← 研究所RESEARCH No.52あと10分
恋愛・パートナーシップ

「彼の匂いが好き」は、相性のサインなの?

…汗のしみたTシャツを嗅ぐ、1995年の実験があったにゃ。

この研究を一枚で
問い
体の匂いの好みは、相手の免疫に関わる遺伝子の型と関係があるのか
どこで
スイスのベルン大学で、男子学生44人と女子学生49人(Wedekind ほか 1995)
どうやって
男性が2晩着て眠ったTシャツを女性が嗅ぎ、心地よさなどに点をつけた。それを、全員の免疫の遺伝子(MHC)の型と照らし合わせた
わかったこと
女性たちは、型が自分と違う男性の匂いを、より心地よいと感じていた。ピルを飲んでいる女性では、向きが逆だった
その後の研究
2020年にそれまでの研究をまとめた分析では、匂いの好みでも実際のカップルでも、型とのはっきりした結びつきは見つからなかった

こんな話、したことないにゃ?

彼の匂い、なんかすごく好きなんだよね
え、香水?
ううん、たぶん本人の匂い。かぐと落ち着くの
匂いが合う人って遺伝子の相性がいいらしいよ
(じゃあ、いつか合わなくなったら…?)

「匂いが合う人は、相性がいい」。
テレビや雑誌で、
いまもときどき聞く話にゃ。

もとをたどると、
スイスの大学でおこなわれた、
ちょっと変わった実験に
行きつくにゃ。

🧪 研究 汗のしみたTシャツ

2晩着たTシャツと、
49人の鼻

スイスのベルン大学の生物学者ヴェーデキントさんたち(1995年)は、男子学生44人に、新しい綿のTシャツを2晩つづけて着て眠ってもらったにゃ。

そのあいだは香りのない制汗剤を使い、香水も、たばこも、匂いの強い食べものもひかえてもらう。残したかったのは、その人の体の匂いだけにゃ。

次の日、女子学生49人が、ひとりずつ6枚のTシャツを嗅いだにゃ。Tシャツは箱に入っていて、小さな穴から匂いだけをかぐ。匂いの強さ、心地よさ、セクシーさに、0から10で点をつけていったにゃ。

🔬 研究者たちが前もって調べていたこと

全員の、免疫に関わる遺伝子の型。
MHC(人ではHLAとも呼ぶ)といって、
体に入ってきたものを見分ける仕事にかかわる、
ひとりひとり組み合わせのちがう遺伝子にゃ。

6枚の中には、型が自分と似ている男性のものと、
ちがう男性のものが混ぜてあったにゃ。

予想してみるにゃ

女性たちが「心地いい」と点をつけたのは、どちらの男性のTシャツだったと思う?

📊 結果の読み方

心地よかったのは、
自分とちがう型の匂い

📊 わかったこと

女性たちは、免疫の型が自分とちがう男性の匂いを、
似ている男性の匂いより心地よいと感じていた。

ちがう型の匂いは、
いまの恋人や昔の恋人を思い出させることも多かった

「なんだか好き」と思う匂いの向こうに、自分とはちがう体の人がいたかもしれない、ということにゃ。

恋人を思い出した、という話はとくに印象に残るにゃ。鼻が選んでいたものと、実際に好きになってきた人が、どこかで重なっていたのかもしれないにゃ。

もうひとつ、ふしぎな結果があったにゃ。ピルを飲んでいた女性たちでは、好みの向きが逆になって、型が似ている男性の匂いのほうが心地よいとされていたにゃ。

ピルを飲む人の好みがおかしくなる、という話ではないにゃ。体のホルモンの状態によって、同じ匂いの感じ方が動くことがある、ということにゃ。

ただ、気をつけたいこともあるにゃ。調べたのは、Tシャツの匂いへの点数まで。その人と付き合いたいか、付き合ってうまくいくかは、この実験では聞いていないにゃ。

🤔 なぜ、ちがう型に惹かれるのか

子どもの免疫を
「広く」しておく、
という説

研究者たちが考えていた説明は、こうにゃ。

型が似ている相手だと

子どもの免疫の型が、かたよりやすい

両親から似た型を受けつぐと、見分けられる病原体の幅がせまくなるかもしれないにゃ。

型がちがう相手だと

子どもの免疫の型が、広がりやすい

いろいろな型を受けつぐと、次々に姿を変える病原体にも、対応できる幅が広がるかもしれないにゃ。

ネズミでは、匂いで型のちがう相手を選んでいる、という研究が先にあったにゃ。人でも、その見分けを鼻がしているのかもしれない。ヴェーデキントさんたちの実験は、それを確かめにいったものにゃ。

型が似ている相手には血のつながった家族も多いので、近すぎる相手を避ける働きだ、という見方もあるにゃ。どちらも説で、決まった仕組みではないにゃ。

🔍 その後の研究

たくさんの研究を
まとめてみたら

この実験は有名になって、そのあと、あちこちの国で似た研究がつづいたにゃ。

2020年には、それまでの研究をまとめて分析した人たちがいるにゃ。

予想してみるにゃ

まとめて調べたら、「型がちがう相手に惹かれる」は、どうなったと思う?

匂いの好み

Tシャツを嗅ぐ実験をまとめると

型のちがいと匂いの好みのあいだに、はっきりした結びつきは見つからなかったにゃ。

実際のカップル

夫婦や恋人の遺伝子を調べると

本当にいっしょになったふたりが、型のちがう組み合わせになりやすい、とは言えなかったにゃ。

ふたりの満足

型がちがうほど、仲がいい?

