ベランダに、鳩が来る。
毎朝、同じ時間。7時15分くらい。
最初は、追い払おうとした。
鳩って、フンするし、汚いし、なんか怖いし。
「シッシッ」
手を振ると、飛んでいく。でも、次の日また来る。
しつこいな、と思った。
ある朝、なんとなく眺めてみた。
追い払わずに、ただ見てた。
鳩は、手すりの上をちょこちょこ歩いてた。首を傾げて、こっちを見た。
目が合った。
「なんだよ」
鳩は何も言わない。当たり前だけど。
でも、なんか、「おはよう」って言われた気がした。
それから、追い払うのをやめた。
毎朝、鳩が来る。私は、コーヒーを飲みながら眺める。
鳩は、しばらくちょこちょこして、飛んでいく。
それだけ。
それだけなのに、なんか良い。
友達に話したら笑われた。
「鳩に癒されてるの?変なの」
変かもしれない。でも、本当なんだもん。
この鳩、たぶん同じ鳩だと思う。
足に、ちょっと茶色い模様がある。
勝手に、「ポポ」と名付けた。
ポポは、毎朝来る。雨の日も来る。
「今日も雨の中、来たの?偉いね」
話しかけてる自分に気づいて、ちょっと恥ずかしくなる。
でも、誰も見てないからいいや。
ポポは、私のことをどう思ってるんだろう。
「餌くれない人間」かな。「毎朝いる人」かな。
何も思ってないかもしれない。鳩だし。
でも、毎朝来るってことは、嫌われてはいないのかな。
そう思うと、ちょっと嬉しい。
最近、ポポが来ないと心配になる。
「今日、遅いな」
「どこか行ったのかな」
「まさか、猫にやられた?」
そわそわしてると、来る。いつも通り、ちょこちょこ歩いてる。
「なんだ、いるじゃん」
安心する。
たかが鳩。されど鳩。
私の朝は、ポポが来ることで始まる。
ポポを見送ってから、仕事の準備をする。
この順番が、なんか大事。
ある日、ポポがもう一羽連れてきた。
「え、友達?恋人?」
二羽で、ちょこちょこしてた。
なんか、嬉しかった。
「ポポ、友達いたんだ。よかったね」
また話しかけてる。もう慣れた。
小さな日常。何も起こらない毎日。
でも、ベランダに鳩が来る。
それだけで、今日も生きていける気がする。
大げさかもしれない。でも、本当にそう思う。
もしあなたも、何気ない毎日がしんどいなら。
窓の外を、眺めてみてほしい。
鳩がいるかもしれない。猫がいるかもしれない。雲が流れてるかもしれない。
小さな何かが、あなたの朝を待ってるかもしれない。
ポポ、明日も来てね。
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*© 2025 匿名の鳩観察員*