本業は、ただの作業だった。
毎日同じことの繰り返し。やりがいなんて、ない。ただ、生活のために働いている。それだけだった。
朝起きるのが辛い。会社に行くのが憂鬱。でも、辞めるわけにもいかない。家族がいる。お金が必要だ。
そんな毎日が、10年続いた。
飲みの席で、友達が言った。
「副業、始めてみたら?」
副業。考えたこともなかった。本業だけで精一杯だし、何ができるかも分からない。
でも、友達は続けた。
「好きなことを、仕事にするんだよ。お金は少なくてもいい。やりがいが大事」
その言葉が、心に残った。
私には、昔から好きなことがあった。イラストを描くこと。
学生の頃は、将来イラストレーターになりたいと思っていた。でも、「それじゃ食べていけない」と言われて、諦めた。普通の会社に就職した。
それから、イラストは趣味として、たまに描くだけになっていた。
「イラストで、副業できるかな」
そう思って、調べてみた。ココナラやクラウドワークス。色々なプラットフォームがあった。
試しに、アカウントを作ってみた。「アイコン描きます」というサービスを出品した。
最初は、全く売れなかった。1ヶ月、誰からも依頼がこなかった。「やっぱり無理か」と思った。
でも、2ヶ月目に初めて依頼が来た。
「ペットの似顔絵を描いてほしい」
初めての依頼に、緊張した。でも、楽しかった。久しぶりに、真剣にイラストを描いた。
完成したイラストを送ったら、お客さんがすごく喜んでくれた。
「ありがとうございます!素敵です!」
そのメッセージを見た時、涙が出そうになった。
誰かに喜んでもらえる。自分の作ったもので、誰かが笑顔になる。それが、こんなに嬉しいなんて。
それから、少しずつ依頼が増えてきた。月に2〜3件。報酬は、合わせても数万円。生活できる額じゃない。
でも、それでいいと思った。
本業は相変わらず、やりがいがない。でも、副業があるから、頑張れる。週末にイラストを描く時間が、私の楽しみになった。
夜、仕事から帰って疲れていても、イラストを描き始めると元気になる。誰かのために描く。それが、生きがいになっていた。
妻に言われた。
「最近、楽しそうだね」
そうかもしれない。副業を始めてから、毎日が少しだけ明るくなった気がする。
今週末は、猫の似顔絵の依頼が一件入っている。三毛猫で、「ちょっと不機嫌そうな顔がいい」らしい。
わかる。写真を見たら、たしかに不機嫌そうで、いい顔をしていた。
本業は月曜からまた、いつもの作業だ。それは変わらない。
ただ、机の引き出しに、描きかけの三毛猫がいる。
それだけで、月曜の重さが、少し違う。
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