
…「なんで覚えてないの?」「なんで今それを言うの?」。どちらも、うそはついていないにゃ。
こんなこと、ないにゃ?
あなたは「なんで覚えてないの?」と思い、
相手は「なんで今それを言うの?」と思う。
よく「女はケンカを忘れない」って
言われるにゃ。
ほんとうに、女性だからなのかにゃ。
カナダの心理学者、ロスさんとホルムバーグさん(1992年)は、結婚している夫婦に、ふたりの思い出を3つ話してもらったにゃ。
初めてのデート。いっしょに行った旅行。そして、ふたりのケンカ。
夫と妻はそれぞれ、テープレコーダーに思い出を吹き込んだ。そのあと、どのくらいはっきり覚えているかを、自分で採点したにゃ。
さらに、話を文字に起こしたものを、ふたりを知らない人たちにも読んでもらって、同じように採点してもらったにゃ。
ケンカや思い出をはっきり覚えていた人に、いちばん共通していたのは何だったと思う?
妻のほうが、夫より鮮やかに覚えていた。
妻は出来事をより大事に思い、
よく思い返し、
話の中に気持ちの言葉が多かった。
鮮やかさをいちばん左右していたのは、
その出来事を思い返した回数だった
読んだ人たちの採点でも、妻の話のほうが鮮やかだったにゃ。点を上げていたのは、「うれしかった」「悔しかった」のような気持ちの言葉の多さ。気持ちがこもった話は、聞く人にもくっきり届くにゃ。
ケンカについては、どう終わったかでも覚え方が変わっていたにゃ。ロスさんはのちに、言い負かされた側のほうがはっきり覚えていて、男性でも負けた側なら、負けた女性と同じくらい覚えている、と話しているにゃ。
あなたがセリフまで言えるのは、女性だからというより、それだけ何度も心の中でくり返してきたから、かもしれないにゃ。
研究者たちが考えた説明はこうにゃ。
育てられ方や、家の中での役目のちがいから、妻のほうがふたりのやりとりに目を向けやすく、大事なこととして考えこみやすい。だから思い返す回数が増えて、記憶も鮮やかになる。
生まれつきの作りのちがいではなく、何に気を配ってきたかのちがい、という見方にゃ。
ただ、鮮やかなことと、そのとおりだったことは別にゃ。ロスさんも、妻の記憶は鮮やかなことが多いけれど、夫より正確とはかぎらない、と話しているにゃ。思い出すたびに、そのときの気持ちで少しずつ塗り直されていく、とも考えられているにゃ。
別の研究でも、夫婦それぞれに家のことを「どちらがどのくらいしたか」と聞くと、ふたりとも自分の分を多めに答えていたにゃ。人は、自分のしたことのほうを思い出しやすい。
ケンカでも、自分が刺さった一言と、相手が刺さった一言は、同じ重さでは残らないのかもしれないにゃ。
2002年に、男女12人ずつに気持ちがざわつく写真を見せながら、脳の働きを調べた実験があるにゃ。
3週間後のテストで、とくに強い気持ちになった写真を、女性のほうがよく覚えていた。脳の働き方にも、男女でちがいが見えたにゃ。
この実験は「女性はケンカを鮮やかに覚えている」話の裏づけとして、よく紹介されるにゃ。
でも見せたのは写真で、ケンカの記憶は調べていないにゃ。人数も24人。脳の働き方のちがいが、生まれつきなのか、それまでの暮らしで育ったものなのかも、この実験からはわからないにゃ。
ロスさんは、名前や写真を覚えるふつうの記憶テストなら、男女でほとんど差がないとも話しているにゃ。
ケンカの覚え方のちがいは、脳の作りで決まっているというより、そのケンカとそのあとどう過ごしたかで変わるもの、と見たほうがよさそうにゃ。
研究の夫婦は、思い出をテープに一度吹き込んで、それで終わりだったにゃ。
いまの暮らしには、ケンカのあとで思い返すきっかけが、あちこちにあるにゃ。
洗い物の途中や通勤の電車で、ふと、あの一言がよみがえる。言い返せなかった言葉を、頭の中で組み立て直す。手は家のことをしていても、心はまだ、あのケンカの続きをしているにゃ。言い返す練習をするたびに、ケンカはあなたの中でくっきりしていくのかもしれないにゃ。
妹や友だちに「ちょっと聞いてよ」と話す。言われたことを、スマホのメモに残しておく。そのたびに思い返す回数は増えるし、言葉にした形で覚えていくことにもなりそうにゃ。調査はそこまで聞いていないけれど、相手のほうは、だれにも話さないまま一度きりで終わっているかもしれないにゃ。
子どもが起きてきた。出かける時間になった。いまの家のケンカは、決着がつく前に止まることが多いにゃ。研究では、ケンカがどう終わったかで覚え方が変わっていた。「言い負かされた」「わかってもらえないまま」の側に、長く残るのかもしれないにゃ。
ケンカのあと、気づくと頭の中でくり返しているのは、どれに近い?

研究所のねこたちが目をとめたのは、
覚え方を分けていたものが、
ずいぶん地味だったことにゃ。
性格でも、
もともとの記憶力でもなく、
何回思い返したか。
ケンカなら、どう終わったか。
忘れた側が冷たいわけでも、
覚えている側がしつこいわけでもない。
同じ夜を、くり返した回数が
ちがっただけにゃ。
ここからは、
テープの外の話にゃ。
言い負かされた側に長く残るなら、
何度も再生してしまうケンカは、
あなたの中では、まだ
幕が下りていないのかもしれないにゃ。
相手の中では、
とっくに終わっていても。
つづきを話すなら、
「あのとき、あなたはこう言った」より
「あのとき、私は痛かった」のほうが、
届きやすいのかもしれないにゃ。
セリフは思い返すたびに
塗り直されることがあるけれど、
痛かったことは、
あなたがいちばんよく知っているにゃ。
テープに入っていたのは、
ケンカだけじゃなかったにゃ。
初めてのデートも、
ふたりの旅行も、
鮮やかさを分けたのは
思い返した回数だったにゃ。
ケンカのセリフまで言える人は、
ふたりが出会ったころのことも、
たぶん何度も取り出しては
眺めてきた人にゃ。
「しつこい」と呼ばれる覚え方は、
ふたりのはじまりの日を、
だれより鮮やかに持っている
覚え方でもあるのかもしれないにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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