描きかけの三毛猫
そっと・4分

描きかけの三毛猫:副業で、心が救われた

匿名の二足のわらじ・4分・そっと

本業は、ただの作業だった。

毎日同じことの繰り返し。やりがいなんて、ない。ただ、生活のために働いている。それだけだった。

朝起きるのが辛い。会社に行くのが憂鬱。でも、辞めるわけにもいかない。家族がいる。お金が必要だ。

そんな毎日が、10年続いた。

飲みの席で、友達が言った。

「副業、始めてみたら?」

副業。考えたこともなかった。本業だけで精一杯だし、何ができるかも分からない。

でも、友達は続けた。

「好きなことを、仕事にするんだよ。お金は少なくてもいい。やりがいが大事」

その言葉が、心に残った。

私には、昔から好きなことがあった。イラストを描くこと。

学生の頃は、将来イラストレーターになりたいと思っていた。でも、「それじゃ食べていけない」と言われて、諦めた。普通の会社に就職した。

それから、イラストは趣味として、たまに描くだけになっていた。

「イラストで、副業できるかな」

そう思って、調べてみた。ココナラやクラウドワークス。色々なプラットフォームがあった。

試しに、アカウントを作ってみた。「アイコン描きます」というサービスを出品した。

最初は、全く売れなかった。1ヶ月、誰からも依頼がこなかった。「やっぱり無理か」と思った。

でも、2ヶ月目に初めて依頼が来た。

「ペットの似顔絵を描いてほしい」

初めての依頼に、緊張した。でも、楽しかった。久しぶりに、真剣にイラストを描いた。

完成したイラストを送ったら、お客さんがすごく喜んでくれた。

「ありがとうございます!素敵です!」

そのメッセージを見た時、涙が出そうになった。

誰かに喜んでもらえる。自分の作ったもので、誰かが笑顔になる。それが、こんなに嬉しいなんて。

それから、少しずつ依頼が増えてきた。月に2〜3件。報酬は、合わせても数万円。生活できる額じゃない。

でも、それでいいと思った。

本業は相変わらず、やりがいがない。でも、副業があるから、頑張れる。週末にイラストを描く時間が、私の楽しみになった。

夜、仕事から帰って疲れていても、イラストを描き始めると元気になる。誰かのために描く。それが、生きがいになっていた。

妻に言われた。

「最近、楽しそうだね」

そうかもしれない。副業を始めてから、毎日が少しだけ明るくなった気がする。

今週末は、猫の似顔絵の依頼が一件入っている。三毛猫で、「ちょっと不機嫌そうな顔がいい」らしい。

わかる。写真を見たら、たしかに不機嫌そうで、いい顔をしていた。

本業は月曜からまた、いつもの作業だ。それは変わらない。

ただ、机の引き出しに、描きかけの三毛猫がいる。

それだけで、月曜の重さが、少し違う。

― 匿名の二足のわらじ

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