あなたがいない、最初の朝が来た。
目が覚めて、隣を見た。
誰もいない。
当たり前だ。昨日、あなたは死んだ。
でも、体が覚えてない。手が隣を探す。温もりを探す。
冷たいシーツだけが、そこにあった。
起き上がれなかった。
起き上がる意味が、分からなかった。
あなたがいない世界で、なんで私が息をしてるんだろう。
なんで、心臓が動いてるんだろう。
止まってほしかった。何もかも、止まってほしかった。
人が来た。親戚が来た。友達が来た。
「大丈夫?」
大丈夫なわけない。でも、頷いた。
「何かあったら言ってね」
何を言えばいいか分からない。「あの人を返して」って言っても、誰にも返せない。
葬儀があった。
たくさんの人が来た。みんな泣いてた。
私は、泣けなかった。
涙が出なかった。枯れたのかもしれない。壊れたのかもしれない。
ただ、座っていた。
あなたの写真を、見ていた。
笑ってる。あなたは、笑ってる。
なんで写真の中のあなたは笑えるのに、本物のあなたはいないんだろう。
意味が分からなかった。
葬儀が終わって、家に帰った。
静かだった。
あなたがいた頃は、テレビの音がした。「おかえり」の声がした。ご飯の匂いがした。
今は、何もない。
静かすぎて、耳が痛かった。
一週間が過ぎた。
ご飯を食べなきゃと思った。でも、食べ方を忘れた。
お腹が空いてるのか空いてないのか、分からなかった。
とりあえず、パンをかじった。味がしなかった。
夜は、眠れなかった。眠ると、夢にあなたが出てくる。
夢の中で、あなたは生きてる。笑ってる。話してる。
起きると、いない。
夢と現実の落差で、毎朝壊れそうになった。
一ヶ月が過ぎた。
少しずつ、泣けるようになった。
夜、一人で泣いた。声を出して泣いた。
誰もいないから、好きなだけ泣いた。
あなたの服を抱きしめて、泣いた。
まだ、あなたの匂いがした。
いつか消えるんだろう。それが怖くて、袋に入れて閉じた。
三ヶ月が過ぎた。
「そろそろ元気出して」
そう言われるようになった。
元気って、なんだっけ。
笑えばいいのかな。外に出ればいいのかな。
分からないまま、笑ってみた。
顔が引きつった。
でも、みんなは安心したみたいだった。
「良かった、元気になって」
元気になんか、なってない。
でも、言わなかった。
言っても、分からないだろうから。
半年が過ぎた。
ある朝、窓を開けた。
風が気持ちよかった。
「あ」
それだけ。でも、久しぶりに何かを感じた。
風が気持ちいいって、半年ぶりに思った。
その日、外を歩いた。
空が青かった。当たり前のことなのに、久しぶりに見た気がした。
あなたがいなくなってから、空を見てなかった。
いつも下を向いてた。
今日は、少しだけ上を向けた。
一年が過ぎた。
まだ、毎日あなたのことを考える。
写真を見て、話しかける。「今日、こんなことがあったよ」って。
返事はない。でも、聞いてくれてる気がする。
悲しみは、消えない。
消えないけど、形が変わった。
最初は、刺すような痛みだった。息ができないほどの痛み。
今は、鈍い痛み。ずっとそこにある。でも、息はできる。
あなたがいない世界で、私は生きてる。
生きていいのか、まだ分からない。
でも、生きてる。
あなたが愛したこの体を、あなたが好きだった私を、簡単に終わらせちゃいけない。
そう思えるようになった。
あなたのいない朝が、何百回も来た。
これからも、来る。
でも、もう少しだけ、生きてみようと思う。
あなたの分も、とは言わない。そんな大層なことじゃない。
ただ、あなたを愛した私として、もう少しだけ。
それでいいよね。
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