← 研究所RESEARCH No.08あと10分
家族・親子関係

「家族だから許しなよ」が苦しいのは、許しに要るものが抜けているから?

…許しを研究した人たちのところでは、許しは何か月もかけて、ゆっくり進んでいたにゃ。

この研究を一枚で
問い
傷つけた相手を許すことに取り組むと、心は回復するのか
どこで
アメリカで、夫から精神的な虐待を受け、別れて2年以上たつ女性20人(Reed & Enright 2006)
どうやって
条件の似た人どうしを組にして、くじで2つの面談に分けた。「許し」に取り組む面談と、「怒りを認め、自分を主張する」面談。どちらも専門家と一対一で、平均8か月
わかったこと
許しに取り組んだ組のほうが、うつ・不安・トラウマの症状がより軽くなり、自尊心も上がった。約8か月後も続いていた
その後の研究
相手が償っていないまま許すと、自分を大事に思う気持ちがかえって下がることがあった(2010年)
法事の帰り道
もう許してあげなよ
お母さんだって、もう年なんだから
家族なんだからさ
いつまでも引きずってたら、自分がつらいよ?
…。

言っている人は、たぶん心配してくれているにゃ。

でも、聞いたとたんに胸がつまる。
許せない自分が、
また少し悪者になった気がするにゃ。

許しって、ほんとうに
「家族だから」でできるものなのかにゃ。

🧪 研究 許しに取り組んだ20人

別れて5年たっても、
残っていたもの

アメリカのウィスコンシン大学で、リードさんとエンライトさん(2006年)が向き合ったのは、夫から精神的な虐待を受けていた女性20人にゃ。

みんな、もう相手とは別れていたにゃ。別れて2年以上、平均すると5年。それでも、関係が終わったあとに心の傷が長く残ることがある。研究はそこから始まっているにゃ。

条件の似た人どうしを組にして、くじで2つの面談に分けたにゃ。どちらも専門家とひとりずつ会う面談で、かかった期間は平均8か月にゃ。

A

許しに取り組む面談

傷つけた相手を許すことに、段階を踏んで取り組むにゃ。

B

怒りを認め、自分を主張する面談

怒りはもっともだと認める。言いたいことを言う練習をする。人とのつきあい方の力をつけるにゃ。

予想してみるにゃ

うつや不安が、より軽くなったのはどっちの組だと思う?

📊 結果の読み方

彼女たちは、
許しをくじで
引いていた

📊 わかったこと

許しに取り組んだ組のほうが、
うつ・不安・トラウマの症状が
より軽くなり、自尊心も上がっていた

約8か月後

面談が終わってしばらくたっても、よくなった分は続いていたにゃ。

ここで気をつけたいのは、彼女たちが「許したい」と自分から選んだわけではないことにゃ。どちらの面談になるかは、くじで決まっていたにゃ。

だからこの研究は、「自分で選んだ許しが効く」と言っているわけではないにゃ。わかったのは、相手と離れて安全になってから、専門家と一対一で、何か月もかけて取り組んだ許しは、回復の助けになったということにゃ。

それに、このプログラムでいう「許し」は、ふだん私たちが思う「許す」と少しちがうにゃ。考えた人たちは、許しをこう区別しているにゃ。

①

なかったことにはしない

されたことは悪かった、と認めたままにゃ。言い訳を受け入れることとは別のものにゃ。

②

忘れることではない

覚えたままでいいにゃ。変わるのは、思い出したときの心の痛み方のほうにゃ。

③

仲直りとは別

許しても、相手のそばに戻るとはかぎらないにゃ。戻るかどうかは、相手が信頼できる人になったかどうかにかかっているにゃ。

🤔 なぜ、許しの組がより回復したのか

許しの面談は、
怒りから始まっていた

このプログラムは、いきなり許すところから始まらないにゃ。

まず、何をされて、どれだけ傷ついて、どれだけ怒っているのかを、ひとつずつ見つめていく。許すことに取り組むと決めるのは、そのあとにゃ。

有力な考え方のひとつは、相手への怒りを何年も抱え続けること自体が、心を疲れさせる、というものにゃ。ここでの許しは、相手のためというより、その重さを少しずつ降ろす作業として扱われていたにゃ。

法事の帰りの「もう許しなよ」には、この最初の段階がないにゃ。怒りを見つめる前に、蓋をするように聞こえるのは、そのせいかもしれないにゃ。

🔍 その後の研究

許すほど、
自分がすり減るとき

20人は、とても小さな研究にゃ。2014年に、許しのプログラムを調べた54の報告をまとめた分析では、プログラムには効果があり、時間をかけたものや一対一のもののほうが、許しが進んでいたにゃ。

でも、許しがいつも心を助けるとはかぎらないにゃ。

2010年に、アメリカで新婚の夫婦を5年間追いかけた調べと、いくつかの実験をまとめて報告した研究があるにゃ。見ていたのは、許したあとに「自分を大事に思う気持ち」がどうなるか、にゃ。

