
…「頭から離れない」は、恋のしるし? それとも、とらわれ?
この時間の、この感覚。
知ってる人は、知ってると思うにゃ。
眠れないほど気になるのは、
それだけ好きだから。
そう思っている人は多いにゃ。
でも、「頭から離れない」と
「好き」は、同じものなのかにゃ。
この問いに、血液から近づいた
イタリアの研究があるにゃ。
1999年、イタリア・ピサ大学の精神科医マラツィティさんたちは、3つのグループを比べたにゃ。
1日に4時間以上、相手のことを考えている人たち。
ある考えが頭から離れず、自分でも止められなくなる病気。薬はのんでいない人たち。
最近恋をしたわけでも、強迫症でもない人たち。
測ったのは、セロトニンの運び役の数にゃ。
セロトニンは、気分や不安に関わる体の中の物質。運び役(輸送体)は、使い終わったセロトニンを回収する役目をしているにゃ。脳の神経にあるのと同じものが血液の血小板にもあって、血をとれば数えられるにゃ。
強迫症の人では、この運び役が少ないという報告が、それまでにあったにゃ。
恋をしている20人の運び役の数は、どのグループに近かったと思う?
恋をして間もない人と強迫症の人は、
セロトニンの運び役が同じくらい少なく、
どちらも、どちらでもない人より
はっきり少なかったにゃ。
これは「恋は病気」という意味じゃないにゃ。似ていたのは、血液の中のひとつのしるしだけ。脳の中を見たわけでも、セロトニンの量そのものを測ったわけでもないにゃ。
それでも、相手のことが頭から離れないとき、体の側でも何かが動いているらしい、ということにはなるにゃ。
1年から1年半たって、恋をしていたグループのうち
6人を測り直すと、
ふつうの値に戻っていたにゃ。
眠れないほど考えてしまう夜は、意志が弱いからでも、愛が深すぎるからでもなく、恋のはじめに起きやすい状態なのかもしれないにゃ。そして状態は、いつか静まるにゃ。
研究者たちが出発点にしたのは、恋のはじめに相手のことを考えすぎてしまうのと、強迫症の止められない考えは、考え方の形が似ている、という見方だったにゃ。
では、なぜ止まらないのか。研究とは別のところから、ふたつの説明が出ているにゃ。
1979年、アメリカの心理学者が、たくさんの人から恋の話を聞いて一冊の本にまとめ、この状態に「リメランス」という名前をつけたにゃ。
相手のことが頭から離れない。気持ちを返してほしいと強く願う。そして、相手のふるまいを自分がどう読んだかで、気分が天にも地にも動く。はっきりしないときほど胸が痛み、少しの優しさで気持ちはかえって強くなる、と書いているにゃ。
これは聞き取りから描いた見方で、人数を比べて確かめた研究ではないにゃ。でも「今日、なんか冷たかったな」で眠れなくなる夜を、ずいぶん正確に言い当てているにゃ。
動物の学習の実験から、毎回もらえるごほうびより、いつ来るかわからないごほうびのほうが、その行動をやめにくくすることが知られているにゃ。
1981年、暴力のある関係を見てきたカナダの研究者たちは、これを人の関係に当てはめたにゃ。ひどい扱いのあとに優しさが来る、をくり返すと、かえって強い結びつきが生まれる、という説にゃ。
恋の「機嫌が気になる」がそのまま同じだと確かめられたわけではないにゃ。ただ、冷たい日のあとの笑顔ほど忘れられない、という感覚の説明として、よく使われる考え方にゃ。
同じ「頭から離れない」でも、相手を思うと胸が躍る夜と、胃がきゅっとなる夜があるにゃ。
後のほうについて、カウンセリングの現場でよく語られる見立てがあるにゃ。
子どものころ、身近な大人の機嫌が読めないと困る家で育った人は、相手の表情や声の調子を見張るくせが身につきやすい。大人になって恋をすると、その見張りが恋人に向かう。
外から見ると「すごく好き」に見えるし、本人もそう感じている。でも中身は、離れていかないかを確かめ続ける安全確認に近いこともある、という見方にゃ。
これにつながる研究もあるにゃ。2022年にイタリアで、パートナーから暴力を受けた女性98人と、そうでない女性81人をくらべた研究では、暴力を受けた人たちに、子どものころの家でのつらい体験が多かったにゃ。
ただ、関係と強く結びついていたのは、つらい体験があったことより、それが心の中で整理されないまま残っていることのほうだったにゃ。昔のことは変えられなくても、整理は、いまからでもできるものにゃ。
もちろん、機嫌が気になる人がみんな、つらい子ども時代を送ったわけじゃないにゃ。恋のはじめは、だれでも多かれ少なかれ相手を見張るものにゃ。
ピサの研究は、1グループ20人と小さなものだったにゃ。選ばれたのは、1日4時間以上相手のことを考えていて、まだ体の関係のない人たち。発表の翌年には、ほかの精神科医から「それは恋というより、満たされない気持ちの緊張を測ったのでは」という疑問の手紙も届いているにゃ。
2012年には、オランダで、恋をしている20人(うち男性10人)と、していない20人の血液から、セロトニンそのものを測った人たちがいるにゃ。
恋をしている人たちは、起きている時間のどのくらい、相手のことを考えていたと思う?
