
…ケンカのあと、相手がさっと戻ってくれる人ほど、ふだんのいい気持ちが多かったにゃ。
ケンカのあと、こんな空気にならないにゃ?
ケンカそのものより、
そのあとの空気のほうが
長く残ることがあるにゃ。
すぐ元に戻れる人と、
なかなか戻れない人。
仲直りしたら、前より近くなった気がする夜も
あるにゃ。
ケンカのあと、ふたりの間では
何が起きているのかにゃ。
アメリカ・ミネソタ大学のサルバトーレさんたち(2011年)は、生まれたときからずっと調べてきた20〜21歳の若者73人と、その恋人に、研究室へ来てもらったにゃ。つきあって平均2年ちょっとのカップルたちにゃ。
まず10分、ふたりのいちばん大きな問題について話し合ってもらう。つまり、ケンカの話にゃ。
そのすぐあとに、こう頼んだにゃ。「では4分間、ふたりのいちばん意見が合うことについて話してください」。
見ていたのは、その4分間。さっきの話を蒸しかえす、新しい不満を持ち出す、相手が出した話題を打ち消す、黙りこむ。反対に、ふたりのいいところを話す、相手の話に乗っていく。
ひとりずつ、どれだけ切り替えられたかを、見ていた人たちが点数にしたにゃ。
ふだんの関係で、いい気持ちで過ごせていたのは、どんな人だったと思う?
相手がケンカから上手に切り替えてくれる人ほど、
ふたりの関係の中で、いい気持ちが多かった。
関係への満足も、高めの傾向だった
暮らしの言葉にすると、こうにゃ。
あなたが引きずっているかどうかは、あなたの気分より、相手の気分に響いていた。相手が引きずっているかどうかは、あなたの気分に響いていた。
ケンカのあとのぎこちない空気は、出している本人より、そばで受けとっている側のほうが重く感じているのかもしれないにゃ。
「もう怒ってないよ」と言いながら、声がまだとがっている。言った本人は気づかなくても、相手にはちゃんと届いているにゃ。
この73人は、赤ちゃんのころから調べられてきた人たちにゃ。1歳と1歳半のとき、お母さんと少しのあいだ離れて、また会えたときの様子を見る検査を受けていたにゃ。
そのとき安心した様子を見せていた回数が多い人ほど、20年たって、恋人とのケンカからの切り替えが上手だったにゃ。その人の恋人の切り替えも、上手だったにゃ。
ただ、結びつきは大きくはないにゃ。本人の切り替えの上手・下手のうち、赤ちゃんのころの様子で説明できたのは、一割にも届かなかったにゃ。
2年後、研究者たちはもう一度、まだつきあっているかを聞いたにゃ。わかった69組のうち、続いていたのは38組(55%)。
赤ちゃんのころ、安心した様子が少なかった人。2年後も恋人と続いていたのは、どんなときだったと思う?
赤ちゃんのころに安心した様子を多く見せていた人は、相手が切り替え上手でもそうでなくても、続きやすさに差はなかったにゃ。
小さいころのことは、自分では選べないにゃ。でも、そのあと誰と、どう過ごすかで、続き方はちがっていた。そこに、少しほっとする研究にゃ。
研究者たちは、切り替えを「ケンカをケンカの時間の中にしまって、ふたりのほかの大事なことに戻る力」と考えたにゃ。
ケンカが終わっても、とげとげした空気が、そのあとの時間にこぼれていく。それをくい止める力にゃ。
こぼれたとげを浴びるのは、たいてい、そばにいる相手のほうにゃ。引きずっている本人は、自分のとげに気づきにくい。だから切り替えの差は、本人より相手の気持ちに出たのではないか、というのが研究者たちの説明にゃ。
では、なぜ赤ちゃんのころと結びつくのか。研究者たちが土台にしたのは、1960年代にイギリスで生まれた「愛着理論」という考えにゃ。
泣いたときに抱っこされて、落ち着く。それをくり返すうちに、ゆれた気持ちを自分で落ち着ける力が育っていく、という見方にゃ。
たくさんの研究のもとになってきた理論だけれど、切り替えがどんな力の組み合わせでできているのかは、まだわからない、と研究者たち自身が書いているにゃ。
そして同じ理論には、「育ちは、そのあと出会う人や暮らしとの組み合わせで形になっていく」という考えもあるにゃ。切り替え上手な恋人が、もう一方の苦手なところを支えていた結果は、この考えにそっていたと研究者たちは書いているにゃ。
ケンカして、仲直りして、前より好きになった気がする。この感じを説明しようとする考えも、いくつかあるにゃ。
ケンカで高まった胸のドキドキを、仲直りのときの「好き」と取り違える、という説にゃ。揺れる橋の実験から広まった考えで、追試ではいつも同じ結果が出たわけではないにゃ。くわしくは、研究所の吊り橋の記事にあるにゃ。
