
…心の中の「私」を、自分の名前に変えるだけ。スピーチの実験で、ちがいが出たにゃ。
発表の順番を待っているとき、
頭の中、こんなふうにならないにゃ?
「落ち着け、私」と言い聞かせても、
なかなか落ち着かないにゃ。
そこで、心の中の主語を
自分の名前に変えてみる。
「〇〇は、いま何がこんなに怖いんだろう」
そんなことで、何か変わるのかにゃ。
心理学者のクロスさんたち(2014年)は、アメリカの大学で89人の学生に、わざと緊張する課題を出したにゃ。
「あなたが夢の仕事にふさわしい理由を、面接官の前で話してください。録画もします」。準備は5分だけ。メモは取れないにゃ。
準備のあと、話す前の自分の気持ちを、ひとりで見つめる時間があったにゃ。そのとき、半分の人は「なぜ私はこう感じるんだろう」と考える。もう半分の人は「なぜ〇〇(自分の名前)はこう感じるんだろう」と、名前や「あなた」で考えたにゃ。
励ましの言葉を唱えたわけじゃないにゃ。変えたのは、気持ちを考えるときの主語だけ。
スピーチは5分。録画を、どちらの組か知らない人たちが「自信がありそうか」「緊張して見えるか」「全体のできばえ」で採点したにゃ。
さらに話し終えたあと、「次の準備をしてきます」と、ひとりで5分待たせたにゃ。その間に何を考えていたかも、書いてもらったにゃ。
名前で考えた組は、どうだったと思う?
・見ていた人から見て、スピーチがよかった
・話したあとの恥ずかしさが少なかった
・待ち時間に、同じ場面をなぞり直すことが少なかった
「私」で考えた組は、話し終えたあと、嫌な気分がはっきり上がっていたにゃ。名前の組には、その上がり方が見られなかったにゃ。
緊張しない人になったわけじゃないにゃ。人前で話すのは、どちらの組にとっても怖いことだったにゃ。
おもしろいのは、5分の待ち時間に書いたことにゃ。「声がふるえて、手もそわそわしてた」と場面をなぞり直すのが、反省会のかたち。
それとは別に、「準備が5分しかなかったんだから、うまくいかなくて当たり前の設定だった」のような気づきを書く人もいたにゃ。名前で考えた組は、なぞり直しより気づきのほうに寄っていたにゃ。
同じ論文の別の実験では、初対面の人にいい印象を残す課題でも、似たちがいが出ていたにゃ。人見知りが強いかどうかにかかわらず、だったにゃ。
名前や「あなた」は、ふだんほかの人のことを話すときに使う言葉にゃ。
その言葉で自分のことを考えると、友だちの話を聞くときのような位置に、ほんの少し下がれる。研究者たちは、これを「自分から距離を取る」と呼んでいるにゃ。
気持ちのまん中にいたまま考える。考えるほど、同じ場面がくり返し浮かびやすいにゃ。
少し外から眺める。友だちに「準備5分じゃ、そりゃ緊張するよ」と言えるように、自分にも言えるかもしれないにゃ。
2017年に脳波を測った研究では、いやな写真を見ながら名前で考えると、感情の反応を示す波が、写真を見て最初の1秒のうちに小さくなっていたにゃ。がんばって抑えるときに出る波は、増えていなかったにゃ。
これは脳波の波の話で、「不安が1秒で消える」という意味じゃないにゃ。ただ、気合いで押さえこむのとはちがう切り替えかもしれない、という説の手がかりにはなっているにゃ。
スピーチは、その日かぎりの緊張にゃ。では、何日も頭を離れない心配ごとならどうか。
2021年の研究では、学生50人に、日ごろいちばん気になっている心配ごとを8つ書いてもらったにゃ。人間関係、仕事や成績、お金、健康、見た目のこと。それぞれを「私」と名前の両方で、15秒ずつ考えては、そのたびに嫌な気持ちを採点してもらったにゃ。
同じ人が、同じ心配ごとを、両方のやり方で考えた平均にゃ。名前で考えたときのほうが、1割ほど軽かったにゃ。
そして、心配ごとが重いものでも軽いものでも、軽くなり方はほとんど変わらなかったにゃ。過去のつらい出来事を思い出す実験でも、似た結果だったにゃ。
ただ、どの実験も、大学の実験室での短い課題にゃ。不安やうつに悩む人が毎日の暮らしで使ったらどうなるかは、研究者たち自身が「これから確かめる」と書いているにゃ。
実験は英語で行われたにゃ。英語では、ほとんどの文に「I」が入る。だから「I」を名前に入れ替えればよかったにゃ。
でも日本語で緊張しているとき、頭の中はたいてい「どうしよう」「もう無理」。主語がそもそも出てこないにゃ。
「どうしよう」に、名前をひとつ足して「〇〇は、何がいちばん心配なんだろう」。入れ替える英語より、ひと手間多いぶん、かえって「いま外から見てる」と気づきやすいかもしれないにゃ。
大人が自分を名前で呼ぶのは、日本だと少し子どもっぽく聞こえるにゃ。でも実験では「あなた」で考えた人も、名前の組に入っていたにゃ。いちばん仲のいい友だちが呼ぶあだ名なら、その人の声で聞こえてきそうにゃ。
実験で差が出たのは、話し終えたあとの5分にもにゃ。会議や面接、飲み会の帰り道に、あの一言を何度も再生してしまうとき。「〇〇は、なんであの一言がこんなに気になってるんだろう」と問い直すと、「準備の時間が足りなかった」のような気づきに、たどり着きやすくなるかもしれないにゃ。
緊張する場面の前、あなたがいちばんやりがちなのはどれ?

友だちが「明日の発表、こわい」と言ったら、
「準備した分は出るよ」と
すぐに言えるのに、
自分には言えない。
そういうこと、あるにゃ。
名前で考えるのは、
自分をその「友だち」の位置に
座らせてみることなのかもしれないにゃ。
緊張がなくなるわけじゃない。
でも、終わったあとに
自分を責め続ける時間は、
少し短くできそうにゃ。
名前で考えても何も変わらない日も、
きっとあるにゃ。
実験室の短い課題で見えたことで、
毎日の重い不安にどう効くかは、
研究者たちもこれから確かめるところにゃ。
それは、あなたのやり方がまずいんじゃなくて、
合う道具がほかにあるだけにゃ。
変えるのは、主語ひとつにゃ。
「どうしよう、私」を、
「〇〇は、どうしたい?」に。
主語をひとつ変えるだけで、
自分のいちばん近くにいる
聞き役になれるかもしれないにゃ。
今夜の帰り道、反省会が始まったら、
一回だけ、名前で呼んでみてほしいにゃ。
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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