← 研究所RESEARCH No.28あと11分
ふたりの科学

黙りこまれた夜、相手は眠れて、私だけ眠れないのはなぜ?

…あの沈黙は、「何もしていない」わけじゃなかったにゃ。

この研究を一枚で
問い
ケンカで夫が黙りこむとき、黙られた妻の体には何が起きているのか。「ケンカが体に響くのは男性のほう」は本当か
どこで
アメリカ・オハイオ州立大学で、新婚の90組(Kiecolt-Glaser ほか 1996)
どうやって
もめごとを話し合う時間がある一日、朝8時から夜10時まで1時間ごとに血を採り、ストレスホルモンを測った。話し合いでは、どんな言動のあとに何が続いたかを記録した
わかったこと
妻が強い言い方をしたあと夫が黙りこむことの多い夫婦ほど、妻のストレスホルモンが高かった。夫のホルモンは、話し合いのようすと結びついていなかった
その後の研究
年配の31組でも、「妻が追い、夫が引く」やりとりと結びついていたのは、妻のコルチゾールだけだった(2006年)
PM 11:08
それで、あなたはどうしたいの?
……
……もう寝る
(寝室のドアが閉まる音)
(午前2時。まだ胸がどきどきしてる)

言い争いなら、まだ終わりがある。
でも黙られると、話は途中のまま
置いていかれるにゃ。

相手はもう寝息をたてているのに、
こっちは眠れない。
「私だけ、こんなに引きずってる」

あの沈黙のあいだ、
ふたりの体では
何が起きていたのかにゃ。

🧪 研究 ケンカは、だれの体に響く?

新婚の90組から、
1時間ごとに
血を採った

夫婦の研究で知られるゴットマンさんの研究所は、ケンカで心を閉ざして黙りこむ「石壁(ストーンウォーリング)」をする人の、85%は男性だったと紹介しているにゃ。

1980年代には、夫婦の体を測ってきた研究者たちが「男性は体の高ぶりが続くのに耐えにくいから、身を引くのでは」と考えたこともあったにゃ。ケンカが体に響くのは男性のほう、という見方にゃ。

オハイオ州立大学のキーコルト=グレイザーさんたち(1996年)は、論文の題そのものでこう問いかけたにゃ。「ほんとうに、男性のほうが体に響くの?」

来てもらったのは、結婚したばかりの90組。ふたりのもめごとを話し合う時間がある一日、朝8時から夜10時まで、1時間ごとに血を採って、ストレスホルモンを測ったにゃ。

話し合いのようすも記録して、どちらがどんな言動をしたあとに、相手がどう返したかを数えたにゃ。

予想してみるにゃ

妻が強い言い方をしたあと、夫が黙りこむことの多い夫婦。ストレスホルモンが高かったのは、どちらだったと思う?

📊 結果の読み方

沈黙は、
相手の体に
届いていた

📊 わかったこと

妻が強い言い方をしたあと、
夫が黙りこむことの多い夫婦ほど、
妻のノルアドレナリンとコルチゾール
(どちらもストレスで増えるホルモン)が高かった。

やわらかいやりとりが多い夫婦ほど、
妻のアドレナリンは低かった

黙ることは、何もしないことに見えるにゃ。でもこの研究では、その沈黙が、受け取った側の体にちゃんと表れていたにゃ。

眠れない夜の胸のどきどきは、「私が気にしすぎ」なだけではないのかもしれないにゃ。

夫のホルモンは、話し合いのようすと結びついていなかったにゃ。これは「夫は平気だった」という意味ではないにゃ。一日のホルモンをまとめた測り方では、少なくとも、夫の値と話し合いの中身はつながって見えなかった、ということにゃ。

🤔 なぜ、黙られた側に響くのか

するほうは一時停止。
されるほうは、
終わりのない待ち時間

ゴットマンさんの研究所は、黙りこむのは、高ぶった気持ちを自分で静めようとする反応でもある、と説明しているにゃ。黙る側にとっては、これ以上こじらせないための一時停止のつもりかもしれないにゃ。

でも、黙られた側から見ると、話は止まったまま。相手が怒っているのか、考えているのか、もうどうでもいいのか、わからないにゃ。

答えの出ないまま待つあいだ、体は身構えたままになりやすいのかもしれないにゃ。同じ研究所も、男性に黙りこまれると女性の体の高ぶりは強まり、もっと追いかけたくなる、と書いているにゃ。

同じひとつの沈黙が、ふたりにとってまったく別のものになっている。それが、すれ違いの芯にあるのかもしれないにゃ。

🔍 その後の研究

年配の夫婦でも、
響いていたのは
妻の体だった

10年後の2006年に、同じ研究者たちも加わったチームが、年配の夫婦31組で確かめたにゃ。もめごとを話し合うあいだの、コルチゾールの上がり方を測ったにゃ。

🧪 わかったこと

妻が追い、夫が引くやりとりと
結びついていたのは、
妻のコルチゾールだけだった。

「うちは妻が追って、夫が引く」と
感じている人ほど、
話し合いでのコルチゾールの上がり方も大きかった

新婚でも、年配の夫婦でも、黙られた側の体に表れる、という形は似ていたにゃ。そして、その場のやりとりだけでなく、「うちはいつもこうなる」という積み重なった感じも、体に響いていたようにゃ。

一方で、声の高さで高ぶりを測った別の研究では、追う側のほうが、黙る側より声に高ぶりが出やすかったにゃ。黙っている人の中がいつも嵐、とは限らないにゃ。

また、男性どうし・女性どうしのカップルを見比べた研究では、追う・黙るの形は男女の夫婦とほとんど同じで、黙るのは「変わって」と言われた側だったにゃ(この話は、下の研究所の記事でくわしく読めるにゃ)。

