
…上がったのは体温じゃなくて、感じる温度のほうにゃ。
寒くなってくると、
こんなこと、ないにゃ?
冬になると、昔のことが
やけに浮かんでくる気がする。
それは気のせい?
それとも、寒さと懐かしさは
どこかでつながっているのかにゃ。
中国・中山大学の心理学者、周欣悦(ジョウ・シンユエ)さんたち(2012年)は、イギリスとオランダの研究者と組んで、寒さと懐かしさの関係を5つのやり方で調べたにゃ。
はじめは、広州の大学生19人の30日間の記録。毎晩10時ごろ、その日どれくらい懐かしい気持ちになったかを、0〜10の数字で携帯から送ってもらったにゃ。町の気温と照らしてみると、寒い日ほど懐かしさが少し高かったにゃ。
ただ、寒い日は厚着をしたり、家にこもったりもするにゃ。そこで次は、部屋の温度のほうを決めて比べたにゃ。
大学生90人を、20℃・24℃・28℃のどれかの部屋に分けて座ってもらい、音楽・友だち・ペット・家族で暮らした家など20の項目について、「いま、どれくらい懐かしいか」を答えてもらったにゃ。
いちばん懐かしさが強かったのは、どの部屋だったと思う?
今度は向きを逆にして、懐かしさのほうから寒さを見たにゃ。
オランダでは、毎年12月に放送される人気の音楽番組のサイトで、1,070人に4曲を聴いてもらったにゃ。その曲で懐かしくなった人ほど、「体があたたかくなった」と答えることが多かったにゃ。
でも、「懐かしい」と「あたたかい」は、言葉としてもくっつきやすいにゃ。「あたたかくなった?」と聞かれたら、なんとなく「はい」と言ってしまうかもしれない。
そこで研究チームは、あたたかさを直接たずねないやり方を考えたにゃ。
大学生64人に、16℃に保った部屋に座ってもらう。半分の人は懐かしい出来事を、もう半分はふつうの出来事を思い出して、キーワードを4つ書き、その出来事と気持ちをしばらくふり返る。
そのあと、「この部屋は何℃だと思う?」と、できるだけ正確に当ててもらったにゃ。
懐かしい出来事を思い出した人たちは、部屋の温度をどう答えたと思う?
体温計で体を測ったわけではないにゃ。
測ったのは、その人が「この部屋は何℃か」と感じた温度。
部屋の寒さはそのままで、寒さの感じ方が少しやわらいでいた、という結果にゃ。
5つ目の調べでは、80人の大学生が、同じように出来事を思い出したあと、4℃に保った水に利き手を入れて、つらくなるまでがまんしたにゃ。
時間を測った人は、だれがどちらを思い出したのかを知らされていなかったにゃ。
「懐かしいことを考えて、気分がよくなっただけでは?」という疑問にも、研究チームは答えを用意していたにゃ。その場の気分のよさ・悪さも測って差し引いてみたけれど、懐かしさの差は残っていたにゃ。
ただ、どれも平均で見た差にゃ。同じグループの中でも答えはかなりばらついていて、全員がそうなったわけではないにゃ。
暮らしの言葉にすると、懐かしさは部屋をあたためるストーブではなく、寒さの角を少し丸くするもの。そのくらいに受けとっておくのがよさそうにゃ。
なぜ懐かしさで、寒さの感じ方が変わるのか。決着はついていないけれど、研究チームが出した説明を二つ並べてみるにゃ。
体が冷えると、ふるえて熱をつくる。そんなふうに体は「ちょうどいい」に戻ろうとするにゃ。研究チームは、懐かしさもその仲間ではないかと考えたにゃ。
心が、前に心地よかったときの体の感じを、思い出の中で「まるで今そうであるかのように」なぞる。脳と感情の研究者が唱えた考え方を借りた説明にゃ。体の温度や痛みを感じとる場所と、気持ちに気づく場所が脳の中で重なっている、という研究も手がかりにしているにゃ。ただ、この実験で脳を測ったわけではないにゃ。
懐かしい思い出には、家族や友だちなど、大事な人が出てくることが多いにゃ。そして人は、抱っこされていたころから、人のそばにいることと体があたたかいことを、いっしょに経験してきた。だから二つが心の中で結びついているのでは、という考えにゃ。
