私には、火曜日だけの楽しみがある。
それは、朝のパン屋だ。
近所に小さなパン屋がある。火曜日だけ、クリームパンを焼く。他の曜日はない。火曜日だけ。なぜ火曜日なのかは知らない。でも、それが私の楽しみになった。
最初は偶然だった。たまたま火曜日の朝、そのパン屋の前を通りかかった。店の前に「本日のおすすめ:クリームパン」と書いてあった。何気なく買ってみた。
食べた瞬間、驚いた。こんなに美味しいクリームパンがあるのか、と。生地はふわふわで、クリームは甘すぎず、少しだけバニラの香りがする。完璧だった。
次の週の火曜日、私はまたそのパン屋に行った。今度は意識的に。クリームパンを買って、公園のベンチで食べた。やっぱり美味しかった。幸せな気持ちになった。
それから、毎週火曜日が楽しみになった。
月曜日が辛くても、「明日は火曜日だ」と思うと、少し頑張れる。火曜日の朝、パン屋に向かう道。少し早起きして、焼きたてのパンを買う。その瞬間が、私の一週間の中で一番幸せな時間かもしれない。
誰かに話したら、笑われるかもしれない。「たかがパンじゃないか」と。でも、私にとっては違う。これは、生きる理由の一つなんだ。
人生には、大きな幸せもあれば、小さな幸せもある。結婚、出産、昇進、そういう大きな出来事だけが幸せじゃない。火曜日のクリームパン。それも、立派な幸せだ。
私はずっと、大きな幸せを追いかけていた。「いつか」「もっと」「まだ足りない」。そう思いながら生きてきた。でも、気づいたんだ。幸せは、もっと近くにあるんだって。
火曜日のクリームパン。温かいお茶。晴れた日の散歩。好きな音楽。布団の中の温もり。そういう小さなことが、私を支えている。
大きな幸せは、いつ来るかわからない。もしかしたら、一生来ないかもしれない。でも、小さな幸せは、今ここにある。毎日、どこかにある。それに気づけるかどうか。それが、生きやすさを決めるんだと思う。
来週も、火曜日が来る。また、あのパン屋に行く。クリームパンを買う。それだけで、私は一週間を乗り越えられる。
もしあなたが、今辛い日々を過ごしているなら。小さな楽しみを、一つだけでも見つけてみてほしい。それは何でもいい。コーヒーでも、花でも、音楽でも、空の色でも。
その小さな楽しみが、あなたを支えてくれる。生きる理由になってくれる。
火曜日は、もうすぐだ。
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