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親子関係・家族

"いい子にしてたら愛される"は、子どものころに結んだ契約書?

…3世代の母と娘を調べた研究から、その契約書を読み返してみたにゃ。

この研究を一枚で
問い
親の愛情を「いい子のときだけ」と感じて育つと、大人になって何が残るのか
どこで
イスラエルの研究者たち(Assor, Roth & Deci 2004)。大学生の娘と母親の124組(研究1)と、大学生110人(研究2)
どうやって
研究1は、母親に自分の親のことを、娘に母親のことを聞いた(3世代)。研究2は、勉強・スポーツ・人への親切・気持ちを見せないこと、の4つについて、親の愛情が条件つきだと感じたかを聞いた
わかったこと
条件つきと感じていた人ほど、親の望んだふるまいを続けていた。ただし「しなきゃ」と内側から押される感じがいちばん強く、満足はすぐ消え、できないと恥ずかしさが残った。祖父母から条件つきと感じていた母親ほど、娘からも同じように見られていた
その後の研究
31の調査・1万1千人あまりをまとめた分析(2023年)でも同じ向き。ほとんどは一度に聞いた調査で、原因とまでは言い切れない

こんな声、心の中で聞こえないにゃ?

やっと終わった。…で、次は何をがんばればいい?
あのときのミス、思い出すとまだ顔が熱くなる
昨日は自分のこと、けっこう好きだったのにな
泣きそうになると、先に「泣いちゃだめ」が来る
(いい子じゃない日の私にも、いていい場所はあるのかな)

子どものころ、いい子にしていると
ほめてもらえた。抱きしめてもらえた。

そのとき、小さな手で
こんな契約書にサインした人も
いるかもしれないにゃ。

「いい子でいます。
だから、愛してください。」

この契約は、大人になってから
どうなっているのかにゃ。

🧪 研究 条件つきの愛情

「いい子のときだけ」と
感じて育った人たちに、
いまを聞いた

イスラエルの大学の心理学者、アソールさんたち(2004年)は、親の愛情を「条件つき」と感じて育った人を調べたにゃ。

条件つきというのは、親の望むことができたときには愛情が増えて、できないときには減る、と子どもが感じる関わり方のことにゃ。

この論文には、研究が2つ入っているにゃ。先に研究2から見ていくにゃ。

大学生110人に、4つの物差しについて聞いたにゃ。

物差し①

気持ちを見せない

「泣いたりこわがったりしないときだけ、父の愛情がもらえる気がした」など。怒り・こわさ・悲しみをこらえること。

物差し②

人にやさしく

「人に親切にすると、母がいつもより愛情を見せてくれた」など。

物差し③④

勉強と、スポーツ

「学校の成績が悪いと、父の愛情をたくさん失う気がした」「母の愛情は、スポーツの練習をがんばるかどうかしだいだった」など。

そして、いまの自分のこと。そのふるまいを、どのくらいしているか。どんな気持ちでしているか。2〜3週間あけて、2回に分けて答えてもらったにゃ。

予想してみるにゃ

親の愛情を「いい子のときだけ」と感じていた学生ほど、いまはどうだったと思う?

📊 結果の読み方

契約は、
守られ続けていた

📊 わかったこと

母について、父について、4つの物差しで、
8つの組み合わせのすべてで同じ向き。
条件つきと感じていた人ほど、
「しなきゃ」の感じが強かった

しつけとしては、ある意味「効いて」いたにゃ。子どものころから何年もたった大学生になっても、望まれたふるまいは続いていた。

ただ、それは「したいから」より「しないといけないから」に近かったにゃ。

そのまわりには、こんな気持ちがついてきていたにゃ。最初の吹き出しを思い出してみてにゃ。

できたとき

ほっとするのは、一瞬

「やっと終わった。…で、次は?」。満足が長くもたず、すぐ次の物差しが来る。

できなかったとき

恥ずかしさが、残る

「まだ顔が熱くなる」。できなかったことが、自分の値打ちの話になってしまう。

ふだん

自分への評価が、揺れる

「昨日は好きだったのに」。値打ちが「できたかどうか」に結ばれているから、日によって上下する。

4つの物差しの中で、結びつきがいちばんはっきりしていたのは「気持ちを見せない」だったにゃ。研究者たちは、内側からわいてくる気持ちを止めるのは、ほかの3つよりせめぎあいが大きいからではないか、と考えているにゃ。

もうひとつ。条件つきと感じていた人ほど、「親に認めてもらえていない」と感じ、子どものころ親に腹が立つことが多かった、とも答えていたにゃ。

🧪 研究1 3つの世代

おばあちゃん、母、娘

同じ論文の研究1は、3世代にまたがっていたにゃ。

大学生の娘をもつ母親124人に、自分の親(娘から見れば、おじいちゃん・おばあちゃん)が、勉強のことで条件つきの愛情を見せたかを聞いた。そして娘たちには、その母親のことを聞いたにゃ。

予想してみるにゃ

自分の親から「勉強ができたときだけ」と感じていた母親は、娘からどう見られていたと思う?

