冬になると、缶コーヒーを買う。
別に、コーヒーが飲みたいわけじゃない。
温かいものを、手に持ちたいだけ。
自販機の前に立つ。光ってるボタンを見る。赤いやつが、温かいやつ。
「あったか〜い」
このひらがなが、なんか好き。
ボタンを押す。ガコン、と落ちてくる。
取り出し口から拾い上げる。
あったかい。
両手で包む。
じわ、と熱が伝わってくる。指先から、手のひらへ。手のひらから、体へ。
この瞬間のために、缶コーヒーを買ってる。
歩きながら、ずっと持ってる。
飲まない。まだ飲まない。
だって、飲んだら減っちゃうから。温かさが、なくなっちゃうから。
信号待ちで、また両手で包む。
ほう、と息を吐く。白い息が出る。
寒い。でも、手は温かい。
それだけで、なんか幸せ。
いつも思う。私、単純だなって。
缶コーヒー一本で、こんなに満たされてる。
でも、それでいいと思う。
大きな幸せは、なかなか来ない。でも、小さな幸せは、130円で買える。
職場に着く頃、缶コーヒーがぬるくなってる。
やっと飲む。
「ぬるい」
でも、それでいい。ちゃんと温めてもらったから。
夏は、こうはいかない。
冷たい缶を持っても、「冷たい」で終わり。あの、じわっと温まる感じがない。
だから、冬が好き。
寒いのは嫌い。でも、缶コーヒーを両手で包めるから、冬が好き。
帰り道も、買う。
朝と夜で、二本。
贅沢かもしれない。でも、260円で二回も幸せになれるなら、安いと思う。
今日も寒い。
でも、大丈夫。
帰りに缶コーヒー買うから。
両手で包んで、ゆっくり帰るから。
それだけで、今日を乗り越えられる。
もしあなたも、寒くて辛いなら。
缶コーヒー、買ってみてほしい。
飲まなくていい。ただ、両手で包むだけでいい。
小さな温もりが、心まで届くから。
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