動物の実験から育った行動の心理学には、「ときどきしかもらえないごほうびのほうが、行動がやみにくい」という考えがあるにゃ(間欠強化)。ケンカと仲直りをくり返す関係に、これを当てはめる見方があるにゃ。暴力のある関係を調べた研究者からは、ひどい扱いとやさしさが交互に来ることが、かえって離れにくい絆になる、という説も出ているにゃ。この考えは、研究所の「相手の機嫌が気になって眠れない」の記事にも出てくるにゃ。ただ、ふつうのカップルのケンカで確かめられた話ではないにゃ。
どちらの説も、仲直りの夜の近さがぜんぶ錯覚だ、とまでは言っていないにゃ。ほんとうにわかり合えた夜も、きっとあるにゃ。
ただ、ミネソタの研究で2年後とつながっていたのは、盛り上がった仲直りではなかったにゃ。なんでもない話に戻る4分間のほうだったにゃ。
ケンカのたびに怖い思いをしているなら、それは切り替えとは別の話にゃ。信頼できる人やニャンタル、専門家に、話してみてにゃ。
切り替えは、あとから身につけられるのかにゃ。
2013年に、アメリカの120組の夫婦を2年間追いかけた実験があるにゃ。4か月ごとに、最近いちばん大きかった意見の食いちがいを書いてもらったにゃ。
2年目、半分の夫婦にだけ、もうひと手間お願いしたにゃ。そのケンカを、「ふたりのどちらにとっても一番いいことを願う、中立の第三者」の目で見たらどう見えるか、7分で書く。1年に3回、合わせて21分にゃ。
この21分を書いた夫婦は、どう変わったと思う?
ケンカをなくさなくても、ケンカのあとの受けとめ方は変えられるのかもしれないにゃ。
どちらの研究も、アメリカの人たちで、人数も多くはないにゃ。日本の暮らしでも同じかは、まだわからないにゃ。
研究室のカップルには、研究者が合図を出してくれたにゃ。「では、意見が合うことを話してください」。
いまの私たちのケンカには、その合図を出してくれる人がいないにゃ。
ほんとうは、もう戻りたい。でも自分からふつうに話しかけたら、さっきの話を認めたみたいでくやしい。そうして、ふたりとも相手の合図を待っている夜があるかもしれないにゃ。研究で、切り替えがいい気持ちを運んでいたのは相手のほうだったにゃ。先に戻るのは、ゆずることというより、相手への差し入れに近いのかもしれないにゃ。
研究でも、4分のあとには、ふたりで「理想のカップル」のカードを分ける作業が控えていたにゃ。いまの暮らしなら、同棲の部屋探し、結婚式の準備、週末の予定。ケンカの直後でも、ふたりで決めることは待ってくれないにゃ。切り替えは、仲直りのためというより、次の用事をいっしょにやるための力なのかもしれないにゃ。
4分間の話題は「いちばん意見が合うこと」だったにゃ。でも、ケンカの直後にそれを思い出すのは、案外むずかしいにゃ。好きな店、また行きたい場所、ふたりで笑った失敗。落ち着いているときに、いくつか思い当たっておくと、戻る道になるかもしれないにゃ。
ケンカのあと、いまのあなたはどれに近い?

ケンカのすぐあとの
「晩ごはん何にする?」は、
まだ胸がざわざわしている側には、
ずいぶん軽く聞こえるにゃ。
それでも、相手がさっと
戻ってくれる人ほど、
ふだんのいい気持ちが多かった。
戻った本人の気分とは、
はっきりした結びつきがなかったにゃ。
切り替えは、自分の機嫌をなおす技というより、
ケンカのとげを相手に浴びせないための
ものだったのかもしれないにゃ。
赤ちゃんのころ、
安心した様子が少なかった人たちも、
切り替え上手な恋人とは、
2年後も続いていることが多かったにゃ。
ふたりのうち、ひとりが
戻り道を知っていれば、
もうひとりも、そのあとについて
帰ってこられたのかもしれないにゃ。
ミネソタの73組、
20歳を少し過ぎた恋人たちが、
研究室で過ごした4分間。
ねこたちが読んだのは、
そこに映っていたことだけにゃ。
120組の夫婦の半分が、
年に3回、7分ずつ
やってみたことにゃ。
どちらの味方でもなく、
どちらの幸せも願う人の目で、
このケンカを見てみる。
ケンカの回数は、
書かなかった夫婦と
同じくらいだったにゃ。
減ったのは、ケンカで
つらくなることのほう。
その人の目には、
あの「晩ごはん何にする?」が、
どんなふうに映るかにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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