🌙 今に置き換えて考える

黙ったあとも、
夜はつづく

研究では、朝から夜までの一日ぶんのホルモンをまとめて見ていたにゃ。響いていたのは、話し合いの数分だけではなかったのかもしれないにゃ。

いまの私たちの「黙りこみ」は、そのあとの夜にもつづいていくにゃ。

夜

黙ったまま、同じ部屋で眠る

ふたりで落ちついて話せるのが、一日の終わりの夜遅くだけ、という家は多いにゃ。そこで黙りこまれると、話は止まったまま、同じ部屋で眠ることになる。一方は眠れて、一方は眠れない。調査はそこまで聞いていないけれど、張りつめたまま朝をむかえる夜もあるのかもしれないにゃ。

黙る側

沈黙に、ひと言だけ中身をつける

「怒ってるんじゃなくて、言葉が出てこない」「ちゃんと考えたいから、いまは黙る」。察することが大事にされる暮らしでは、黙ることそのものが「無言の抗議」と読まれやすいにゃ。中身をひと言つけるだけで、相手が待つ時間の重さは変わるかもしれないにゃ。

黙られた側

待つあいだは、自分の体の番

胸のどきどきは、気にしすぎではないのかもしれないにゃ。相手の沈黙の意味を考えつづけるより、湯船につかる、温かいものを飲む、ゆっくり息をはく。次に話すまでの時間を、自分の体をゆるめるのに使っていいにゃ。

あなたならどれ?

相手が黙りこんだあと、あなたはどうなりやすい?

🐱 猫の国の研究所より

ここからは、
研究所の考察にゃ。

論文の題は、
問いの形をしていたにゃ。
「ほんとうに、男性のほうが
体に響くの?」

黙りこむのは、男性が多い。
黙るのは、高ぶりに耐えにくいから。
そう考えられていたころ、
心配されていたのは
黙るほうの体だったにゃ。

朝8時から夜10時まで、
1時間ごとに測ってみると、
沈黙と結びついて
数字に出ていたのは、
待たされていたほうの体だった。
10年後の年配の夫婦でも、
そうだったにゃ。

「私だけ、こんなに引きずってる」の
私だけは、
気にしすぎの言葉というより、
わりと正確な観察だったのかもしれないにゃ。

寝息をたてている相手が、
平気だったとはかぎらないにゃ。
こじらせたくなくて
止まっただけ、ということもある。

これは、夫婦の名前も
ケンカの中身も知らないまま、
血の中の数字から
ねこたちが読んだ話にゃ。
あなたの家の沈黙にも当てはまるかは、
あなたの夜のほうが知っているにゃ。

11時8分の、
あの問いにもどるにゃ。

「それで、どうしたいの?」には、
もうひとり、
答えられる人がいるにゃ。

ドアの向こうの人じゃなくて、
午前2時に起きている、
あなたのほうにゃ。

ごめんね、がほしいのか。
話のつづきがしたいのか。
「怒ってないよ」のひと言で
眠れそうなのか。

待っているものに名前がつくと、
終わりのなかった待ち時間に、
やっと終わりの形が
見えてくるにゃ。

📚 参考文献

この記事で紹介した研究

📋 研究所のほかのレポートにゃ

💑
RESEARCH No.27

「ねえ見て」を素通りされた週は、言い合いがとげとげしくなる?

…なんでもない一言には、「こっち向いて」が入っているのかもしれないにゃ。

💑
RESEARCH No.29

愛の言語、ほんとうは全部ほしい?

…30年読まれてきた「5つの愛の言語」。研究者たちが、ひとつずつ確かめたにゃ。

💑
RESEARCH No.30

ケンカのことを覚えているのは私だけ。女だから、しつこいの?

…「なんでまだ怒ってるの?」「なんで覚えてないの?」──どっちも、正しいにゃ。

Kiecolt-Glaser, J. K., Newton, T., Cacioppo, J. T., MacCallum, R. C., Glaser, R., & Malarkey, W. B. (1996). Marital conflict and endocrine function: Are men really more physiologically affected than women? Journal of Consulting and Clinical Psychology, 64(2), 324-332. リンク
Gottman, J. M., & Levenson, R. W. (1988). The social psychophysiology of marriage. In P. Noller & M. A. Fitzpatrick (Eds.), Perspectives on Marital Interaction (pp. 182-200). Multilingual Matters.
The Gottman Institute. (2014). Self-Care: Stonewalling Part II (The Research). The Gottman Relationship Blog. リンク
Heffner, K. L., Loving, T. J., Kiecolt-Glaser, J. K., Himawan, L. K., Glaser, R., & Malarkey, W. B. (2006). Older spouses' cortisol responses to marital conflict: Associations with demand/withdraw communication patterns. Journal of Behavioral Medicine, 29(4), 317-325. リンク
Baucom, B. R., Atkins, D. C., Eldridge, K., McFarland, P., Sevier, M., & Christensen, A. (2011). The language of demand/withdraw: Verbal and vocal expression in dyadic interactions. Journal of Family Psychology, 25(4), 570-580. リンク
Holley, S. R., Sturm, V. E., & Levenson, R. W. (2010). Exploring the basis for gender differences in the demand-withdraw pattern. Journal of Homosexuality, 57(5), 666-684. リンク
上記の研究知見をもとに、ニャンタルヘルスが独自に構成・考察したものです。原論文の翻訳ではありません。記事の内容は情報提供を目的としたものであり、医学的・心理学的な診断やアドバイスではありません。つらい状況にいる方は、信頼できる専門家にご相談ください。

著者:研究所のねこたち|ニャンタルヘルス
🐱 猫の国 研究所 ― nyantal.com