相手が償ったとき

許すと、自分を大事に思えた

謝ったり、行いを改めたりして、「この人のそばにいても大丈夫」と思えるときは、許すことで自分への敬意が上がったにゃ。

相手が償わないとき

許すと、自分が下がった

償いがないまま許すと、自分への敬意が下がり、「自分がどんな人なのか」もぼやけていったにゃ。

研究者たちは、これを「玄関マット効果」と名づけたにゃ。踏まれても、そこに敷かれたままのマットのように。

同じ許しでも、相手が何をしているかで、自分への響き方が変わるにゃ。

🏠 今に置き換えて考える

家族とは、
離れても
また会う日が来る

研究の女性たちは、相手と別れて平均5年たっていたにゃ。相手は、もう暮らしの外にいたにゃ。

親やきょうだいだと、そうはいかないことが多いにゃ。

距離

親が老いると、また呼び戻される

通院のつきそい、介護の相談、実家の片づけ、法事。離れて暮らしていても、「家族だから」と役目がまわってくるにゃ。そのたびに「もう許したら?」が、また聞こえてくるかもしれないにゃ。

時間

8か月と、帰り道の一言

研究の許しは、専門家と一対一で、平均8か月かけて進んだにゃ。親戚の「もう許しなよ」は、数秒で終わる。同じ「許す」という言葉でも、中身の重さがまるでちがうにゃ。

もうひとつの声

「許さなくていい」が、命令になる日もある

いまは「毒親」という言葉も広まって、「許さなくていい」という声も届きやすくなったにゃ。それに救われる人も、きっと多いにゃ。でも、ふと許したくなった自分を「甘い」と責めはじめたら、それもまた別の「〜すべき」かもしれないにゃ。

まだ離れていない人

「もう許したら?」より前に、いまのこと

研究の女性たちは、相手と別れて5年たっていたにゃ。親と同居している、きょうだいに今も責められている、という人には、その「離れていること」がまだないにゃ。許すかどうかは、そのずっと先の話。いまは、自分を守るほうが先にゃ。ひとりで抱えずに、信頼できる人やニャンタル、専門家に話していいにゃ。

許せと言う声も、許すなと言う声も、外から来るにゃ。どちらの声よりも、いまの自分の気持ちのほうを先に聞いていいにゃ。

あなたならどれ?

いまのあなたの気持ちに、いちばん近いのはどれ?

🐱 猫の国の研究所より

帰り道に、
なかったもの

研究の女性たちのところにあって、
法事の帰り道になかったもの。
ねこたちは、それを数えてみたにゃ。

ひとつは、離れていること。
相手と別れて、平均5年たっていた。

ひとつは、時間。
8か月ほどかけて、面談を重ねていた。

もうひとつは、いっしょに見る人。
一対一でつきあう専門家がいたにゃ。

帰り道の「もう許しなよ」は、
相手がまだ同じ輪の中にいるまま、
数秒で終わって、
言った人は聞き役でもなかったにゃ。

三つとも、ない。
そこで許せないのは、
心のせまさの話というより、
帰り道のほうの足りなさに
見えるにゃ。

もうひとつ、相手の側に
要るものもあったにゃ。
謝ること。行いを改めること。
それがないまま許した人は、
自分のほうがすり減っていたにゃ。

いまも傷つけられ続けているなら、
ひとつめの「離れていること」が
まだないにゃ。
許すかどうかは、
それよりずっとあとの話にゃ。

数えたのは、元の夫と別れた
20人の研究からにゃ。
家族にそのまま重なるかは、
この研究だけでは言えないにゃ。

「もう許しなよ」は、
許しのいちばん最初を
とばしている。

最後の「…。」に、
一行入れるとしたら。

「許さない」でも
「許した」でもなく、
「いま、怒っているところ」。

研究の許しも、
そこから始まっていたにゃ。

許すかどうかは、
そのずっと先で、
あなたが決めることにゃ。

📚 参考文献

この記事で紹介した研究

📋 研究所のほかのレポートにゃ

🏠
RESEARCH No.9

人のことにはすぐ気づくのに、自分の話は出てこないのはなぜ?

…心を支える仕事をめざす学生に、子どものころを聞いた研究があるにゃ。

📜
RESEARCH No.6

"いい子にしてたら愛される"は、子どものころに結んだ契約書?

…3世代の母と娘を調べた研究から、その契約書を読み返してみたにゃ。

👨‍👩‍👧
RESEARCH No.10

"私がしっかりしなきゃ"は、ずっと前に"名指し"されていた?

…母親たちに「いざというとき、どの子が見てくれる?」と聞いて、7年待った研究があるにゃ。

Reed, G. L., & Enright, R. D. (2006). The effects of forgiveness therapy on depression, anxiety, and posttraumatic stress for women after spousal emotional abuse. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 74(5), 920-929. リンク
Luchies, L. B., Finkel, E. J., McNulty, J. K., & Kumashiro, M. (2010). The doormat effect: When forgiving erodes self-respect and self-concept clarity. Journal of Personality and Social Psychology, 98(5), 734-749. リンク
Wade, N. G., Hoyt, W. T., Kidwell, J. E., & Worthington, E. L. (2014). Efficacy of psychotherapeutic interventions to promote forgiveness: A meta-analysis. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 82(1), 154-170. リンク
上記の研究知見をもとに、ニャンタルヘルスが独自に構成・考察したものです。原論文の翻訳ではありません。記事の内容は情報提供を目的としたものであり、医学的・心理学的な診断やアドバイスではありません。つらい状況にいる方は、信頼できる専門家にご相談ください。

著者:研究所のねこたち|ニャンタルヘルス
🐱 猫の国 研究所 ― nyantal.com