
…ふられたばかりの15人の脳を見た研究から、考えてみたにゃ。
こんなこと、ないにゃ?
食べられない。眠れない。
胸のあたりが、ほんとうに痛い。
こんなに苦しいのは、
それだけ深く愛していたから?
それとも、私がおかしいの?
ふられたばかりの人に、
その人の写真を見てもらいながら、
脳を調べた研究があるにゃ。
2010年、アメリカの人類学者フィッシャーさんたちは、「ふられたばかりなのに、どうしても手放せない人」を、チラシと口コミで探したにゃ。
集まったのは、ニューヨーク近くの大学生などの15人(女性10人・男性5人)。平均19.8歳で、平均1年9か月付き合い、ふられてからは平均2か月ほど。全員が、起きている時間のほとんどを相手のことを考えて過ごし、よりを戻したいと願っていたにゃ。
MRIの中で見てもらったのは、2枚の写真。ふられた相手と、寮や職場の知り合いのような「顔は知っているけれど、とくに気持ちのない人」にゃ。
あいだには、4けたの数から7ずつ引いていく計算をはさんだにゃ。相手の写真で動いた気持ちを、いったん流すためにゃ。
ふられた相手の写真を見たとき、「恋をしている脳」で働く場所は、どうなっていたと思う?
あの人の写真を見たときに働いていたのは、ひとつの場所じゃなかったにゃ。大きく分けると、こんな場所にゃ。
脳の奥の、やる気やごほうびに関わる場所(腹側被蓋野)。両想いの恋をしている人たちで働いていた場所と、重なっていたにゃ。
側坐核や、おでこの奥のあたり。お金をもらえるか失うかの実験で働く場所で、薬物をほしがる気持ちを調べた研究で報告された場所とも、一部が重なっていたにゃ。
島皮質や前帯状皮質。ほかの研究で、体の痛みやつらさのときに働くと報告されてきた場所にゃ。
いやな場面のとらえ直しがうまくいくときに働く、と報告されてきた場所も働いていたにゃ。
ふられたのに、前より好き。それは気のせいじゃなく、恋の中心がまだ働いている状態なのかもしれないにゃ。
同時に、脳は何が起きたのかを見積もり、とらえ直そうともしていた。研究者たちは、ただ苦しんでいるだけでなく、そこから学ぼうとしている姿なのかもしれない、と考えたにゃ。
ふられてからの日にちが長い人ほど、
愛着に関わると考えられている場所の一部で、
反応が小さかったにゃ。
15人を一度ずつ調べて比べた結果で、同じ人がだんだん変わっていくのを見たわけではないにゃ。それでも研究者たちは、愛着の反応は時間とともに弱まっていくのかもしれない、と書いているにゃ。
フィッシャーさんたちは、調べる前から「ふられた人でも、恋の中心は働くはず」と予想していたにゃ。理由はふたつ。
ひとつは動物の研究から。ごほうびがなかなか来ないとき、ごほうびを待つ神経細胞の働きが長引く、という報告があったにゃ。もうひとつは恋の研究者たちの観察で、反対や障害があると、恋はかえって強まりやすい、という見方にゃ。
同じ研究者たちは2016年、恋をしている人には、のめり込む、ほしくてたまらない、離れると苦しい、ぶり返す、といった依存によく似た姿が見られる、と論文にまとめたにゃ。
両想いなら良いほうに、ふられると苦しいほうに働く「自然な依存」なのではないか、という考えにゃ。
ただ、同じ論文で研究者たち自身が、恋は依存症には分類されていないこと、別れたあとだれもがこうなるわけではないことも書いているにゃ。
これは失恋に病名をつける話ではないにゃ。依存から抜け出すときの知恵を、失恋の手放し方にも借りられるのでは、という提案にゃ。
ふられたあとのつらさは、心の中だけで終わらないことがあるにゃ。食べられない、眠れない、胸のあたりが痛い。これには、ふたつの説があるにゃ。
仲間はずれにされたとき、体の痛みでも働く場所が反応した、という2003年の研究から広まった説にゃ。さっきの15人でも、そうした場所が働いていたにゃ。
でも、元恋人の写真と腕への熱い刺激を、同じ60人で比べた2014年の研究では、脳の反応の模様は見分けられたにゃ。「同じ回路」と言えるかどうかは、いまも議論が続いているにゃ。
どちらの説が当たっていても、あなたの痛みが本物であることは変わらないにゃ。
大人の愛着を調べてきた研究者たちは、こんな枠組みを出しているにゃ。長くそばにいた相手とは、眠りや気持ちの落ち着きを、知らないうちに分け合うようになる。別れると、それがいったん乱れる。
立ち直りとは、その落ち着きを自分の手で取り戻していく道のりだ、という考えにゃ。
これは、これから確かめていくための理論として示されたものにゃ。それでも、眠れない夜や食べられない日を「気持ちが弱いから」と責めなくていい、というヒントにはなるにゃ。
フィッシャーさんたちの研究は、15人を一度だけ調べた小さなものだったにゃ。選ばれたのも、ふられてもまだ強く好きでいる、20歳前後の人たちだけにゃ。
「気持ちは本当に静まっていくのか」は、同じ人を追いかけないとわからないにゃ。
アメリカで、恋人と付き合っている若い人たちに、前もって参加してもらった研究があるにゃ。別れが来た人には、そこから28日間、持たせたポケットベルが鳴るたびに、その時の気持ちを日記に書いてもらったにゃ。
「好き」という気持ちは、日を追って少しずつ下がっていったにゃ。悲しさや怒りは、まっすぐではない道すじで動いた。揺れがいちばん大きかったのは、別れてすぐのころだったにゃ。
別れたあとも、元の相手と連絡を取っていた人たちは、どうだったと思う?