そう感じていた母親たちは、自分への評価が低めで、ストレスをうまくやりすごす工夫も少なめだったにゃ。「子どもの考えを尊重する」子育てにも、あまり賛成しない傾向があった。

研究者たちが目を引かれたのは、つらさを味わった本人が、同じやり方を次の世代でくり返していたことにゃ。

ひとつ、大事なことがあるにゃ。この研究の「条件つき」は、子どもの側がどう感じたかで測っていたにゃ。

親のほうは、そんなつもりはなかったかもしれない。それでも、子どもが感じたことは、子どもにとっては本物だったにゃ。どちらか一方だけが正しい、という話ではなさそうにゃ。

🤔 なぜ「しなきゃ」になるのか

物差しが、
内側に引っこしてくる

説明① 研究者たちの理論

納得しないまま、飲みこむ

アソールさんたちが土台にしたのは「自己決定理論」という考え方にゃ。親の物差しを、自分で納得しないまま飲みこむことを「取り入れ」と呼ぶ。

物差しが内側にあるから、親が見ていなくても働く。そのかわり、自分の値打ちが「できたかどうか」に結ばれる。できれば一瞬ほっとして、できなければ恥ずかしい。

この理論では、条件つきの愛情は「愛されたい」と「自分で選びたい」を天秤にかけさせる、とも考えているにゃ。

説明② 愛着の理論

心の中の「見通し」

愛着の研究で知られるイギリスの精神科医ボウルビィは、1970年代から80年代の著作で、子どもは親とのやりとりから「この人は応えてくれるか」「自分は応えてもらえる存在か」という見通しを心の中に作る、と考えたにゃ。

条件つきなら、それは「いい子のときの私なら」という但し書きつきの見通しになるのかもしれない。

ボウルビィは、見通しはくり返すうちに当たり前になって気づきにくくなる、と考えた。一方で、古くなった見通しを見直すことを、心理療法の大事な仕事にあげているにゃ。

②は人を集めて確かめた結果ではなく、観察と考察から組み立てられた理論にゃ。たくさんの研究のもとになったけれど、子どものころの見通しが大人の関係にどこまで続くかは、いまも調べられているところにゃ。

🔍 その後の研究

ほめる「条件つき」と、
引っこめる「条件つき」

2023年に、31の調査・のべ1万1千人あまりの結果をまとめた分析が出たにゃ。

親の愛情を条件つきと感じていた人ほど、「しなきゃ」の感じと、自分の値打ちが出来しだいで揺れる感じが強く(どちらも中くらいの結びつき)、気分の落ち込みもやや多かった(小さめ)。親や友だち、恋人との近さも感じにくかったにゃ。

おもしろいのは、条件つきの愛情を2つの型に分けて見たところにゃ。

条件つきの愛情の2つの型と、結びつきの強さ(たくさんの調査をまとめて)
多めにくれる型 ×「しなきゃ」の感じ0.33
引っこめる型 ×「しなきゃ」の感じ0.20
多めにくれる型 × 気分の落ち込み0.07
引っこめる型 × 気分の落ち込み0.40

「多めにくれる型」は、いい子のときにいつもより多く抱きしめたり、ほめたりすること。「引っこめる型」は、いい子じゃないときに愛情や関心を減らすこと。0.3 が「中くらい」の目安にゃ。

愛情を引っこめられるほうは、落ち込みと結びつきやすかった。そして、ほめるほうの型でも「しなきゃ」とは、むしろ強めに結びついていたにゃ。

ただ、ほとんどは一度に聞いた調査で、大人になってから子ども時代を思い出して答えたものも多いにゃ。子どもの落ち込みが親の接し方を変える、という逆向きの流れもありうる、と著者たち自身が書いているにゃ。