研究チーム自身も、人とのつながりが本当に橋わたしをしているかは、これから確かめることだと書いているにゃ。
説②の支えとして、よく持ち出されてきたのが、2008年に話題になった「温かいコーヒーを持つと、相手をあたたかい人だと感じる」という実験にゃ。
でも、のちに3つの研究室が合わせて861人でやり直したときも、別のチームが人数を3倍以上にしてやり直したときも、同じ結果は出なかったにゃ。有名だけれど、追試では確かめられなかった話にゃ。
2018年、同じ研究者たちも加わったイギリスのチームが、寒さを「いやな天気」に広げて調べたにゃ。
ふつうの音にくらべて、荒れた天気の音を聞いたあとのほうが、懐かしい気持ちが強くなったにゃ。
天気がいやだと感じた日ほど気持ちが重くなり、そういう日ほど懐かしさも強かったにゃ。ただ、雨については結果がそろわなかったにゃ。
別の作業で頭をいっぱいにして、懐かしさが浮かびにくいようにすると、荒れた天気によるいやな気持ちが強くなったにゃ。懐かしさが、クッションの役をしていたのかもしれないにゃ。
一方で、気をつけて読みたいところもあるにゃ。16℃の部屋の実験は64人の大学生での一回きり。冷たい水の実験も80人にゃ。
2012年の研究チーム自身も、「懐かしい思い出」に限らず、楽しい思い出なら何でも同じなのかを、もっと厳しく比べる必要があると書いているにゃ。
研究の大学生たちが暮らしていたのは、亜熱帯の町、広州だったにゃ。それでも、ひんやりした部屋で懐かしさが動いたにゃ。
では、日本の冬はどうかにゃ。
懐かしさがいちばん強かった部屋は20℃。日本では環境省が2005年度から、冬の暖房は「室温20℃が目安」と呼びかけているにゃ。研究で「ちょうどいい」とされたのは24℃だったにゃ。
ひざかけを足して20℃で過ごすオフィスや部屋は、研究でいえば懐かしくなりやすい部屋に近いのかもしれないにゃ。冬の午後、手が止まって昔のことが浮かぶのは、気がゆるんでいるからだけではないかもしれないにゃ。
オランダの1,070人の調べは、毎年12月に放送される音楽番組のサイトで行われたにゃ。日本でも、年の終わりには昔の歌を流す番組が増えるにゃ。
寒さと、なじみのある歌。冬は、懐かしさの材料がそろいやすい季節なのかもしれないにゃ。
研究チームは、懐かしさで寒さをしのげてしまうと、寒さそのものから抜け出す手を打たなくなるおそれもある、とも書いているにゃ。
電気代が気になって、暖房をがまんする冬もあるにゃ。でも、懐かしさがやわらげるのは寒さの感じ方で、冷えた手足そのものではないにゃ。手足が冷たいときは、まず一枚はおる、温かいものを飲む、暖房を入れる。思い出は、そのあとにそっと足すくらいがちょうどいいにゃ。
寒い日、ふと思い出すのはどんなこと?

「ノスタルジア」という言葉は、
17世紀にスイスの医者が
病気の名前としてつくったものにゃ。
ヨーロッパの王に仕えたスイスの兵士たちが、
故郷を恋しがってふさぎこむ。
その様子を呼ぶための言葉だったにゃ。
それから300年以上たって、
同じ気持ちが、寒い部屋を
少しあたたかく感じさせていたにゃ。
20℃の部屋に座った人たちは、
だれに言われたわけでもないのに、
気持ちが昔のほうへ動いていたにゃ。
冷えた体と心が手をのばした先が、
あたたかかったころの記憶だったにゃ。
研究所のねこたちは、こう読んだにゃ。
懐かしさは、過去に住みつくことじゃなくて、
前にあたたかかった場所から、
ぬくもりを少しだけ借りてくること。
寒い日に昔のことが浮かぶなら、
それは、借りにいける場所が
ちゃんとあるしるしなのかもしれないにゃ。
16℃の部屋は、16℃のままだったにゃ。
それでも、懐かしい出来事を思い出した人は、
少しあたたかい部屋にいると答えたにゃ。
にゃんたるは寒い朝、
ゆうべだれかが座っていた座布団に、
わざわざ乗りにいくにゃ。
もう冷えているのに、まるくなって、
目を細めているにゃ。🧣
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