これも、はっきりした差は出なかったにゃ。うまくいった結果ほど発表されやすい、という偏りも見つかったにゃ。

ドイツでカップル250組あまりを調べた別の研究のように、型のちがいが大きいふたりほど性の満足が高かった、という報告もあるにゃ。だから「関係ない」と言い切れるわけでもないにゃ。

いま言えるのは、匂いと免疫の型の話は、まだ決着がついていないということにゃ。少なくとも、相性を見分けられるほどの確かな仕組みではないにゃ。

🧺 今に置き換えて考える

実験で消した香りに、
いまの暮らしは
包まれている

1995年の実験では、香りのつくものを遠ざけて、体の匂いだけを残したにゃ。

いまの日本の暮らしは、ちょうどその逆かもしれないにゃ。柔軟剤、シャンプー、制汗シート。ドラッグストアには、香りをつける品と、匂いを消す品が並んでいるにゃ。

洗濯かごの中で

「彼の匂い」は、ひとりぶんの匂いじゃない

服の柔軟剤、髪のシャンプー、部屋の匂い。そこに、本人の体の匂いが少し混ざっているにゃ。いっしょに暮らして同じ洗剤を使えば、ふたりの服はだんだん同じ匂いになっていくにゃ。「なんか好き」は、その人の暮らしまるごとの匂いなのかもしれないにゃ。

匂いが変わった日

「前は好きだったのに」は、相性の答えじゃない

体の匂いは、疲れや食べもの、季節、年齢で変わっていくにゃ。嗅ぐ側も同じで、この実験ではホルモンの状態で好みの向きまで変わっていたにゃ。夫の枕の匂いがふと気になる日が来ても、それだけで「相性が悪かった」と決めなくていいにゃ。

離れて眠る夜

相手のパーカーを借りて眠る

出張や単身赴任、遠距離の夜。別の研究では、恋人が1日着たTシャツを嗅いだ女性は、緊張する課題の前もあとも、ストレスを軽く感じていたにゃ。知らない男性のTシャツでは、ストレスのホルモンが高めだったにゃ。効いていたのは、型のちがいより知っている匂いだったのかもしれないにゃ。

あなたならどれ?

あなたが「この匂い、落ち着く」と思うのは、どれにいちばん近い?

🐱 猫の国の研究所より

箱の穴の向こうに
いた人

箱の小さな穴から嗅いだとき、
女性たちは、だれのTシャツかを
知らなかったにゃ。

それでも、心地いいと点をつけた匂いは、
いまの恋人や、昔の恋人を
思い出させることが多かったにゃ。

それが遺伝子の型のせいだったのかは、
2020年のまとめを見るかぎり、
わからないままにゃ。

20年あまりあとの別の実験でも、
女性たちは、どれが恋人のシャツかを
知らされずに嗅いだのに、
ストレスを軽く感じていたにゃ。

「匂いが合う」の正体は、
遺伝子の答えというより、
鼻がもうその人を覚えている、
ということなのかもしれないにゃ。

1995年のスイスと、2018年のカナダ。
別々のことを調べたふたつの実験を、
横に並べて読んでみただけで、
つないで確かめた人は、まだいないにゃ。

👕

「彼の匂い」があるなら、
あなたの匂いを
覚えている鼻も、
どこかにあるにゃ。

いつもの洗剤に、いつものシャンプー。
そこに少しだけ混ざる、あなたの体の匂い。

嗅いだだけで肩の力がぬける匂いは、
だれかにとっての、
あなたなのかもしれないにゃ。

あなたの匂いを
いちばんよく知っているのは、
だれにゃ?

📚 参考文献

この記事で紹介した研究

📋 研究所のほかのレポートにゃ

💕
RESEARCH No.51

よかったのに、終わったあと涙が出るのはなぜ?

…大学に通う女性の半分近くに、一度は覚えがあったにゃ。

💕
RESEARCH No.53

体が反応しても、「その気がある」とは限らない?

…体と気持ちは、別々に動くことがあるにゃ。

💕
RESEARCH No.50

恋人に本気だと、とびきり素敵な人も「なんか違う」に見える?

…顔のよさは見えているのに、なぜか粗が先に浮かぶ。そのわけを、のぞいてみたにゃ。

Wedekind, C., Seebeck, T., Bettens, F., & Paepke, A. J. (1995). MHC-dependent mate preferences in humans. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 260(1359), 245-249. リンク
Havlíček, J., Winternitz, J., & Roberts, S. C. (2020). Major histocompatibility complex-associated odour preferences and human mate choice: near and far horizons. Philosophical Transactions of the Royal Society B, 375(1800), 20190260. リンク
Kromer, J., Hummel, T., Pietrowski, D., Giani, A. S., Sauter, J., Ehninger, G., Schmidt, A. H., & Croy, I. (2016). Influence of HLA on human partnership and sexual satisfaction. Scientific Reports, 6, 32550. リンク
Hofer, M. K., Collins, H. K., Whillans, A. V., & Chen, F. S. (2018). Olfactory cues from romantic partners and strangers influence women's responses to stress. Journal of Personality and Social Psychology, 114(1), 1-9. リンク
上記の研究知見をもとに、ニャンタルヘルスが独自に構成・考察したものです。原論文の翻訳ではありません。記事の内容は情報提供を目的としたものであり、医学的・心理学的な診断やアドバイスではありません。つらい状況にいる方は、信頼できる専門家にご相談ください。

著者:研究所のねこたち|ニャンタルヘルス
🐱 猫の国 研究所 ― nyantal.com