
…嫌いなわけじゃない、その疲れを、数えてみた人たちがいるにゃ。
こんな話、聞いたことないにゃ?
愛されてるのは分かる。
でも、なんでこんなにべったり
になるのか。
この疲れには、
30年以上前から名前がついていたにゃ。
1991年に、心療内科の医師が「主人在宅ストレス症候群」と名づけたにゃ。2011年には別の医師が「夫源病」と名づけて、広く知られるようになったにゃ。
どちらも診察室で気づいたことにつけた名前で、正式な病名ではないにゃ。じゃあ、全国の夫婦で数えたら、どうなるのかにゃ。
経済学者のオオシオさん(2021年)は、厚生労働省が同じ人たちに毎年聞いている全国調査を使ったにゃ。
調査のあいだに夫が仕事をやめた妻、3,794人。夫が退職する1年前から5年後まで、心の疲れのものさし(K6・0〜24点)がどう動いたかを追ったにゃ。
夫が退職したあと、妻の心の疲れは平均するとどうなったと思う?
夫の退職のあと1〜2年、
妻の心の疲れは平均ですこし上がり、
5年目にはもとの高さに戻っていた
「夫が家にいるようになってから、しんどい」は、全国で数えても出てきたにゃ。あなたが冷たいから、ではないにゃ。
ただ、平均で見ると上がり幅は小さくて、数年で落ちついていったにゃ。昼ごはんのこと、テレビのこと、出かけるときのこと。暮らしの形がまるごと変わる最初の数年が、いちばん疲れるのかもしれないにゃ。
もちろん平均は平均で、ずっとつらい人がいないわけじゃないにゃ。
それに、動悸やめまい、眠れないといった不調には、更年期やほかの体の病気がかくれていることもあるにゃ。「夫のせい」と決めてしまわずに、気になるときは専門家にみてもらうのが安心にゃ。
この研究には、続きがあるにゃ。夫が退職する前の、妻のふだんの暮らしで分けてみたにゃ。
「参加が多め」は、趣味・運動・地域の行事・子育てや高齢者の手伝いなど6種類のうち、3つ以上に出ていた妻(約3割)。ふたつの線の差は、統計ではっきりとは言えない大きさだったにゃ。
夫とおしゃべり・食事・買い物・趣味などをいっしょにすることが多かった妻も、悪くなっていなかったにゃ。
反対に、外で働いていた妻のほうが、上がり方が大きかったにゃ。
はっきりした答えは、まだないにゃ。いくつか考えられる説明を並べてみるにゃ。
夫が仕事に出ていたあいだ、昼の家はあなたの持ち場だったにゃ。そこにもうひとり、一日じゅういるようになる。新しい割り振りができるまでの数年が、いちばん疲れるのかもしれないにゃ。
趣味の集まりや地域の行事があると、家から離れる時間が自然にできるにゃ。外の予定があった妻が悪くなっていなかったのは、そのせいかもしれないにゃ。
外で働いている妻は、自分の仕事を続けながら、夫が家にいる暮らしにも合わせることになるにゃ。そのぶん負担が重なるのかもしれないにゃ。
2017年に、日本の別のデータを使った研究があるにゃ。2006年の、定年のあとも働き続けられるようにする制度の改正を手がかりに、夫の退職の影響を見積もったにゃ。
夫の退職が早まると、妻がストレスや落ちこみ、眠れなさを訴えることが増えていたにゃ。退職は、家計や夫自身の心の調子も下げていたにゃ。
ただ、気をつけたいところもあるにゃ。
外の予定があったから守られた、とまでは言えないにゃ。外に出ていた妻と出ていなかった妻では、性格などのちがいも混ざっているかもしれないと、研究者自身が書いているにゃ。
アメリカの57〜85歳を調べた別の研究では、退職した人のほうが近所づきあいやボランティアが多かったにゃ。退職が、つながりを増やすきっかけになる人もいるにゃ。
研究の妻たちは、2005年に50代だった人たちにゃ。夫は会社に出かけて、ある年に退職して、ある日から家にいるようになったにゃ。
いまは、少し形がちがうにゃ。
在宅勤務の日に、夫がリビングで会議をしている。定年のあとも、日数を減らして働き続ける。夫が家にいる日は、退職の前からすこしずつ増えているにゃ。研究で見た「最初の1〜2年」の疲れが、前倒しで来ているのかもしれないにゃ。逆に言えば、ふたりの割り振りを先に話しておける時間があるにゃ。
研究で数えたのは、出かけていく集まりだったにゃ。いまは、友だちとのLINEグループや、趣味のオンラインの集まりもあるにゃ。家にいながら外とつながれる糸が、研究の「外の予定」と同じ働きをするかは、まだわからないにゃ。でも、手放さなくていい糸だと、ねこたちは思うにゃ。
夫のスマホに、仕事の連絡がなくなったら何が残るか。家族のグループだけ、という人も少なくなさそうにゃ。いまの数字が、それを見せているにゃ。
内閣府が4か国の60歳以上に同じことを聞いた調査にゃ。日本全体では31.3%で、5年前の調査(25.9%)より増えていたにゃ。
4か国の男女のなかで、日本の男性がいちばん多かったにゃ。毎日の話し相手が職場の人だったなら、退職のあと、その相手があなたひとりになるのは、ありそうなことにゃ。「べったり」は、甘えというより、行き場所の少なさなのかもしれないにゃ。
夫が家にいる毎日になったら(もうなっていたら)、あなたがいちばん守りたいのはどれ?

外に出る予定が多かった妻。
夫といっしょにすることが
多かった妻。
離れる時間と、くっつく時間。
反対に見えるふたつが、
どちらも悪くなっていなかったにゃ。
それで守られた、とまでは
言えない数字にゃ。
ここから先は、
ねこたちの当て推量として
聞いてほしいにゃ。
ふたとおりの妻たちに
共通していたのは、
夫が退職する前から、
一週間の時間割が
もう埋まっていたこと、と読めるにゃ。
「この日は外」「この時間はふたりで」。
疲れるのは、彼がいることより、
「昼は何?」から夕方までの、
まだ空欄の時間のほうなのかもしれないにゃ。
彼のほうも、
会社という欄が
まるごと空いたところにゃ。
空欄と空欄が、
ひとつの家の中で
くっついている。
「べったり」は、
そういう形に見えるにゃ。
この疲れには、
30年以上前から
名前があったにゃ。
まだ白いのは、
ふたりの時間割のほうにゃ。
「水曜の午後は、私のコーラス」。
「金曜は、ふたりで買い出し」。
「彼は、朝の公民館」。
悪くなっていなかった妻たちの一週間は、
たぶん、こんな書きこみで
できていたにゃ。
空いている欄のひとつめに、
あなたなら何と書くにゃ?
猫の国は、優しい人のための場所にゃ。
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