🏠 今に置き換えて考える

物差しは、
形を変えて残っている

研究で使われた物差しは、勉強・スポーツ・人への親切・気持ちを見せないこと、の4つだったにゃ。

いまの日本の暮らしでは、「叱るより、ほめて育てる」という言葉もよく聞くようになったにゃ。それでも物差しは、形を変えて、あちこちに顔を出していそうにゃ。

病院の帰り道

「泣かなかったね、えらいね」

予防接種のあとの、ごく自然なひと言にゃ。研究で結びつきがいちばんはっきりしていたのは、この「気持ちを見せない」物差しだった。

気になるのは、泣いた日の帰り道のほうかもしれないにゃ。泣いた日も、同じように手をつないで帰れていたなら、条件にはなりにくいのかもしれないにゃ。

ほめて育てる時代

ほめ言葉にも、条件はつく

さっきのまとめでは、「いい子のときに多めに」の型も「しなきゃ」と結びついていたにゃ。ほめるのをやめる話ではないにゃ。

研究者たちがすすめていたのは、子どものふるまいについて話すとき、それをその子の値打ちの話にしないことにゃ。「最後まで書けたね」と「えらい子だね」は、似ているようで、届く先がちがうのかもしれないにゃ。

大人になった私たち

実家への電話では、いい話だけ

研究1の母親たちは、大学生の娘がいる年になっても、子どものころの「条件つき」と、いまの自分への評価が結びついていたにゃ。

実家に電話するとき、うまくいっている話だけを選んでいないかにゃ。調査はそこまで聞いていないけれど、「心配かけたくない」の中に、「がっかりされたくない」が少し混ざっていることも、あるかもしれないにゃ。

あなたならどれ?

子どものころ、いちばん「これができたら」と感じていたのは?

🐱 猫の国の研究所より

研究所のねこたちが
読み返してみたこと

「いい子でいます。
だから、愛してください。」

研究で見えたのは、
その契約が、大人になっても
きちんと守られていたことにゃ。
泣かない。人にやさしくする。がんばる。

研究所のねこたちがおもしろいと思ったのは、
重たかったのが
ふるまいそのものでは
なかったことにゃ。

同じ学生たちの答えでは、
「自分で選んでいる」と感じられる
ふるまいほど、
満足がすぐ消える感じは弱かったにゃ。

やさしさも、がんばる力も、
たぶん、あなたのものにゃ。
契約書から消したいのは、
ふるまいの欄じゃなくて、
「だから」の三文字のほう
なのかもしれないにゃ。

🐱

がっかりしたのは、
そのこと。
あなたじゃない。

研究者たちが親たちにすすめたのは、
この分け方だったにゃ。

うまくいかなかった日は、
自分にも同じ文で言ってみる。
「資料は、まにあわなかった」。
そこで、文をいったん終わらせる。
「だから私は」と続けたくなったら、
そこに句点。

…研究所のねこは、
花びんを落とした日も、
ちゃんと晩ごはんをもらっているにゃ。🐾

📚 参考文献

この記事で紹介した研究

📋 研究所のほかのレポートにゃ

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RESEARCH No.8

「家族だから許しなよ」が苦しいのは、許しに要るものが抜けているから?

…許しを研究した人たちのところでは、許しは何か月もかけて、ゆっくり進んでいたにゃ。

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RESEARCH No.9

人のことにはすぐ気づくのに、自分の話は出てこないのはなぜ?

…心を支える仕事をめざす学生に、子どものころを聞いた研究があるにゃ。

👨‍👩‍👧
RESEARCH No.10

"私がしっかりしなきゃ"は、ずっと前に"名指し"されていた?

…母親たちに「いざというとき、どの子が見てくれる?」と聞いて、7年待った研究があるにゃ。

Assor, A., Roth, G., & Deci, E. L. (2004). The emotional costs of parents' conditional regard: A self-determination theory analysis. Journal of Personality, 72(1), 47-88. リンク
Haines, J. E., & Schutte, N. S. (2023). Parental conditional regard: A meta-analysis. Journal of Adolescence, 95(2), 195-223. リンク
Bowlby, J. (1973). Attachment and Loss: Vol. 2. Separation: Anxiety and Anger. Basic Books.
Bowlby, J. (1988). A Secure Base: Clinical Applications of Attachment Theory. Routledge.
Bretherton, I. (1992). The origins of attachment theory: John Bowlby and Mary Ainsworth. Developmental Psychology, 28(5), 759-775. リンク
上記の研究知見をもとに、ニャンタルヘルスが独自に構成・考察したものです。原論文の翻訳ではありません。記事の内容は情報提供を目的としたものであり、医学的・心理学的な診断やアドバイスではありません。つらい状況にいる方は、信頼できる専門家にご相談ください。

著者:研究所のねこたち|ニャンタルヘルス
🐱 猫の国 研究所 ― nyantal.com