セロトニンのほうは、ひと筋縄ではいかなかったにゃ。恋をしている男性は、していない男性より少なく、恋をしている女性は、していない女性より多かったにゃ。女性では、相手のことを考えてしまう度合いが強い人ほど、血液のセロトニンが多かったにゃ。
「恋をするとセロトニンが減る」と、ひと言では言えなさそうにゃ。どちらも人数の少ない研究で、血液の値が頭の中をそのまま映すとも限らないにゃ。
それでも、ふたつの研究がそろって見ていたのは、恋のはじめに、相手のことが一日の大半を占めてしまう人たちの姿だったにゃ。
ピサの研究の人たちは、会って、電話で話して、相手の顔や声から機嫌を感じとっていたはずにゃ。
いま、恋人とのやりとりの多くは文字にゃ。リメランスでいう「相手のふるまいの読み」の材料が、小さくて、あいまいなものに変わったのかもしれないにゃ。
顔も声もないぶん、文末の「。」や、いつもの絵文字がないことまで、機嫌のしるしに見えてしまうにゃ。ここ数年、「文末の句点が冷たく見える」という話が話題になったのも、そのせいかもしれないにゃ。相手はただ急いでいただけ、ということも多いにゃ。
昔なら、気になっても朝まで待つしかなかったにゃ。いまは夜中の2時でも聞ける。「怒ってないよ」と返ってくれば、ほっとする。
でも、そのほっとは長くもたないことが多いにゃ。たまに返ってくる安心ほど、また確かめたくなる。さっきの「いつ来るかわからないごほうび」と、同じ形をしているのかもしれないにゃ。
夜中は、考えが暗いほうへ転がりやすいにゃ。謝る文を書いたら、送らずに朝まで置いておく。朝になっても送りたければ、送ればいいにゃ。
何も悪いことをしていないのに謝る文だったと、朝の目で気づくこともあるにゃ。ひと晩おくのは、気持ちが静まる時間を、自分にあげることでもあるにゃ。
相手の機嫌が気になって眠れない夜、あなたがしてしまいがちなのは?

眠れないほど気になるのは、
それだけ好きだから。
そう思えば、
苦しい夜にも意味がある気がするにゃ。
研究所のねこたちが引っかかったのは、
ピサの研究に届いた疑問の手紙にゃ。
選ばれたのは、まだ体の関係のない人たち。
測ったのは恋の深さというより、
満たされない気持ちの緊張では、
という手紙だったにゃ。
リメランスの本にも、似たことが書いてあったにゃ。
はっきりしないときほど、胸が痛む。
眠れなさをふくらませているのは、
好きの量より、わからなさの量
なのかもしれないにゃ。
測り直した6人の値が
1年あまりでふつうに戻っていたのも、
愛が消えたから、とはかぎらない。
わからないことが減っただけ、とも読めるにゃ。
20人ずつの血液と、一通の手紙から、
ねこたちが組み立てた読みにゃ。
恋のどきどきと、見張りのどきどきは、
内側からは見分けにくいにゃ。
手がかりをひとつ置くなら、
その人といて、ほっとできる時間があるかどうか。
わからなさが、いつまでも静まらない関係もあるにゃ。
冷たい日と優しい日が交互に来て、
相手の機嫌を損ねるのがこわくて
言いたいことを飲みこむ日が続いているなら、
それは恋のはじめの「状態」とは
別のものかもしれないにゃ。
カナダの研究者たちが見ていたのは、
そういう関係だったにゃ。
その見張りは、ひとりでほどくより、
こういう関係をたくさん見てきた
専門の人といっしょのほうが、
ほどけやすいものにゃ。
起きている時間の65%。
あの数字の、残りのほうにゃ。
恋のまっただなかでも、
起きている時間の
三分の一くらいは、
その人のものじゃなかった。
頭から離れないと答えた20人にも、
相手のこと以外を考えている時間が
ちゃんと残っていたにゃ。
たとえば、ごはんの味や、帰り道の空や、
自分の好きな歌のための時間。
機嫌を見張る夜がつづくと、
まっ先に細っていくのも、
この時間なのかもしれないにゃ。
あなたの三分の一には、
いま、何が入っているにゃ?
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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