、それもあなたの選択だ。無理に会う必要はない。でも、会いたいと思ったら、会ってもいい。
私は、再会して良かったと思っている。完全に元通りにはならないけど、新しい関係を作れるかもしれない。
それだけで、十分だと思う。
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