療育の先生になって、5年が経った。
最初は、保育士として働いていた。普通の保育園で、普通に子どもたちと遊んでいた。
でも、ある時気づいた。
クラスに一人、いつも一人で遊んでいる子がいた。他の子が声をかけても、反応しない。輪に入れない。
「この子、大丈夫かな」
そう思った。でも、何をしてあげればいいか分からなかった。
その子は、年度の途中で転園した。療育センターに通うことになったらしい。
「もっと早く、何かできたんじゃないか」
そんな後悔が残った。
それから、発達支援について勉強を始めた。講座に通った。資格を取った。
そして、療育センターの求人を見つけた。
面接の時、聞かれた。
「なぜ、療育の仕事をしたいんですか?」
「できることが、あると思うからです」
そう答えた。
療育の仕事は、保育園と全然違った。
一人ひとりに、細かく計画を立てる。その子に合った遊びを考える。小さな成長を、記録する。
最初は戸惑った。「これで合ってるのかな」「効果が出てるのかな」。
でも、続けた。
忘れられない子がいる。
4歳の男の子。言葉が出なかった。目も合わなかった。お母さんは、いつも疲れた顔をしていた。
「この子、ちゃんと成長するんでしょうか」
その言葉が、切なかった。
「大丈夫ですよ。ゆっくり、一緒に見ていきましょう」
そう答えたけど、正直、不安だった。
でも、毎週その子と向き合った。
好きなものを見つけた。電車だった。電車のおもちゃを使って、遊んだ。
最初は、ただ並べるだけ。でも、少しずつ変わった。
私が「ガタンゴトン」と言うと、笑った。
それが、最初の反応だった。
半年後。その子が、初めて「でんしゃ」と言った。
お母さんが、泣いた。私も、泣いた。
「先生のおかげです」
そう言われたけど、違う。
この子が頑張ったんだ。お母さんも、諦めなかったんだ。
私は、ただ少し手伝っただけ。
療育の仕事をしていると、よく言われる。
「大変でしょう?」「疲れない?」
大変だし、疲れる。すぐに結果が出ないこともある。
でも、この仕事が好きだ。
子どもたちの「できた!」という顔を見る瞬間。
お母さんたちが「ありがとうございます」と笑顔になる瞬間。
それが、私の支えになっている。
保護者の方は、よく謝る。
「うちの子、迷惑かけてすみません」
「謝らないでください。迷惑じゃないです」
いつも、そう伝える。
この子たちは、何も悪くない。ただ、少しサポートが必要なだけ。
そして、このサポートができることが、私には嬉しい。
昨日、卒業した子のお母さんから、メッセージが来た。
「小学校、楽しく通ってます。先生のこと、今でも話してます」
その言葉を読んで、泣いた。
療育の先生になって、気づいたこと。
私は、子どもたちに何かを教えているんじゃない。
子どもたちから、たくさんのことを教えてもらっている。
「ゆっくりでいい」
「できなくても、それでいい」
「諦めなければ、変わっていく」
この仕事を選んで、良かった。
心から、そう思う。
---
*© 2025 匿名の療育士*