
…あとで別れた夫婦にあったのは、けんかの激しさより、笑いの少なさだったにゃ。
こんな言い合い、ないにゃ?
こんな夜のあと、
「こんなことばかりで、
うちはもうだめなのかも」
と思ったことがあるかもしれないにゃ。
反対に、もう何年も
言い合いをしていない夫婦もいるにゃ。
それは、安心していいことなのかにゃ。
心理学者のゴットマンさんとレベンソンさん(2000年)は、アメリカ・インディアナ州の79組の夫婦を、14年にわたって追いかけたにゃ。
夫婦を集めたのは1983年。新聞広告に応えた人たちで、多くは30歳前後だったにゃ。
ふたりには、8時間以上離れて過ごした日に、実験室へ来てもらったにゃ。
まず「今日あったこと」を15分。次に「ずっともめていること」を15分。そのようすを録画して、ことばのひとつずつを、表情や声の調子もふくめて記録したにゃ。
それから14年、別れたかどうかを確かめ続けたにゃ。
記録のなかで、とくに見たのが次の4つにゃ。ゴットマンさんが本の中で「黙示録の4騎士」と名づけた話し方にゃ。
「点検を忘れてたね」ではなく、「いつもそう」「何もしない」。困った一件が、相手の人がらの話にすり替わるにゃ。
皮肉、あきれた顔、鼻で笑う、小ばかにした口調。ことばより先に、表情に出ることも多いにゃ。
「だって忙しかった」「そっちこそ」。言われたことを聞く前に、言い訳や言い返しが出るにゃ。
うなずきも返事もなくなって、相手の話を受けとめる人がいなくなるにゃ。
14年のあいだに、79組のうち22組が離婚したにゃ。別れた時期は、早めと、ずっとあとの二つに分かれたにゃ。
早く別れた夫婦と、あとで別れた夫婦。最初の会話に、ちがいはあったと思う?
早く別れた夫婦:
もめごとの会話で、4つの話し方が多かった。
とくに、ふたりとも防御と軽蔑が多かった
あとで別れた夫婦:
4つの話し方は、別れなかった夫婦と変わらない。
少なかったのは、関心・ユーモア・やさしさ
つまり、言い合いのとげが多い家ほど、早く行き詰まりやすかったにゃ。
でも、けんかが静かな家が安心とは限らなかったにゃ。あとで別れた夫婦は、ぶつかり合うのではなく、あたたかさが薄いまま年月を重ねていたにゃ。
おもしろいのは、「今日あったこと」を話すだけの、記録する人の多くが「退屈」と感じたような会話にも、差が出ていたことにゃ。
録画には、妻が子どもの今日のできごとを弾んで話しても、夫は気のない返事。あとで夫が仕事の話を弾んで話すと、今度は妻がいらだって返す。そんな場面もあったにゃ。
研究者たちの説明は、こうにゃ。
責められる、見下される、話を押し返される。それが毎回続くと、同じ家にいることが早いうちに限界になる、と考えられているにゃ。
ぶつからないから、暮らしは回るにゃ。でも笑いや関心のない毎日は、少しずつ効いてくる。さびしさががまんできなくなったころに、別れを選ぶのかもしれない、と研究者たちは書いているにゃ。
もうひとつ、研究者たちは順番にも目をつけていたにゃ。「今日あったこと」の会話で笑いや関心が多い夫婦ほど、もめごとの話で、片方が責めて片方が黙りこむ形になりにくかったにゃ。
けんかの言い方は、けんかの場だけで決まるわけではないのかもしれないにゃ。
この論文の要約には、「93%の正確さで離婚を予測できた」とあるにゃ。
ただこの数字は、会話だけで出したものではないにゃ。結婚の満足度や「別れを考えたことがあるか」という質問も入れた式を、同じ79組のデータに後から合わせて出した値にゃ。同じ14年のデータを使ったのちの論文では、研究者たち自身が「後からの分析なので、結論は仮説づくりのためのもの」と書いているにゃ。
2001年に、別の研究者たちが、離婚を当てる式を、式を作ったのとは別の人たちに当てはめて確かめたにゃ。すると、当たる割合は大きく下がったにゃ。
結論は、「別のデータで確かめていない予測は、どんなに数字がすごくても、かなり用心して読むこと」だったにゃ。
4つの話し方が多い夫婦ほど早く別れやすい、という傾向は見えたにゃ。でもそれは、「この話し方が出たら離婚」と言い当てる占いではないにゃ。
研究の夫婦は、1983年のアメリカで、実験室という静かな部屋で向かい合って話したにゃ。ほかに気を取られるものは何もなかったにゃ。
いまの日本の家に置き換えると、研究所のねこたちには、こんなふうに見えるにゃ。
帰ってきた人が話しはじめるのは、夕飯の支度や、お風呂の声かけや、明日の準備と重なる時間にゃ。手が離せないのはお互いさま。ただ、あとで別れた夫婦で少なかったのは、こういう何気ない会話での関心や笑いだったにゃ。「あとで聞かせて」と言って、ほんとうにあとで聞く。それだけでも、ちがうのかもしれないにゃ。
波風を立てないのが大人、という空気は、いまの日本にもあるにゃ。言い合いが少ないこと自体は悪くないにゃ。でもこの研究で、あとで別れた夫婦は、けんかが多かったわけではなかったにゃ。気にかけたいのは、言い合いの数より、いっしょに笑ったり「それで?」と聞いたりする時間が残っているか、かもしれないにゃ。
研究では、もめごとの話のあと、最後にふたりで楽しい話をしてもらってから帰したにゃ。気持ちを戻すためにゃ。日本の家では、次の朝なにごともなかったように「おはよう」で流すことも多いにゃ。それで戻れる日もあるにゃ。ただ、流したあとに、ひとつ笑える話がはさまるかどうか。研究はそこまで見ていないけれど、そこに差が出るのかもしれないにゃ。
言い合いになったとき、あなたにいちばん出やすいのはどれ?

「いつもそう」「だって」。
ここまで読みながら、
うちの言い合いに、4つのうち
いくつ出ているか、
指を折った人もいるかもしれないにゃ。
ねこたちも、79組を数え直してみたにゃ。
14年で別れたのは22組。
4つの話し方が目立っていたのは、
そのうち早く別れた9組のほうだったにゃ。
あとの13組は、言い合いの言い方では、
別れなかった夫婦と見分けがつかなかった。
4つを数える指からは、
別れた夫婦の半分より多くが
こぼれ落ちていたにゃ。
よく聞く「93%」も、
同じ79組に、あとから式を合わせた数字だったにゃ。
ここに書いたのは、
1983年に集まった79組の録画から
ねこたちが読んだことで、
あなたの家の先行きを当てる話ではないにゃ。
ただ、ひとつ言えそうなのは、
4つの話し方は、けんかのとげをはかる物差しで、
ふたりのあたたかさまでは
はかっていなかった、ということにゃ。
録画は、けんかからではなく、
「今日あったこと」から
はじまっていたにゃ。
8時間以上はなれて過ごした日の、
なんでもない報告の15分。
記録する人の多くが
退屈だと感じたその会話にも、
14年後につながる差が出ていたにゃ。
けんかの夜をふり返るより、
夕方の「今日さ」のあとに
どんな返事が行き来したかのほうが、
ふたりのことをよく映している
のかもしれないにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
📋 研究所のほかのレポートにゃ