連絡したから下がりにくくなったのか、気持ちが強い人ほど連絡したのか、この研究からは分けられないにゃ。
それでも、ふたつの研究を並べると見えてくるものがあるにゃ。気持ちはまっすぐには消えないけれど、ちゃんと動いていく。そして、相手とのつながりが続いているあいだは、その動きがゆっくりになりやすいにゃ。
日記の研究の人たちは、ポケットベルで呼ばれていたにゃ。
2016年の総説は、手放すときに遠ざけたいものとして、カード、手紙、歌、写真、思い出の品を挙げ、相手との連絡も避けたほうがいい、と書いているにゃ。いまの暮らしに置くと、どうなるかにゃ。
昔なら、手紙や写真は箱ひとつにまとめられたにゃ。いまは、ふたりで作ったプレイリストや、相手の名前でログインしたままの動画のサブスクがあるにゃ。
こちらが探さなくても、おすすめやシャッフルで、あの曲が鳴る。何度も思い出してしまうのは、未練が強すぎるからじゃなく、きっかけの数が多いだけなのかもしれないにゃ。
日記の研究のころ、連絡といえば電話をかけるか、会いに行くことだったにゃ。いまはスタンプひとつで届く。軽いひと言でも、返事が来るかどうかを待つあいだに、気持ちは相手のほうへ引き戻されるかもしれないにゃ。
送りたくなったら、その言葉をまず、信頼できる友だちに送ってみる。総説も、親しい友だちとのつながりを、手放すときの支えに挙げていたにゃ。
全部消すのは、夜中にはこわい。でも、毎日目に入るままだと、つらい。いまのスマホには、ミュートや非表示、アーカイブのように、消さずに見えない所へ移すやり方があるにゃ。
押し入れの上の箱と同じにゃ。残すかどうかは、気持ちが落ち着いてから決めてもいいにゃ。
もし今夜、あの人のことで眠れなかったら、あなたが手をのばしそうなのは?

ふられたのに、前より好き。
2か月たっても、3か月たっても、
気持ちだけが逆の向きに
進んでいくような感じにゃ。
あの人の写真を見ているあいだ、
15人の脳では、
ふたつのことが同時に起きていたにゃ。
「ほしい」を見積もる場所は、
両想いの人より強く働いていた。
同じとき、つらい出来事を
考え直す場所も、
もう動いていたにゃ。
気持ちが逆向きに進んでいるように見える日にも、
脳のほうでは、
何が起きたのかを見積もる計算が
もう回っていたのかもしれないにゃ。
前より好きな気持ちと、
手放そうとする働きは、
順番に来るのではなく、
並んで動いている。
15人を一度ずつ写した画像から、
ねこたちが読んだことにゃ。
同じ人が変わっていくところまでは、
まだ見えていないにゃ。
写真と写真のあいだに、
研究者たちがはさんだものにゃ。
4けたの数から、
7ずつ引いていく。
あの人の写真で動いた気持ちを、
いったん流すための計算にゃ。
実験の部屋でも、
あの人の顔を見たあとには、
頭をふさぐ時間が、
かならずはさまっていたにゃ。
眠れない夜は、羊のかわりに、
1000から7ずつ。
993、986、979……
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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